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2007.02.04 Vol.1
マサイ・マラ国立保護区サファリツアー第二日目(午前編)
ケニア:マサイ・マラ |
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朝6時半に起床。
残念ながらあまり天気は良くない。昨晩も大分雨が降っていた。
ケニアは来月から3ヶ月間大雨季に入る。11月から12月中旬は小雨季と呼ばれているので、2月は丁度、雨季の中休みのような月だ。しかし、大雨季と小雨季にはさまれた時期なので、月間の降水量は乾季の6月から10月と比べると格段に多い。こうした天気も想定のうちだった。
サファリ中に降らなければいいけどねぇ。朝食の会話はそんな内容だった。
7時半に出発ということで準備をしていたら、テントの上が騒がしい。昨日見たバブーンではないが、別の種類の猿がテントを狙っているようだった。食べ物は全て持ったし、テント内に魅力的なものはないはず。それでも、猿と万が一の人間に備えて、テントのチャックを閉めてそこに南京錠をかけた。
7時40分にマイケルが登場。早速車に乗り込んでゲーム・サファリに出発だ。
と、走り始めて20分、マイケルが車を停めた。またパンクか?と思って、皆ぞろぞろと車を降りると、左後輪のねじが一つはずれてなくなっている。
むむむむ。これはドライバーの整備不良というしかない。そういえば、2005年に南米ボリビアでウユニ塩湖を巡る4WDのツアーを行ったのだが、その時のドライバーは非常に車の点検に気を配っていた。休憩で停車する度に、ボンネットを開け、車の下に入り、各タイヤを点検。宿に落ち着くと車を掃除して、またボンネットを開けて点検していた。ウユニ塩湖のオフロードツアーでは他の車とすれ違う確立は低く、ボリビアというお国柄、携帯電話も発達していないので、車の故障は文字通りに命取りになる可能性があるのだ。それに比べると、サファリでは多くの他の車が出ているし、町までの距離もそんなに離れていないし、携帯電話が使える。こうした状況から、ちょっと緊張感のない点検になってしまうのだろうか。
ねじが一つなくなったというのは由々しき事態だったが、スペアのねじもないので、他のねじをきっちりと締めてでかけるしかなかった。この日は途中で何回もすれ違う車にスペアのねじを持っていないか聞いて歩いたが、結局持っている人はいなかった。ゲーム・サファリは昨日の移動よりは走行が激しくない。それも幸いして、ねじ1本なしの状態でもなんとか一日を無事に過ごすことはできた。
ねじのないのは不安だったが、再び走り始めてすぐに林の中からキリンがにょっきりと顔をあらわすと、そんな不安は吹き飛んでしまった。
茶色の斑点の周囲がギザギザしているこのキリンはマサイキリンと呼ばれる種類で、この後見たキリンは全てこの種類だった。日本の動物園で見かけるのは、もっとスッキリとした亀甲模様が入っているアミメキリンなので、マサイキリンは初めて見たことになる。
それにしても、正面から見るキリンの顔って、かわいい。
我々が行こうとしている道から次々とサファリカーが戻って来ている。
私たちのように国立保護区外にキャンプ地があるのと違って、保護区内にある高級ロッジに宿泊している場合は、夜明けと共にサファリに繰り出すとも聞いている。肉食動物がハンティングをする時間帯は早朝なのだそうだ。
車とすれ違う度に、お互いの情報交換を行うのが常なようだ。もちろん、マイケルはタイヤを止めるねじを持っていないかも合わせて聞いているようだった。
こうしてすれ違う車から情報を聞いては、今後の進路を決めていく。
昨晩の雨で道はぬかるんでいるが、進行に支障をきたすほどではなかった。大物はまだ見つからないが、足が黄色くて尾っぽの先が黒い、イエローフットプルオーバーという鳥や遠目にシマウマ、インパラなどを観察できた。
先ほどすれ違ったドライバーから情報を得たのか、それともマイケルの自力で探したのかわからないが、車の走る道にはさまれた草原の一角の中に、メスのライオンを発見。
といっても発見したのはマイケルで、草に紛れてしまったライオンは言われてからようやく気づくような存在だった。
ライオンは目を凝らして見ているうちに草原の中に入って消えてしまった。残念!
