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2007.05.05 Vol.2
イサルトレッキング〜黒と青のナチュラル・プール
マダガスカル:ラヌヒラ |
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ナチュラル・プールから少し上がって台地に戻り、先ほど眼下に見ていたトレッキングコースを歩いて進んでいくことになった。
先ほどの展望台は右手の岩壁の上にある。
単純に続く草原のように見えても、その中には様々な植物が生息している。
バラの花のように美しい形をしたアロエがあった。しなやかな葉を風になびかせているやさしい植物は、この公園の名前にもなっているイサル。
アルバートは観光ガイドになるにあたり、こうした植物や動物の名前を暗記したり、イサル国立公園の各コースを自分で歩いてみたりしたのだそうだ。観光ガイドになるには試験があり、それにパスした人だけがここのガイドをすることを許されているのだそうだ。
アルバートは首都アンタナナリヴの出身だが、お兄さんもここで同じようにガイドをしていたのだそうだ。イタリア語が堪能なお兄さんは、ここでイタリア人医師の観光ガイドをした時に、自分も医者になりたいという希望があることを伝えると、お兄さんのイタリア語の能力と聡明さに魅かれたイタリア人医師がお兄さんをイタリアに連れて行って医者にしてくれたのだそうだ。だから、アルバートのお兄さんは今イタリアで医者をしている。
アルバートも医者になりたくてそのような機会をつかむためにここでガイドをしているのかと聞くと、小さい時は医者になると心に決めていたのだが、10代前半に生々しい事故の映像を見て自分は血を見ることが耐えられない、医者にはなれないと断念したので、医者になることはないだろうと語った。しかし、何らかのチャンスがあればお兄さんのようにマダガスカルを出て先進国でバリバリと働きたいと思っているのだそうだ。私たちが日本で働いてお金をためてこうして旅行していることを話すと、やっぱりというようにうなずいて、自分ももっと稼げる国に行ってお金をためたいと言った。彼のような目的でガイドをしている人もいるということを知ったことも、今回のトレッキングの収穫だった。
やがて、この地域に生息するパキポディウム、別名エレファント・フット(象の足)とも呼ばれている植物が群生している場所にやってきた。
乾燥した場所に適応するために幹の下のほうが壷のようになっている植物で、水が少ない過酷な状況でも500年の命をながらえることから、マダガスカル人はパキポディウムにあやかりたいと思っているという逸話も聞いた。日本人が亀を思う気持ちと同じだねぇ。
でも、根を深く張っていないので、心無い旅行者がサッカーボールよろしく蹴ったりすると、とたんに命を絶たれて枯れてしまうのだそうだ。なんとムゴイ話だ。
そんな話を聞きながら、台地の平地をあるいていく。両側にはずーっとイサルの奇妙な岸壁が並んでいて、台地には不思議な植物がいる。天気はいいし、道は平坦だし、イサル国立公園の懐に抱かれてユルユルと散歩するのは非常に心地よかった。
30分ほども歩くと台地の端っこに到着。ここからは右にそれて、岩壁の間をくだっていくことになる。
この台地の終わりでアルバートが教えてくれた植物がタンゲーナ。
こうした乾燥地域に時々見られる肉厚の葉を持つ植物で、葉は白っぽい緑色で茎も白みがかっている。
緑色の草の中では割合に見つけやすいこの植物は、葉をちぎると中からミルク状の白い汁が出てくるが、実はこれが毒物。これを体内に入れると嘔吐して心臓が止まる、あるいは煮汁を飲むと即死するのだそうだ。
昔々、バーラ族では罪を犯した罪人に対して王が「イサルの森に言ってタンゲーナを食べなさい」という事で死刑を意味していたのだそうだ。物言いが優雅なだけに、より残酷に聞こえる。
ここからの道は、今までの平坦な道とは全く異なり、深く切り込んだ岩壁の間の谷間に茂る森林を左手の眼下に見ながら、岩壁の一部に削って作られた道を下っていくようになる。
