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2007.05.02 Vol.2
アンドリンギチャ国立公園1日トレッキング(後編)
マダガスカル:キャンプ・カタ |
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ルーヴァの熱弁にほだされて歩き始めたものの11時50分になっても、キャンプ地のイアタラヌンビーは全く視界に入ってこない。
一体どこまで行くのかとルーヴァに聞いてみると、先の方の黒い岩山を指差して、まぁあそこの岩山くらいまで300mくらい歩いて、そこから坂を下りて50mくらいかなぁと言った。
ああ、どう見てもあの黒い岩山までは300mって感じじゃない。ルーヴァやローランにとっては300mにしか感じられない距離のことを私たちの世界では2kmと表現していることを教えてあげたかった。
気づくと常に夫が大きく立ち遅れている。みんな心配して振り返っているのに、「別に疲れているわけじゃないよ、景色を楽しんでいるだけなんだから。みんなもっと景色を楽しみながら歩いたらどうだ」と逆切れしている。そんな夫の姿を見て、ルーヴァは私に「彼は休みたいと言っているのか?」と聞いてくるので、「いや、あれは休憩はいらないと言っているのだ」というと、それならいいがと不思議そうにしながらも先を歩き出した。日本人はムズカシイのである。
坂を登りきると、またもや平原になった。視線は更に上昇していて、私たちが出発した岩山郡も目の前の山の向こうにかなり姿を現している。
そんな景色を右手に見つつ、平原の中を歩いて行くと目の前にグッと立ち上がった小山があり、そこを上ると後は下り坂になって、そのずーっと先、ルーヴァの言う所の50m先に草葺の屋根のかかった東屋が小さく見えていた。
そこがキャンプ地イアタラヌンビーなのだった。
キャンプ地までの下り坂を折りきって平坦な草むらの道には、何とゼブ牛がいた。首の後ろにコブのあるゼブ牛をこんな所で飼っているはずがない。
彼らは野生化してしまったもと家畜なのではないだろうか。警戒心が強くて、私たちが近づくと皆立ち上がってこちらを見ていた。
キャンプ場のキッチンだという草葺屋根の東屋まで200mくらいに迫った所には小さな段差のある川も流れていて、キャンプ地としては心地よい場所だった。
たまらず川に顔をつけてゴクゴクと飲む夫に、ルーヴァはとにかく東屋まで行こうと促して、最後の道のりを歩いた。
12時43分。とうとう私たちはイアタラヌンビーに到着した。
ルーヴァが熱く語っていたアンドリンギチャの山々も見えている。ルーヴァは誇らしげに山々を指差して、これこそがアンドリンギチャなのだと私たちに紹介した。
東屋の屋根の下にはベンチと火をおこせる場所があり、東屋の前には石でできた大きなテーブルと椅子があった。そこで昼食。ルーヴァとローランは昼食を持ってきていない。チーズを挟んだバゲットをすすめたが、お客さんの物はもらえないと断ってきた。
簡単な昼食が終わると、キッチンの裏手にあるトイレとシャワールームを見せたいとルーヴァが言う。どちらも平たい石を積み重ねて作ってあり、シャワールームは渦巻状に壁が立ってプライバシーが守られるようになった円柱状の個室。シャワールームといっても水の設備は何もない。あの川から水をくんできて浴びるのだろう。トイレも石でできた円柱状の屋根つきの家だった。ANGAPの職員としてアンドリンギチャを愛しているらしいルーヴァの御自慢の設備なのだった。
川に場所を移して再び休憩。ここまで来ると、昨日見たナチュラルプールなどとは違って水は澄んでいて、そのままでも十分に飲めるレベルになっている。ようやく雲の切れ間から青空をのぞかせた空の光を受けて、水面も青色に光り美しかった。
だんだんと青空が広がってくるのをもう少し見ていたかったのだが、我々は今日戻らなくてはならない。4日間のコースでここまでトレッキングしてきて、4日目の早朝にここで見る景色の美しさはたまらないだろうなぁ。
午後1時37分、後ろ髪をひかれつつもアンドリンギチャの山々に囲まれたイアンタラヌンビーを後にすることにした。
野生のゼブ牛の横を通り(今度は彼らは立ち上がらなかった)、ちょっと丘を登って下り、平原を歩く。来た時とそっくり同じコースをたどって戻るが下りが多いのでかなり楽に感じる。
来る時は雲って見えなかったアンドリンギチャの最高峰のピック・ボビー2658mも見えて、帰りは帰りで違った風景を楽しめるのが、自然の中のトレッキングが楽しいことの一つだ。
平原を渡り、山の頂上から少し下の道を回りこむと登ってきた山の斜面に出た。ここからは一気に下りだ。相変わらず、ここからの眺望は素晴らしかった。
広々とした平原が眼下に広がる階段を下っていくが、意識的に目をあげないとこの景色は見逃してしまう。
夫が言うように時々休んで景色を見ながら降りないともったいないことなる。
こうして下ってきて、カメレオン岩の由来を聞いた展望台に到着したのが、午後3時。展望台からキャンプ地までは行きは2時間6分かかったのに、下りは1時間23分。おお、下りの威力だ!
ついに段々になった水田のある場所まで戻ってきた時には、七面鳥もかしましく鳴きながらお出迎えしてくれた。
七面鳥はとても変わった鳴き方をする鳥だと初めて知ったし、間近で見ると鼻が柔らかくてフニャフニャした皮だけのような物として喉元まで垂れ下がり、水色の顔に頬かむりをしたようにピンク地の鳥肌が首にまわっている、非常に気味の悪い奴だと知ったのも初めてだった。オスの羽はかっこいいけど、首まではSF映画に出てもおかしくない奇妙さだ。
山を降りて最初の村で、ルーヴァは下山の報告書を記載してついでにアヒルと鶏の卵も1つずつもらって嬉しそうだった。2番目の村では、朝通り過ぎた不思議な東洋人にも見慣れて、子供たちは「ハロー、ハロー」と大歓迎。私が覚えたてのマダガスカル語「フェールーマ(さようならー)」と言うと、みんなで声を揃えて「フェールーマー」と言って手を振る姿が可愛らしかった。
村を通り過ぎて川まで下り、再び足を濡らして川を渡るとANGAPの事務所のあるムララノ村までは一気に登り。この登りさえ終了すれば、今日はもうそんなにハードではない。
こうして午後3時45分。今朝10時にここから始まった公園トレッキングが終了した。今日一日ガイドをしてくれたルーヴァに約束のガイド料金を支払って記念撮影。この2人にだまされだまされ歩かなかったら、到底イアンタラヌンビーまでは到達できなかっただろう。あそこまで行って、川沿いで休憩したのが、今となっては非常に高い満足感を与えてくれている。公園を愛する二人の策士には深く感謝。あと、文句一つ言わずに、ほぼ全工程荷物を持ってくれたローランには特に感謝。人柄の温かさが顔ににじみ出ている人だったなぁ。
私たちのトレッキングはここでお終いではない。ここから更にCamp Cattaまで5kmの道のりが残っている。しかし、今日の午前中登りつめた坂道に比べたら、この5kmのアップダウンなどは坂とも呼べないくらいの小物だ。
午後5時ちょっと過ぎに、Camp Cattaに到着して本当の終了。すぐにレストランでコカコーラ。いやー、旨いねぇ。久しぶりのトレッキングにして、朝8時から夕方5時までよく歩いた。これで少しは体のなまりと脂肪も取れただろう。アンドリンギチャ国立公園を決めた写真の風景には出会わなかったが、それでも川面に映る山々を見る事ができたし、我々としては大成功だったのではないだろうか。
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