ところが反対側の道で出てみると、草原に消えたはずのライオンがひょっこりと道をうかがっているではないか。声をおとしながらも「おお、ライオンだー、ライオンだー」と車内は大騒ぎとなった。
車を停車させ、持ち上げた天井から顔を出して全員息を詰める。彼女はこちらには全く注意を払っていないようだった。足を前に出す度に、肩の筋肉がギュッと寄せられて盛り上がる。しなやかに威風堂々と私たちを一瞥もすることなく道を横切って行く様は、まさに女王様の風格だった。ライオンが去ってからも、その姿を草原に探し出そうと、私たちはしばらくサバンナを見つめていた。で、本当に姿が見えなくなり、「これぞ、まさにマサイ・マラサファリの醍醐味だ!」と誰かが言うと、一同大きくうなずき、全く凄かったと、堰を切ったように今の興奮を口々に語り始めたのだった。
その数分後、今度は遠くのサバンナに黒い岩が点々として見える場所に出ると、マイケルは黒い点々を指差して「象だ」と短く言った。
この地点からは日本人では肉眼で識別できない。マイケルの視力っていったいいくつなんだろう。
近づいていくと、本当に象だった。
マイケルいわく、象のグループは大人のメスと子供だけで構成されていて、このグループは年長のおばあちゃん象がコントロールしているのだそうだ。寿命は70年ほどなのだが、オスは4歳〜5歳になると群れを離れて一人で暮らさなければならないのだそうだ。人間と比べると、随分早い独り立ちだ。大人の象は5トンもあり、一日に食べる草の量は250kg。妊娠期間は24ヶ月。象同士は超音波で話をしているのだそうだ。へー、知らないことばっかり。
象のいる場所は道からずっとサバンナの中に入った所だった。カンカン照りの日々が続く乾季ならば、サバンナの中に入ってもっと近づくのだそうだが、今の時期は土壌が雨で緩んでいるので入れないということだった。やはりサファリは乾季がお勧めなのだろう。
ソーセージのような実をつけている木はその名もソーセージツリーというんだ。とマイケルの説明を聞きながら、カメラを向けると、いつの間にか青空がのぞく天気になっていた。
たなびくグレーがかった雨雲を残しながらも、サバンナを渡ってくる風は乾き始めている。てっぺんが平らなアカシヤの木、ソーセージツリーとこの乾いた風。アフリカのサバンナの印象が体の中にじわーっと浸透していくのだった。
午前10時。すれ違う車にメスライオンと象の発見場所を教えているマイケルは、小鼻をひくつかせて得意そうに見えた。
車に乗っている観光客同士も情報交換。「あっちでライオンと象を見たよ」と言うと、反対車線の車は「何?ライオン?」と沸き立った。
お陰で私たちも得意げに小鼻をひくひくさせることになった。ライオンは偉いのだ。
その10分後の午前10時11分、再びキリンを発見。今度は朝よりも近い。恐れるどころか、こちらに近づいてくるキリンに心の中で拍手喝采しながら、そろーりそろーりと車で近づいていった。
あ、こっち見た。見詰め合う人間とキリン。
それにしても、間近でキリンを見るとその首の太さに驚く。というか、全体的にアンバランスなんだよねー。体に対して首が太くて長すぎる。で、顔がものすごく可愛い。
本当に変わった生き物だ。
人間が見ていることに気づいたら、急に歩みを早めて去っていった所と見ると、人間を怖がっていないわけではなく、今まで気づいていないってことなのね。
30分後の午前10時46分に2台の車が停車している場所に到着。
ここでマイケルが細かく足元の糞ころがしを指摘。糞ころがしって名前は聞いたことがあるが、実際に糞をころがしているのは始めてみた。
自分の体よりも大きな糞を逆立ちして後足で器用に転がしながら後ろに進んでいくのだった。
さて、他のサファリカーで熱心に双眼鏡をのぞいている先には、トピとハーテビーストの群れがいた。
ハーテビーストの子供はトピをおじさんとでも思っているのだろうか、親子のような距離にいるのが面白い。トピは毛が短いのだろうか、体つきは無駄な脂肪がなく、サラブレッドのように引き締まってテカテカとしている。
この地点から10分ぐらい離れた場所には、バッファローの群れ。バッファローのいる場所にはコバンザメのように白い鳥が群がっているので、みつけやすい。白い鳥はバッファローの背中についた虫を食べて共生の関係にあるそうだ。
バッファローが敵視しているのはライオンなどの肉食獣の他に人間なのだそうだ。バッファローの肉を求めて狩を行う人間に対して、非常に警戒心を持っている。万が一近くに来た場合は、こちらに襲い掛かってくるのだそうだ。
あの強烈な角を振りかざして突進されてきたら、我々はひとたまりもない。遠くから見ているだけだが、それでも迫力を感じる集団だった。
11時50分、インパラ、ガゼル、ハーテビースト、いのししなど草食動物が目白押しの草原を走る。
インパラは昨日と同じくメスの群れの中で一匹だけオスのいる集団だった。
