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2007.09.03
タンザニア鉄道の呆れる腐敗っぷり
タンザニア:キゴマ |
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ザンビアの首都ルサカからウガンダのカンパラに向けての大移動。私たちの予定では以下の地図にあるように移動できるはずだった。
具体的には
・9/2 日曜日08:00 Aのタンガニーカ湖フェリーでキゴマに到着
・9/2 日曜日18:00 Bの鉄道でキゴマからタボラに向かう
・9/3 月曜日04:30 タボラ着。
・9/3 月曜日21:00 Cの鉄道でタボラからムワンザに向かう。
・9/4 火曜日07:35 ムワンザ着。
・9/4 火曜日10:00 Dのフェリーでムワンザからブコバに向かう。
予定通りに行けば車中泊を続けながらブコバまで移動できる、いやせざるを得ないはずだった。途中綱渡り的なスケジュールもあり、時間にルーズなアフリカのことだから、どこかでほころびが起きて宿泊して次の交通待ちを余儀なくさせられるかもしれないという推測はあった。
しかし、今回タンザニア鉄道を使おうとするにあたり、あまりに障壁が大きいと判断してBとCの鉄道使用をやめてキゴマからムワンザまでバスで一気に移動することになったのだった。
事の始まりは2日の午後2時過ぎにキゴマに到着した時から始まる。朝8時到着予定が午後2時過ぎという6時間遅れだったことから、なーんだかこの先の移動がスムーズには行かない予感はした。タンザニアに入っちゃったからねー。南アを含む南部アフリカ領域のザンビアまでは交通は比較的正確な時間で運行されていたのに、東アフリカのタンザニアに入った途端にこれだ。
でもまぁ、夕方6時の鉄道に乗るのだから時間はまだまだある。「地球の歩き方」のキゴマの地図を見ると船乗り場から駅までは700mくらいの距離だったので、「ああ、これなら歩ける、歩ける」と歩き出したのだった。
しかし、道は舗装されておらず、砂地にスーツケースのタイヤがくいこみがち。車輪が回らないでそのまま引きずることになった。しかも車は通るし、アップダウンはあるし。
何度も足を止めて汗をぬぐっていると、タクシーの運転手が速度を弱めて通り過ぎがてら「乗らない?」と声をかけてくる。やっと駅舎が見えてきたのは20分も歩いてからだった。
汗みどろになってたどり着いた駅で、線路に向かう入り口左手に事務所らしい部屋があったのでのぞいてみると、まだ午後2時だというのに閑散として仕事終いの雰囲気。今日の列車のチケットを買いたいのだがというと、今日は列車がないという。
どうやら「地球の歩き方」に書かれてあったダイヤが変わってしまったらしい。聞いてみると、キゴマ発の列車は月水金土の朝7:30発。タボラでムワンザ行きに翌日乗れるが金曜発の便だけ接続していないということになっていた。
今日は日曜日なので、それならば明日の月曜日に乗ればいいだろうと明日のチケットについて聞くと全席売り切れだという。しかも、水曜日のチケットは前日の火曜日からしか販売しないとも言われた。じゃぁ何とか立ち席で明日の1等でも2等でも3等でもいいから乗せてもらえないかと聞くと、明日の朝来て列車のマネージャーに直接交渉すればもしかしたら大丈夫かもしれないと言われて、キゴマで一泊することになった。
駅舎のコンクリートの床には、ぼろ雑きんのように横たわっている人がたくさんいて、どうしてこんな田舎にたくさんの浮浪者がいるんだろうと思っていたら、浮浪者ではなくて明日の列車の3等に乗るために待っている乗客だという。中には、ひどく怪我して膿と血がじくじく出ている足をさらけ出して蝿がたかるままにしている老婆がいた。私の頭の中では、スーツケースをひきずりながら3等車両にこの老婆と競争で乗り込む阿鼻叫喚の騒ぎがフラッシュした。うわー、3等には乗れない、3等は無理。この時点で私はそう思っていたが、夫は時間がもったいないので、明日乗れるなら3等でも行くぞと息巻いていた。