岩壁を回り込むように歩いて下っていき、自分たちが歩いてきた台地と最初に車で走ったサバンナの間に立ちふさがる岩壁の切り込みの部分に到達した時に、サバンナから台地に向けて抜ける冷たい風を急に感じた。
風が通っている。
ずーっと遠くまで見張らせる岩壁の切れ目に立って、しばらく風を感じていた。
そこから先は、もうとにかく下りだった。階段をおりるような勢いでどんどん、どんどんと下って下って、下りきった所が左右の道に分かれているT字路になるまで下った。
ここから右に行くと駐車場、左に行くと黒と青のナチュラルプールに至る。
自分の来た道を振り返ると、ナチュラルプールまで4kmという表示が出ていた。しかし、我々が来た道を戻るのは急坂でかなり大変だろう。アルバートとの話合いで先にナチュラルプールを見てから黒と青のナチュラルプールを見た方が楽だというのはこの意味だった。逆向きに歩くのは大変だ。
下りきった道を左方向に行くと、また別のキャンプ場があった。
このキャンプ場には午前中に見ることができなかった2種のレミュー、ブラウンフロンテッドレミューとリンクテイルレミュー(ワオキツネザル)をいとも簡単に見ることができたのだった。
おそらくこのキャンプ地で自炊するキャンパーの出す生ごみ目当てに集まってきているのだろう。1つの木の枝には子ワオキツネザルを含む5匹のワオキツネザルがクルクルと丸まっているのが見えた。
うぁーおー、ワオキツネザル、てんこ盛りだ!
母親の背中にピタッとくっついていた小猿がちょっと離れた瞬間をとらえた。
子供ワオキツネザルは子供らしく顔の縮尺が横に長くて大人よりもかわいらしい。
1匹だけ離れて枝に座っているワオキツネザルもいた。皆、昼寝の最中で眠そうに木の上で丸まっているのに、こいつだけはまだ腹がへっているのか、それとも人間に興味があるのか、枝に座ってこちらをじっと見つめたりしている。
それにしても何と立派な尻尾だろう。体の毛並みもフサフサとしてまるで生きているぬいぐるみのようだ。顔がちょっと怖いけど、ワオキツネザルはデザインとしてやっぱり一番シャレているかなぁ。
キャンプ場の炊事場には、何かないかなぁとブラウンフロンテッドレミューが徘徊中。
さすがに火がかかっている鍋には手を出すことができないのだが、それにしてもいい香りが漂っているのでその場を離れられずにいた。
別の岩の上にもブラウンフロンテッドレミュー。
ふー、疲れた。
って、アニメーションの中の猿みたいなポーズでちょこんと座っている。
いやー、マダガスカルはすごい。普通の環境なら野生の動物ってのは逃げるでしょ、人間の姿を見たら。あるいは、餌を狙って襲ってきたり。
だから、こんな間近で寛いで座っている野性の動物を見られるなんていう経験は、想像だにしなかったのだ。
実際には望遠なしで撮影してこんな距離。肉眼だともっと近くにいるように感じられる距離だ。
こんなにレミュー三昧な1日になるとは思ってもいなかったので、いやー、楽しい、楽しい。
キャンプ場で存分にレミュー見物を楽しんで、黒と青のナチュラル・プールへと向かった。
キャンプ場を離れて10分も歩くと道は川沿いを歩くようになる。
最初のうちは川岸も幅広く歩きやすい道だが、そのうちに両側を岩壁に挟まれた川の淵には岸もなくなり、岩壁の端の石の上を歩いたり、岩を乗り越えたりと、また今朝と同じような渓谷歩きになってきた。
だんだんとアスレチックのようになってきて、また体が熱く火照っていく。
周囲の岩壁の至るところから清水が湧き出ていて、アルバートは500ml入りのペットボトルに清水をすくってはおいしそうにごくごくと飲んでいた。
イフシでお腹を壊している私は、飲みたい気持ちをぐっとこらえてアルバートをうらやましく見つめるだけ。たぶん、飲んでも大丈夫だとは思うけど・・・。
こうしてキャンプ場から20分くらい歩いた所で、今日見た中で一番美しい光景が突然目の前に現れた。それが青いナチュラルプールだった。
絹糸のように繊細な、でも勢いのある小さな滝が流れ込む先は、太陽の光線の具合でエメラルドブルーに輝く池になっており、その水には何のくもりもなく、ただただ澄んで美しい色合いをかもし出していた。
