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2007.04.29
ラヌマファナ国立公園Parc National de Ranomafana
マダガスカル:ラヌマファナ |
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今日は公園内をトレッキング。ラヌマファナ国立公園は拠点の村から7kmも離れている。高級ホテルは公園の入口と村を結ぶ公園寄りに位置していて、おそらく送迎の車も出るのだろうが、村のはずれのホテルに宿泊している我々は、村の中心の市場からタクシー・ブルースで公園入口まで行くことになる。
宿の主人に相談すると、朝のうちならタクシー・ブルースに乗れるだろうという話だった。タクシー・ブルースの運賃は一人Ar1500(約US$0.75)。もしタクシー・ブルースが来ない場合は、Ar10000(約US$5)で車を出す者がいると、ドライバーの名前と彼が常駐しているホテルを教えてくれた。
朝6時45分に宿を出て7時前に市場に到着。確かに赤いタクシー・ブルースが停車していたが、客どころかドライバーさえも乗っていない状態で、この分では何時に出発するかわからない。周囲の村人は8時には出発するだろう、いや遅くとも10時には行くとまちまちの意見であてにならなかった。しかも、今日は日曜日だった。
公園の開園時間は午前8時。シファカと呼ばれるキツネザルが出没するのは朝一番の時間帯だと言われている。このままタクシー・ブルースの出発を待っていると遅くなってしまいそうだなぁ、どうしようかなぁと思案していると、「公園まで行くのかい?」とタイミングよく声をかけてくる男がいた。タイミングのいい奴には目的がある。そう、彼は車を持っているのでAr10000で公園まで送ってあげようというドライバーだったのだ。
まぁUS$5だし、それでもいいかなぁとも思ったが、マダガスカルに来てからヒッチハイクに何度か成功している我々は、今回も通りすがりの車に乗せてもらえないかと考え始めた。ドライバーにヒッチハイクを試みるからチョット待ってと言って、ヒッチハイクに挑戦。1台目は村の人を乗せてどこかに行く車。ピックアップトラックの荷台に座席が取り付けてあり、2人くらいはまだ乗れそうだった。しかし、運転手は私たちに声をかけてきたドライバーに遠慮しているのか、「この車はプライベートだからダメだ」の一点張りで全く耳を貸そうとしなかった。そうか、小さな村だからヒッチハイクに応じたら、後の生活に支障を来たすんだなぁ。まさに村社会の構図が1台目にして見えた。
ってことは、流れ者の車を探さなくてはいけない。ということで、村人らしき車は無視してしばらく待っていると、天井に果物を積んだ4WDの車がやってきて停車し、中から黒人系のドライバーと国籍不明の中国人のようなフィリピン人のような日に焼けたアジア系の男たちが降りてきた。お、この顔はよそ者に違いない。一番年長者で一番風格のある男にヒッチハイクを申し出てみた。彼は他の仲間に何かを言い「今から朝食を食べるので、その後なら乗せていってあげるよ」。やったー、成功だ。最初に声をかけて来たドライバーはこの時点でいなくなった。
7時半前に彼らは朝食を終えて一緒に車に乗り込んだ。そんなに英語も通じないので、車の中は比較的静か。ぽつりぽつりと向こうから質問されるのに答えていた。それから夫が「あなたたちはお仕事か何かで?」と先方に質問をぶつけると、質問された男は仲間たちに「ビジネスかって聞いているよ」と言って、男たちはフフフと笑い誰もそれには答えなかった。うわっ。何だこの人たちは。も、もしかしたらマフィアかもしれない。密輸の途中だったのかもしれない。私たちは暗黙の了解でこれ以上突っ込んで聞いてはならないと悟り、話題を変えてごまかしているうちに公園に到着。「ボン・ボヤージュ」と年長の男が言い、私たちもお礼をいいながら「少ないですが」とAr2000(約US$1)を差し出した。
すると年長の男は「ほら、Ar2000だってよ、どする?」というように運転手の方を向いた。運転手も苦笑しながら首を横に振る。男は私たちに「いやいや、いいから、いいから」と言って受け取らなかった。
私の妄想が暴走する。「何千万円、何億円って金を転がしている俺にたった100円を渡そうってのかい?笑わせてくれるねぇ」という行間の声が聞こえてきたような・・・。いや、本当にいい人だったんですけどね、どこかちょっと緊張感の走るヒッチハイクだった。
