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2007.11.30 Vol.2
夜のインド音楽コンサート
インド:バラナシ |
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バラナシの観光客が多く通るベンガリ・トラ通りを歩いていると「今夜コンサートがあるから来ませんか?」というちらしを受け取ることが多い。バラナシに長く滞在している外国人にインドの打楽器であるタブラーや弦楽器のシタールを教えるお教室がいくつもあるのだが、その生徒さん募集の意味を兼ねてなのか小さなコンサートが多く開かれているようなのだった。
気にはなっていたが、悪徳教室のコンサートにひっかかるのも嫌だなぁと敬遠していたのだが、バラナシで出会った日本人の小池さん夫妻が誘ってくれたコンサートがあっていってみることになったのだった。
開催は夜8時から。宿から歩いていける場所なのだが細い路地を入り込んだ場所にあって少しわかりにくかった。ベンガリ・トラ通りを行きつ戻りつしていると、とあるインド人が「コンサートに行きたいのか?」と声をかけてきた。又、新たなる悪の挑戦かと身を硬くしたのだが、この青年は真面目にコンサート会場まで道案内をしてくれてお金を請求されることもなく会場に到着できた。
会場の入り口でチケット代金一人Rs100(=US$2.52、2007年11月26日の換算レートUS$1=Rs39.71を使用)を支払って中に入ると、部屋の後ろから中ほどまでが椅子席で、一段あがった座敷席が前の方に続き、部屋の一番奥に人二人くらいが座れる更に一段あがった場所が設置されていた。そこがステージらしい。
座敷席にはインド綿の股下の妙に長いパンツを履いた白人女性や、ドレッドヘアーの白人男性や、既に目をつぶってトランス状態のようになったアジア人男性など数人がいた。みんなインド旅行ベテランって感じで、私たちのようなインド素人旅行者はいない。こりゃぁ、ディープな所に来ちゃったなぁというのが最初の印象だった。
8時少し前になると、ステージにかなり高齢のタブラー奏者と30代くらいの縦笛奏者があがってきて音あわせをはじめ、8時きっかりに別の男性が司会を始めてコンサート開始。交通機関などはすべからく遅れがちなインドにあって、こんなにパンクチュアルにコンサートが始まるとは思っていなかったので、かなり意外だった。
今日の演奏は2組。1組目はタブラーと縦笛、2組目はタブラーとシタールの演奏になるそうだ。司会をしている男性は実は2組目のタブラー奏者でもあった。
ベテランの高齢タブラー奏者がツトトトトンと何気なく音を叩き始めると、それに合わせて笛が鳴り始め、いつの間にかコンサートが始まった。インドの音楽はこんな風に何気なくはじまるようだ。
インドに来て宿やCDショップなどでインド音楽のCDを聞かせてもらったのだが、インド音楽というのは楽しみ方が西洋音楽と違う。決まったメロディーがあるわけではなく、いつの間にか始まって長い時間をかけて盛り上がっていき、最後にクライマックスを迎えて終了するというパターンのようだった。どこまでが楽譜で決められた音楽で、どこからが奏者のインスピレーションによるインプロバイゼーションなのか素人の私にはさっぱりわからないのだが、二人の奏者が目と目を合わせながら演奏する様はジャズを思わせて、決して楽譜どおりにだけ演奏しているのではないことはわかった。
それにしてもタブラー。
両手を使って音を鳴らす太鼓なのだが、指や手のひらを使って太鼓の異なる部分を叩くとまるで別の楽器を奏でているような様々な音がする。その音のバリエーションたるやものすごい。
タブラーは打楽器なのでタブラーだけで演じられることはないだろうけれど、その存在感は管楽器や弦楽器など音階がある楽器以上に重く、とっても魅力的だった。しかも、1組目の奏者のおじいちゃんがゆったりと肩の力が抜けているのに、その技巧が素晴らしく、指の動きにも目を奪われる。
1曲だけなのに1時間にも及ぶ演奏が終わるころには、クライマックスを迎えて激しく打ち鳴らされるタブラーと物悲しくも美しい笛は熱い演奏になっていた。
ここでインターバル。素焼きの茶色い小さなグイノミ風の器が配られて、お茶が振舞われた。このお茶には蜂蜜が入っていて甘くておいしい。お茶を飲みながら、みんなゆったりとおしゃべりしたりして休憩するのがインド流コンサート。これはいいねぇ。
インターバルをはさんで2組目は同じくタブラーとシタール。シタールは弦がたくさんあるギターのような楽器で、見た目も美しいし、音もシャラシャラと華やかな音がする。しかし、弦が多く残音が長く響く分、合わない音がいつまでも残っていると汚い和音になってしまうので、美しい響きを保つのが難しい楽器だと思われた。司会をしている時はヒョウキンなコメントで会場を笑わせていた中年の男性も、演奏者となるとキリッと顔が引き締まり別人の面持ち。先ほどの枯れたおじいちゃんの演奏と比べると、力のこもった迫力で、こちらもなかなか魅力的だった。
さて、シタール奏者は・・・。
音の良し悪しはわからないのだが、この人はうっとりと自分の世界に入り込んで演奏するタイプだった。悦に入ったように目をつぶって演奏し、時々ニヤーッと笑いかけながら隣の奏者と目を合わせる。私はステージの左端に座っていたので、シタール奏者がニターッと笑ってタブラー奏者を向くと、真っ向からこの笑顔を拝見することになる。昨年からよく見ていた「のだめカンタービレ」というテレビ番組に、「独りよがりに演奏することをオナニープレーという」という表現がでてきたのだが、まさにオナニープレーだ。おー、気持ち悪い。このニタリ顔が気になって、気になって演奏を聴くのに身が入らなくなってしまった。隣のタブラー奏者も途中までは顔を合わせていたのだが、あまりに頻繁にシタールがこっちを向くので、最終的には無視する場面もでてきて、ありゃりゃという感じになっていた。
もう一つ気になっていたのは、私の近くに座っていたインド老人。この人も楽器を演奏する仲間なのか、後輩の演奏を聞きにきている風だったのだが、時々懐から何かを出しては口に放り込んでいる。のぞきこんで見ると、バナナの葉のような緑の生の葉に包まれた赤い物と白い物。これらを楊枝で混ぜて、葉っぱのような物と一緒に口に放り込んではくちゃくちゃと噛んで、しばらくするとペッと懐紙に吐き出す。どうやら紙タバコのような嗜好品らしいのだが、色がお菓子のように可愛らしいし、バナナの葉っぱにくるくると包んで楊枝でとめているのも洒落ている。なんだろう、なんだろうと気になる一品だった。
こうして2時間に渡る演奏が終了。想像していたよりもずっと良かった。今までCDなどで聞かせてもらった時は途中で飽きてしまって最後まで聞く気になれなかったので、今日も途中で帰るかもしれないと思っていたのだが、生の演奏は体の髄まで入り込む魅力で最後まで楽しめたのだった。
別にお教室への勧誘も何もなく、あっさりとコンサートが終了して客は三々五々家路についたのだった。なーんだ、こんなことならもっと多くのコンサートを聴きにいくべきだった。バラナシ最後の夜になって本物のインド音楽に出会えた貴重な夜。誘ってくれた小池さんご夫妻に感謝したい。
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