ほぉー。っと足を停めて、様々な角度から眺める私たちに、アルバートはまだ黒いナチュラルプールがあるからと先を促した。
黒いナチュラルプールはこのほんの少し先にあった。
こちらはもう少し水量の多い川から3本の滝が流れ込む池で、滝に隠れて陰になるために黒く見えるのであった。
それだけでなく、こちらは川の水が流れ込んでいるせいか、土砂が入り込んで濁っている。
先ほどの青のナチュラルプールの方が圧倒的に魅力的だった。
トレッキングはここが最終目的地で後は戻るだけだ。清い水の青いナチュラルプールのそばで休憩をすることになった。
アルバートにナチュラルプールで果たせなかった日本語レッスンを行うことになった。マダガスカル航空のスケジュールブックから余白の多いページを破ってアルバートに渡してレッスン開始。アルバートが知りたがったのはまず挨拶。一通りの挨拶を学ぶと、今度はガイドさんならではの表現を知りたがった。「ここまでの旅はいかがでしたか?」「よく眠れましたか?」「レストランはいかがでしたか?」などなど。
なかなか的をついた表現を聞いてくるので、アルバートって賢いんだなぁと感心しながら教えた。
そんな中で、私と夫が「イサル国立公園ってのは、岩だらけだねぇ」という会話を交わしたら、アルバートはその「〜だらけ」に注目。「〜だらけです」の習得になった。これは日本人に受けるに違いない。「ここはナチュラルプールだらけです」「ラヌヒラはホテルだらけです」「キャンプ場はレミューだらけです」などなど。本当は「結構毛だらけ、猫灰だらけ」も教えたかったが話がややこしくなるのでやめた。
で、「私はアルバートです」「あなたは何さんですか?」の習得になったとき、いつの間にか近くの岩まで到達して休憩していたフランス人男性が、ニコニコとこちらを見ていることに気づいた。
目が合って言葉を交わすと、何と彼もかつて日本語を勉強したことがあるという。で、何か自分も言いたくってしょうがないというように、早速こちらに近づいてきた。「この、〜は、っていうのは、つまり強調の場合に使われるんだよね」とアルバートにフランス語で説明している。日本人的には「〜は」は主語に使われる助詞という認識だったが、「これは持っていく、あれは持っていかない」などの使い方の場合は確かに主語ではない。外国人に教える場合は「強調」という教え方をするのねぇ。ふーん。
アルバートもフランス語で説明されてよくわかったみたい。
こうして30分程の日本語レッスンかつ休憩をしてから、午後3時10分に帰途につくことになった。
来るときはまだ着かないのか、まだ着かないのかと遠く感じられた道のりだったが、去ろうという時になるとあまりにあっけなく終わってしまう気がする川沿いのトレックだった。
キャンプ地を過ぎると、お見送りしてくれるようにブラウンフロンテッドレミューが木の枝に座っていた。
黒と青のナチュラルプールからキャンプ場を過ぎて、ナチュラルプールからずっと下ってきた道と交差する分岐点まで25分で到達。
そこから駐車場までは10分。
駐車場にはちゃんとドライバーが迎えに来てくれていた。
じゃぁ、トレッキング終了の記念撮影を撮ろう!というと、またもやとっても嬉しそうに夫の肩を抱いてポーズ。
ここから村までは、車で15分ほどの距離だった。途中、青いナチュラルプールで日本語レッスンに参加したフランス人が歩いているのを見かけた。彼は歩いてやってきたようだ。
村に到着して、宿のレストランでアルバートとコカコーラを飲みながら、残りの金額の清算と日本語のおさらいをして、本日のトレッキングは終了。午後4時半だった。朝から夕方まで充実した1日だった。
6月にはここに日本人の団体客がやってくる。ラヌヒラではアルバートが「〜だらけです」を連発して笑いを取るだろう日を虎視眈々と待っていることを想像しただけでも、ふっふっふと笑いがこみ上げてくる。頑張れ、アルバート!
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