もう一つの印象もある。前回トラックに乗せてもらった時、運転手はAr2000を「こんな大金!」と目を見開いて受け取っていたのに、今回は鼻先で笑って受け取らなかった。今回は偶然にも超金持ちだったのかもしれないが、同じマダガスカル人でこんなに反応に違いがあるという事がこの国の貧富の差の激しさを感じさせた。
そんな思いもありつつ、午前7時35分に公園入口で記念撮影。その奥にあるANGAPと呼ばれる公園オフィスを訪ねた。
入園のチケットを購入しようとするとガイドの名前を聞かれる。
そこで初めてわかったのだが、まずガイドを決めてからこのオフィスに立ち寄って入園料金を支払い、トレッキングの後にガイド料金を支払うのが通常の手順らしい。というのも、ここまでタクシー・ブルースで自力で来る人は少ないので、宿で公園までの交通とガイドを決めてしまうことが多いためだろうと思われた。
ガイドかぁ。と思っていたら、今朝、村の市場で言葉を交わした英語の話せるガイドの青年がやってきた。彼は今日、若いスペイン人のカップルのガイドを請け負っていて、ここから5〜6時間、公園内を歩きながら村まで帰る丸1日のトレッキングを行うのだそうだ。もしスペイン人のカップルさえ了承すれば、私たちがそのカップルと一緒に行動して自分への報酬をスペイン人カップルと2分しても問題ないと申し出てくれた。ということで、とりあえずステファンというガイド青年の名前を書いて入場チケットを購入した。
スペイン人カップルは8時に公園に来る予定の所、8時半にやってきた。さすがラテン系。で、さっそく話を持ちかけてみると、あまり喜ばしい表情ではない。しかも、今日のコースは17km歩くという。この2つの要因から私たちは一緒に行くことを断念した。世の中にはガイド料金が半額になることが最大の喜びではない人もいるということを知ったのだった。
ステファンはスペイン人が来る前に、やはり英語が話せるガイドで自分の兄さんを紹介してくれていたのだが、私たちがガイド料金半額を狙ってスペイン人カップルを待っているうちに他の観光客に取られてしまった。
ANGAPの周辺にはこうしたフリーのガイドがたくさんいるのだが、英語が話せる人となると限られてくる。さぁ、どうしようかと思っていたら、ステファンが「僕の兄さんはどう?」という。だって、さっき別の人とトレッキングに出かけちゃったじゃない?というと、何と4人兄弟でもう一人の兄さんがそこにいるという。それは幸いだと兄さんを紹介してもらったのだった。
柔和なステファンの兄弟とは思えない、ギラッとした爬虫類系の鋭い眼光の兄さんに、一番近い場所に行く2時間のトレッキングのガイド料金を聞いたところ「Ar35000(約US$17.5)だという」。ステファンは丸1日のガイドをして同じ金額を言っていたし、ガイドブックにある料金よりも随分と高い。「ちょっと高いんじゃないの?」というと、そんなに言うならANGAPのオフィスにガイド料金表がはってあるから見て来いという。見に行くと、私たちが行きたい2時間トレッキングのエデナというコースはAr15000(約US$7.5)と書いてあるではないか。何を言いたいのかわからないまま兄さんの所に戻り「Ar15000って書いてあったけど」というと、「Ar15000で行きたいのなら、俺は行かない。こいつと行け」と、エイドリアンADRIENを紹介してきた。「英語はあまり上手ではないのですが」とエイドリアンは自信なさげで弱気だったのだが、コミュニケーションには問題ない。
植物や昆虫や動物の細かい英語はこっちだってわかっちゃいないし、夫ときたら説明なんて聞いたためしがない。ってわけで、私たちエイドリアンと一緒に行くことにした。ステファンの兄ちゃんは野心家で勉強もしているのだろう。高い料金を支払ってくれる客を見つければいいのだ。
ANGAPのオフィスに行き、ガイド名をエイドリアンに変更してからトレッキングに出発することができるようになる頃には、午前8時40分になっていた。
トレッキングの入口には公園全体の地図があり、公園の概略説明と本日のコースの説明があった。地図は公園全体の中のエデナとヴァリブルメナ地域をカバーしているコースだと思われる。
私たちが行くエデナというコースは上の「現在地」から始まって川を渡って滝には寄らずに左半分を周って帰ってくることになるらしかった。