横腹に黒い横線が入っているトムソンガゼルと似ているが、インパラは両尻に縦に黒い線が入っている。
オスは体に見合わない程立派な角がついているので、メスとの違いは明らかだ。一匹でこんなに大勢のメスの面倒を見られるくらいだから、相当の実力の持ち主でなければこの地位につくことはできない。ハーレムにいるインパラのオスは男の中の男なのだ。
ウォーターバックは初めての登場だ。今まで見てきたレイヨウ類の中では一番毛足が長い。顔のまわりが丁度レイヤーカットみたいだし、目の周り、鼻の周り、お尻が白く、耳がフワッと大きい。角がないのでメスだと思われるが、「いい女」的色気が漂うたたずまいだった。
これらの草食動物がいるサバンナを左手に見ていると、右手の先にダチョウ発見。ダチョウに向けてそろそろと車を進めていたら、左手にハイエナの姿が見えてきた。
ハイエナは昼時の泥浴びをしている最中だったが、私たちの車の音を聞きつけ「邪魔するなよぉー」と渋々、気持ちのいい泥風呂から腰を上げて逃げ始めた。私はハイエナに対して、ライオンの食べ残した肉をあさるサバンナの掃除人という、ちょっと後ろ暗いイメージを持っていたのだが、実際のハイエナはともするとライオンよりも狩が上手だというマイケルの説明だった。
見た目も笑っているような気弱な雰囲気で、持っていたイメージとは随分違うという気がした。
ハイエナを追い越して、なおもダチョウを追いかけていく。
つがいのダチョウは、ゆっさゆっさと緩やかに遠ざかっていく。ゆっくりと遠ざかっていっているように見えるが、なかなかのスピードだった。
かなり近づいて驚いたのはその大きさ。ダチョウは鳥類で最大だという常識をもってしても、うわっ、こんなに大きかったのかと驚くほどだった。南米のパタゴニア地方には、これに似たニャンドゥという鳥がいた。ニャンドゥも鳥にしたら大きい。南米でいうところのニャンドゥがアフリカのダチョウなのかなぁと思っていたのだが、ニャンドゥの騒ぎではない。ダチョウの方がはるかに大きかった。子供だったら余裕で馬のようにまたがって走れるくらいなのだ。
それにしても歩き方が優雅。普段見慣れている鳩やすずめや鶏のようにせわしなく歩くのではなく、ゆっくりと歩く。その歩調に合わせて全体の羽がわっさわっさと揺れて、フランス貴婦人がバカンスしているようだ。そんなイメージもあってオーストリッチってのは高価で取引されているのだろうか。オーストリッチのカバンを買うお金でサファリに来て生きているオーストリッチを見た方が楽しい。つがいのダチョウは、遠くに見える群れに向かっているようだった。
時刻は12時半。そろそろお昼ご飯かなぁと思っていたら、目の先にまた別のサファリカーが停車している。今度は何だろうかと、サファリカーの近くに目をやると、おおお、ついに出た。オスライオンの登場だ。
サファリカーの天井からごっそりと人間が顔を出して撮影しているというのに、全く動く気配がない。というか、お腹がいっぱいで動くのが大儀で仕方ないらしかった。
私たちが近づいた時には、昼寝の態勢に入っていた。
おーい、起きろー! |
あ、起きた、起きた |
って、なんちゅう格好してますの、恥ずかしー。 |
あ、単なる寝返りだったわけですね。 |
狩をしている勇ましいライオンを期待していたのだが、今朝見たメスライオンの威厳に比べると、月とすっぽんのようなだらしのなさ。しばらく見ていたが、ゴロゴロ、ゴロゴロとしているだけで起き上がりそうにもなかった。
反対側の木の上には、メスライオンがいた。かなり大きな体なのだが、細い枝に体を渡して、うまくバランスを取っている。大きな手が見えているのでそれとわかるが、それがなければ見落としてしまうほど上手に隠れていた。
しばらくメスを観察して、もう一度オスに戻ってみると集まってきた車をうるさいと思ったのか、ようやく立ち上がっていた。
人間は、そんなライオンに釘付け。一番近くにいるおじさんなんか、目の真下にライオンがいるんだから、結構ドキドキものだろう。カッと後ろを振り返ってちょっとジャンプされたら、食われてしまう距離なのだ。もっと見たいでも怖いってな感じで、背筋の緊張がこっちまで伝わってくるようだった。
でもそんな心配も無用で、ライオンはハイエースの横に移動すると、再びそこでゴロッと横になり、もう今度は寝返りさえも打たなくなってしまった。
「さぁ、もうお昼ご飯にしよう」とマイケルが車をユーターンさせた。そういわれれば、時刻はもう午後1時。お腹すいたなぁ。
それにしても午前中だけでもかなりの動物を見ることができた。こんな30分ごとくらいにバンバンと色々な動物が見られるとは思ってもみなかった。一日サファリして、午前中と午後にちょっと見られるくらいだと思っていたので、もうかなり満足。マサイ・マラは本当に野生動物の宝庫なのだ。
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