翌3日、月曜日。朝7時半発の列車に乗り込むためには6時には宿を出なければならない。しかし、昨日の疲れが全く抜けていなくて、とてもハードな1日を過ごせそうになかった。そこで、出発をあと2日延長して水曜日に乗ろうと決定し、朝8時半までゆっくりと寝たのだった。昨日の話では出発の前日にならないとチケットは販売しない。ということは今日はすることがないじゃぁないか。しかし、昨日話を聞いた男の言うことを全て鵜呑みにするわけにはいかない。もしかしたら、今日水曜日のチケットが買えるかもしれないではないか。
ということで、午後1時頃に駅に行ってみると駅に列車が来ていて人がわさわさと降りてきている。周囲の人に聞くと、朝7時半発の列車が遅れて今やって来たということだった。うわっ、何と大胆な遅延だ。これじゃぁ、ダイヤなんてあって無きが如しじゃないか。こんなことなら、荷物を持ってここに来ればよかったなぁと文句をいいながら、とりあえずマネージャールームを訪ねた。明後日のチケットを買いたいからだ。
マネージャールーム入り口。 |
マネージャールームには女性が一人いて、アシスタント・マネージャーだという。田中真紀子似の貫禄のあるその女性に「水曜日のチケットを買いたい」というと、昨日と同じく火曜日からしか販売しないので明日もう一度来るようにと言われた。
やっぱりそうなのかぁ。
折角来たのだから、列車がどんなものだか中を見て帰ろうと勝手に1等車両にあがりこんで中を見て周っていた。昨日売り切れだと言われた一等車両は、鍵がかけられたコンパートメントが多くて不思議だった。まだお客は来ていないのか?いやでも、6時間も遅れているんだから、もう着席していてもいいだろうに。
一等車両といっても粗末なベッドのあるコンパートメントで、埃っぽい環境だった。でも、鍵がかかりベッドがあるだけましだろう。一通り見て車両を降りると、一人の黒人男性が「君達もチケットを買いに来たのか」と話しかけてきた。彼はたった今車両の中でブローカーから一等車両のチケットを正規料金の倍額で買ったのだという。
「何を仰っているんでしょうか?」という表情の私たちに彼は説明を始めた。
ここのタンザニア鉄道ってのは、国営企業でもう根本から腐り果てている。チケットは遠い先までブローカーに全部売却されていて、窓口で正規料金で買いたいのなら1ヶ月先、いや2ヶ月先のチケットになるだろう。もし早く買いたいのなら、ブローカーから2倍、3倍の値段で買うことができる状況になっている。
というのだ。アフリカの政府高官が腐敗している、ODAの金が官僚の懐に流れ込んで現場に届かないというような話は、アフリカに来てからよく耳にする話ではあった。しかし、たとえ自分達の税金がそういう風に使われているにせよ、遠い話だと思って聞いていたのだが、ついにその腐敗ぶりが私たちの財布に直接関与することが発生したのだった。おお、アフリカだ!
ある意味、現実に直面することで「旅」をしているという薄い感動すら起こる話ではあるが、困ったことは困った。
困惑する私たちに向かって、タンザニア人は更に言った。
「Good news is・・・」
一つ朗報としては、あまりの腐敗振りに鉄道として機能しなくなってしまったのだろう、このタンザニア鉄道は2ヶ月前にインドの鉄道会社に売却されており、数ヵ月後からはインドの会社によって運営される準備が進められている所なんだと、彼は笑いながら教えてくれた。英語も上手くて、ちゃんとしてそうなタンザニア人としては、恥ずかしくて笑うしかないと思っているらしかった。まともな人もいる。
インド経営になるのなら、少しはまともになるだろう。しかし、裏を返せば今の状況は、「断末魔の叫び」ではないが甘い汁をすすれる最後の数ヶ月という時期に来ているということになり、この分では到底正規値段でチケットを購入するのは無理だろうという感じがした。
高値で買うしかないのか。次の打開策が見えないまま駅舎を出ようとすると、昨日は閉じていた「Ticket
Office」の窓口が開いてチケットを買っている人がいる。軍服のような制服を着た人に、今買ったチケットがいつのものかを尋ねると、1ヶ月先。やっぱり、さっきのタンザニア人の言ったことが本当なのだろうか。窓口で「明後日の一等車チケットが2枚ほしいのだが」と聞いてみると、何と売り切れだという。
売り切れだぁ?さっきタンザニア人から事情を聞いていたのでわかっちゃいたが、それでも白々しく言い切る窓口の男に腹が立った。
もう、何だかむちゃくちゃだ。火曜日にならないと売れないチケットがどーして月曜日に売り切れているのか?