歩き始めてすぐに、エイドリアンは私たちの国籍を聞いてきた。というのも、彼は中国人のレミュー(キツネザル)研究の教授のアシスタントを6年間勤めていて、今でもその教授に定期的に特定の個体の調査レポートを送っているのだそうで、私たちを中国人かな?と思ったのかもしれない。彼の経歴を聞いて、私はエイドリアンにして良かったと思った。彼は営業バリバリの上昇志向のステファンの兄ちゃんタイプではなく、朴訥な学究肌なのだ。営業トークはうまくないが、この森の生物の生態に詳しいことは良く知っているに違いない。私はどちらかというと、こういうガイドが好みなので、この展開を喜ばしく思った。
何でもないように見えるシダ類の前に足をとめてエイドリアンが説明してくれたのは、トゥリー・ファームというシダ類だった。
幹の中に葉が格納されていて、この葉をさそりが好んで食べるのだそうだ。メスの株とオスの株があって、オスの株から落ちた胞子はメスの株の近くまで泳いでいって受精するという話は、遠い昔に理科の時間、あるいは生物の時間に聞いたことがあるシダ類の話を思い出させた。
熱帯雨林に属するラヌマファナの国立公園では、こうしたシダ類が大きく成長していくのだそうだ。隣のトゥリー・ファームからはぜんまいのようにクルクルと巻いた枝から葉が広がろうとしていた。
こうした樹木に対して「こっちはまだベイビーの葉ですね」と愛おしそうに説明するエイドリアンへの高感度は高まるばかりだった。
橋のたもとの木の上で昼寝をしているのは、メスの蛇。オスはもっと鮮やかな色をしているのだそうだ。
この蛇には毒がないが、大抵の人は噛まれると無闇に引っ張るので傷が深くなる。しばらく放っておくと蛇の方から口を開けて離れていくので、それを待った方がいいという説明だった。「しばらくってどのくらいですか?」と聞くと3分という答え。蛇に噛まれて3分も待っていられる人間は、そうそういないのではないだろうか。こんな説明も面白かった。
川はナムルナ川といい、泥を含んだ茶色に濁った急流だった。エイドリアンの説明によると、ここから2km川下でダムになっているという。1979年に着工して1998年に竣工したというそのダムの建設には日本もお金を出しているようなことを言っていた。
ダムで作られた電力はフィアナランツァまでも運ばれて使われているのだそうだ。
へー、なるほどねぇ。と聞いているそばで、トカゲも川を見ながら拝聴しているような後姿が面白い。ジョンリッドマダガスカルという、とかげだそうだ。
川の上をピデオマダガスカルという鷲の仲間がゆったりと飛んでいるのが見えた。
川を渡り終えた左手の樹木にはキノコ。これはまだ若いキノコなのでカサの裏が白いのだが、成熟してくるとカサの裏が黒くなるのでブラックマッシュルームと呼ばれているのだそうだ。
スープなどにして食べるとおいしいそうだ。
ここから右の道を進んでいくと、ビルボーフィランという欄が別の木の上に植生している場所があった。花は10月から12月に咲くということで、今は時期ではなかったが葉の大きさからしてさぞや立派な花が咲くだろうと思われた。
根がないこの植物は、雨季に葉の内部に水を溜めて乾季を乗り越えるのだそうだ。
この先には竹林がある。竹はかつてマダガスカル人が吹き矢を作る材料だったそうだ。この竹で吹き矢を作って、レミューをしとめて食料にする。そんな時代もあったのだそうだ。
ここには中国産のグァバも生えていた。そもそもマダガスカルには独自のグァバもあるのだが、中国との貿易によって運ばれた中国産のグァバが今やマダガスカル全土に分布するほどの広がりを見せているのだそうだ。3月から4月に実をつけてレミューの餌になっているのだそうだ。
そんな話をしながら歩いていると、竹やぶから「がさがさ」という音が聞こえて、エイドリアンが急に説明をストップして竹やぶをにらんだ。低い声で「あそこにレミューがいる」というなり、竹やぶに入っていった。私もついていく。ここはもう道なき林の中。竹をかきわけ、湿った泥ですべりそうになりながら必死について行くと、遙か上の方にキツネザルの姿が見えた。レッド・ベリー・レミュー(赤腹キツネザル・・・という和名かどうかはわからない)だそうだ。
レミューはたちまち私たちに気づいて、竹から竹を渡って離れていってしまった。エイドリアンに助けられながら元の道に戻る。エイドリアンの目は、竹やぶのレミューをまだ追っていた。「あ、今度はあっちだ。行きますよ。」というなり駆け出すエイドリアン。
そして別の所から、再び竹やぶに潜入した。
スニーカーで森に慣れているエイドリアンは、サササササーと竹やぶの中を下って行く。
サンダルで森に不慣れな私たちは彼の後から、恐る恐る足場を選びながらついていくのだった。
やっとエイドリアンに追いついて指差す先を見上げると、さっきよりは大分近い場所にレッド・ベリー・レミューを見る事ができた。
腹が赤いかどうかは見えなかったが、ふわふわした毛皮に長い尻尾、そして尖った口先。レミューだ。これは今までに見たことがない種類だった。
公園入口で話したステファンやステファンの兄ちゃんの話ではエデンのような入口から近い場所ではレミューを見る確率は非常に低いということだった。特に植物に実が付いていない今は、エデンでレミューを見ることはあり得ないだろうと。
エイドリアンも私たちが非常にラッキーだと言っていたので、この話はあながち営業トークの常套手段というわけでもないようだ。
ラッキーというだけでない。エイドリアンは説明をしながら常に森の音に耳を済ませてくれていた。「かさ」っと音がすると、解説の音声を落として森に目をやっていたのを私は知っている。だからこそ、私たちはレミューを見る事ができたのだと思う。レミューを見られてラッキーというよりは、エイドリアンがガイドでラッキーだったというのがふさわしいだろう。
湿った竹藪からトレッキングコースに戻ってみると、私の右足の親指に5cmくらいのマッチ棒よりも細い茶色の虫が弓なりになって蠢いている。
な、なんじゃ、エイドリアン助けてー!と助けを求めると、「あ、リーチだ」と虫を引き剥がした。リーチとはヒルの事。親指の爪の下の部分からピューッと血が噴出した。ラヌマファナのトレッキングではヒルが出るとはガイドブックに書いてあったが、そんなハードなトレッキングはしないから大丈夫だろうと高をくくっていたのだが、やられてしまった。左足にも同じヒルがくっついていたのだが、こちらは血を吸われる前にひきはがすことができた。本当は無理やり引き剥がすのではなく、タバコの灰か火の付いたタバコを当てると自然に剥がれるのだそうだが、エイドリアンはギュギュッと引っ張って剥がしてしまった。
ちょっと心配だったが、あれから6日経ってこれを書いている今、別に痛くも痒くもない。大丈夫だったみたいだ。ヒルなんて人生初めての経験だった。ガイドブックを読んでいて、ヒルが出るなんて恐ろしいと思っていたはずなのに、思わず来てしまってなりゆきで藪に入ってヒルにやられた。もっとなめくじみたいに大きくて気味の悪い物かと思っていたが、そうでもない。もっとももっと血を吸われていたらそうなっていたかもしれないが。
元のトレッキングコースに戻って次に紹介されたのが、エカルピティスというコケの生えた幹を持つオーストラリア産の樹木だった。
10月にはとても良い香りの花をつけるのだそうだが、特に夜になると高く香るのだそうだ。どんな香りなのか興味がそそられる。
幹は短い毛のようなもので覆われていて、触るとグッショリと濡れて指が沈む感じ。スポンジほど柔らかくはないが、指で押しただけでも水が染み出てくるのが見えるくらい、たっぷりと水分を含んだ幹だった。
やがてちょっとした休憩小屋のような東屋のある場所に到着。ここは夜のトレッキングを行う場合のマウスレミュール(ネズミザル)の観測地なのだそうだが、この小屋の周りの木にレッド・フロンテッド・ブラウンレミューがいた。
エイドリアンが一目でメスだと断定したのは、オスの場合は体がオレンジだからだそうだ。見上げる梢は逆光で、どこから撮影しても真っ暗に写ってしまう。なんとかレミューがよくわかるように調整したので、ぼけた写真になってしまったが、フサフサした毛と長い尾っぽというレミューの特徴は見える。
ラヌマファナ国立公園のエデナではレミューなんて見られないと思っていたのに、2種ものレミューを見られて私たちは大満足だった。
その後、展望台までの道のりにはアリ塚があった。アリ塚というのは通常地面に作られるのだそうだが、ここラヌマファナでは地面の湿度が高すぎるために、アリは木の枝に絡めて巣を作るのだそうだ。
アリ塚から忙しげに出入りしているのは全てオスアリなのだそうだ。中にはメスアリがいて、オスが集めてきた餌を食べて子作りと子育てに専念しているのだそうだ。
このアリ塚のアリ、オスの寿命は16日に対して、メスの寿命は50年。専業主婦が多かった日本人の寿命ですら、男性と女性にこれ程の格差はないので、オスアリがどれほど体を酷使して働いているのかと思うと気の毒になってきた。エイドリアンに、「将来結婚してもあまり働きすぎないでね。そうしないと、このアリみたいに奥さんだけが長生きすることになるからね」と言うと馬鹿受けしていた。