久しぶりにブチッと切れて、「昨日訪ねたオフィスで聞いた話と、さっきアシスタント・マネージャーから聞いた話と違うじゃないか!」と言い返すと窓口の男性は憮然として「とにかく、ないものは売れない」の一点張り。「そんなのおかしい、アシスタント・マネージャーに聞いてきたらどうか」と言ってもまるで無視だ。ところが、都合よく、そして彼にとっては運悪く、そのアシスタント・マネージャーがこの部屋に現れたではないか。
私は、ぐいっとその女性を指差して「ほら、あの人が言ったの。あの人が。明日にならないと水曜日のチケットは売れないって。どいういうことが二人で確認しあったらどーなのよ!」と叫びたてた。するとアシスタント・マネージャーと窓口の男性はゴニョゴニョと相談した後、「水曜日のチケットは売り切れだが、金曜日のチケットなら今販売することができます」と答えるではないか。しかも正規料金で。
もー、信じられない。こんな調子でタボラまでは行けたとしても、今度はタボラからムワンザまでそっくり同じ状況になっているに決まっている。駄目だ、こんな列車には乗れない。
カーッと頭が熱くなって「もう、いいわ」と窓口を離れた。とはいえ、私たちはどうやってムワンザに行けるのだろうか。
飛行機はどうなのだろうかとプレシジョン航空のオフィスをのぞくと、フェリーで一緒だったスペイン人のカップルがいた。彼らはキゴマからダル・エス・サラームまでのチケットを持っていたのだが、今朝、空港に行ったらオーバーブッキングで乗れなくて戻ってきたという。ああ、ここも腐敗している。でもまぁ、ウガンダのカンパラに行く航空チケットについて聞いてみると、「キゴマ→ダルエス→ムワンザ→カンパラと3本の飛行機を乗り継いで、運賃は一人US$323です」と言われた。はぁ。キゴマからムワンザまでは列車なら一等車両で行っても一人US$30かからないだろう。10倍以上払うくらいなら、ブローカーに賄賂払って列車に乗った方が安い。飛行機という選択肢は消えた。
じゃぁ、バス。バスはないのかなぁ。近所の商店とかインターネットカフェに聞いても誰も知らない。町で一番信用できる知的な人はどこにいるのか?書店だ。本屋に行けばまともな人がいるかもしれない。ということで本屋で聞いてみると、キゴマからムワンザへの直行バスがあるという情報を教えてくれた。ほほー、やっぱりあるんだ。バスはAdventure
ConnectionとSaratoga Lineという2社が出していて、Adventure Connectionの方がいいバスだということだった。Adventure
Connectionの事務所は私たちが滞在しているムワンガ地区。Mwanga Lodgeから町を背にして45m先にあるという情報ももらった。素晴らしい。
ここまで情報が集められたらバスで行けるだろう。こうしてタンザニア鉄道の腐敗っぷりに呆れて、バスで行くことに決定したのだった。
ムワンガに帰る前に昼食を摂ろうと、一軒のレストランに入ると旅行者らしい若い白人男性2人組がいた。タンザニア鉄道のことでムカムカしていた私は、この話を誰かと共有したい気持ちでいっぱいだったので話しかけてみた。
すると、彼らも全く同じ状況に陥っていることがわかった。彼らは列車でダル・エス・サラームまで行こうとしていたのだ。
私たちのように腐敗ぶりを暴露してくれる人に出会えなかったので、正直に駅舎に日参して「今回も売り切れた、今回も売り切れた」と言われ続けて1週間。ようやく首尾よくチケットを買ったというドイツ人カップルに出会ったのだそうだ。ドイツ人カップルはキゴマでも高級なホテルに滞在していて、ホテルのフロントを通じて倍額で購入することができたのだそうだ。安宿に宿泊している彼らのフロントにはそんな力はないし、倍額払いたくない。とうことで、彼らはドドマまでバスで行き、ドドマから別のバスでダルエスに向かうことに決めたのだそうだ。
私が先ほどの顛末を話すと、深く納得していた。更に金曜日ならチケットが正規料金であるという情報まで得たので、一緒に窓口に行けば金曜日のチケットが買えるだろうと言うと、「ええ、そんなー」と驚いていた。しかし、既にドドマまでのバスチケットを購入してしまっているので、予定通りにバスでドドマまで行くようである。
とにかく、誰もが迷惑をしているのは確実だった。
キゴマは首都のドドマからも遠いタンザニアの西端にある。内戦状態のコンゴはタンガニー湖をはさんで目と鼻の先という地域で、コンゴに関する国連事務所やNGOに参加する外国人が大勢滞在している特殊な環境にある町だ。中央からの目が届きにくく、それなのにお金を持った外国人がたくさんいる町で、やりたい放題の腐敗がまかり通っている所だったのだ。
キゴマは単なる通過地点で何も観光する事がないと思っていたが、期せずしてタンザニアの現状を見ることになったのだった。
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