5分ほどで展望台に到着。ここは標高970mの地点で、出発したANGAPの建物などのある場所が遠くの森の中腹に見下ろせる場所だった。
ANGAPからこの展望台のある側の森がセカンダリーフォレスト。ANGAPの後ろ側に広がっているのがプライマリーフォレスト。
プライマリーフォレストの方が森としての歴史が長い分、生息する木々も大きくより鬱蒼としているのだそうだ。観光客がトレッキングできるのはセカンダリーフォレストの部分のみになっているのだそうだ。理由は・・・。聞くのを忘れた。
この休憩所の屋根の裏にクモが巣をはっていた。この森には1000種ものクモがいるのだそうだが、これは体が真っ黒なブラックスパイダーという種類だそうだ。
クモは足が6本のものと4本のものがあり、毒があるのは4本のものなのだそうだ。
ところで、このブラックスパイダー、黒いのはメスだけ。足も含めると体長10cmくらいに見える堂々としたメスの頭の右側に、メスの爪の先くらいしかない茶色い小さな点が見える。それがオスなのだそうだ。オスはメスの産卵期が過ぎると用はもう終わったということで、メスに食べられてしまうのだそうだ。人間の世界にも比喩的に用済みの男性を抹殺する女性はいるが、本当に食べてしまうクモの世界ほど激しいことにはなっていない。
休憩所ではエイドリアンが持ち歩いている動物図鑑を見せてもらった。アフリカに生息するレミューだけを掲載したとても専門的な図鑑だった。
これまでに私たちが見てきたレミューを見せてもらったり、今日見たレミューを確認したりして、あとはパラパラとページをめくると、あるページに妖怪のような長い指をもったレミューが現れた。
他のページのレミューも学術的なイラストなので、そんなにかわいらしい描き方ではなかったものの、これ程はおぞましくなかった。
この生物の名前を見てビックリ。これが「アイアイ」なのだった。子供の頃「アーイアイ、アーイアイ、おさーるさぁんだよー」という歌で親しんできたイメージとのあまりの乖離に再度イラストに目が釘付けになった。子供の頃見た歌番組では、可愛らしいサルのアニメーションが並んで踊っていた。しかし、実物は全く可愛くない。どころかまがまがしい雰囲気を漂わせている。実際、後に読んだ本で、マダガスカル人もアイアイを見ても人に言わないなど、不吉なイメージを持っていたらしい。わかる、わかる、その気持ち。だって気持ち悪いもんね。
こんな驚きの発見もしつつ、休憩所を後にしたのは10時40分だった。トレッキングを始めてから既に2時間が経過してしまった。ガイド料金は2時間のトレッキングの料金だったので、超過料金を取られるかもしれないなぁと思いながらもここから一息に帰っていくことになった。
エイドリアンも時間が超過していることを気にしているのか、休憩所からはほぼノンストップで出発点まで戻った。下り坂のせいもあり、遠くに見えていたと思っていた出発点までは、15分くらいで戻ってしまった。
トレッキングを終了するとANGAPのオフィスに戻り、無事に戻ってきたという報告をする。同時にガイドの評価を記入することになっていたので、エイドリアンの素晴らしさを讃えておいた。ANGAPではこの評価をもとに、ガイド用のマニュアルを都度書き換えることになっているそうだ。なかなかしっかりしている制度に感心した。
最後にエイドリアンに料金を支払って終了。最後まで紳士的で素晴らしいガイドだったエイドリアンにおおいに感謝してわかれた。
公園入口前の道路で、村に帰るためにタクシー・ブルースを待っていると、運よく10分くらいで一台のタクシー・ブルースが通りかかった。
見ると、フィアナランツァからラヌマファナまで移動してきた時の運転手さんではないか。向こうもこちらを覚えていたらしく、「おお、また会ったねー」ってな具合で手を振り合った。
値段はきかずに乗り込んで周囲の人がいくら支払うのか見ていたら、私たちよりも先に乗り込んでいた人がAr1000支払っている。じゃぁ、私たちもと運転助手に二人分でAr2000を支払うと何も言わずに受け取ったので、そのくらいの金額らしい。
こうして無事にラヌマファナ村に戻ってきたのは昼前だった。昼食を食べて温泉につかるという素晴らしい午後を過ごして、ラヌマファナでの滞在は終了したのだった。
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