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2007.10.31
ふとしたことからNGO見学
ネパール:ポカラ |
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標高2900mにあるヒマラヤホテルは曇って雨もパラツク夕方となり、夜になるとすっかり冷え込んで寒くてたまらない!という気温にまでなった。
そんな寒い夜だったが、幸いなことに隣の宿に宿泊している日本人が話し相手になってくれた。全員が海外青年協力隊員で、年に一度の盆と正月が一緒になったような10月下旬のお休みを使ってトレッキングに来ていたのだった。皆さんのお仕事の内容を聞いたりする中で、一人の女性がポカラの私たちが滞在している場所から近い所でNGOに入って活動しているという話になり、「お時間があったら遊びにいらっしゃいませんか?」というお誘いに乗って本当に遊びに行ってみることにしたのだった。
彼女が所属しているNGOは「Women's Skill Development Project」という団体で、行きはバスで行ったのだが帰りは歩いて帰ってくるくらいの距離。スリジャナチョークShrijana
Chowk(この辺りは道がぶつかりあう交差点を○○チョークというらしい)にあり、この交差点に立ってくるくると辺りを見回すと大きな看板が見つかった。
中に入ると女性ばかりが作業をしている。近くにいた女性に赤座さんの名前を告げると、彼女を呼んできてくれたのだった。ここは、旦那さんに先立たれた女性や第二夫人として嫁いだものの旦那の稼ぎがあまりよくなくて生活費が必要な女性など、働き手のいない家族の女性を受け入れている団体で、糸の染色に始まって各種製品に仕上げてヨーロッパや日本などに輸出する事業を行っているのだそうだ。
中庭を囲んでロの字に並ぶ各部屋ごとに異なる作業場になっているので、一つ一つの行程を説明してもらえることになった。
最初の部屋は、インドから輸入した糸を染色する場所。
ここでは従来合成染料染めを行っていたのだそうだが、赤座さんの提案で新たに草木染にも挑戦している。草木染は、同じ素材で染めても媒染(ばいせん)という色素定着の行程によって3色に染め分けることができるのだそうだ。
染められた糸は、横板に棒を立てた器具に巻きつけていく作業場所。
これは次の織りにもつながっていくのだが、糸をまっすぐにして、織りを行うための縦糸を張ることになる。
前の行程で張った縦糸に対して、横糸を通して布に織り上げていく行程は、何ら織機を使わずに腰とウエストの帯で支えて織るのが特徴的で、織機を使わないので設備投資も少なくて済むために導入しやすいようだ。
この織り方はグルン族やマガル族というネパールに住む民族の伝統的な手法で、太い糸を使って縦糸がストライプになるような模様が基本だそうだ。できあがる布は長さ3.5mになる。従来のストライプだけではなく、ここでは現代風アレンジも加えて商品化をしているのだそうだ。
写真左側の白人女性はここに買い付けに来ているフランス人バイヤーのお母さんだそうで、織り方を学びに来ているのだそうだ。
こうして織られた布は、次の部屋で商品になる。用途に応じて布の幅を織り分けており、最大幅42cmから最小2cmにできるのだそうだ。
製品はカバンや人形などで、私たちが訪れた10月末はクリスマスシーズン向きに来たイギリスからのオーダーをこなしているということで、納期が迫っているのか大勢の女性が忙しそうに働いていた。
ミシンはもちろん足踏み。懐かしいような音が作業場に響いていた。
次の部屋は赤座さんの担当である商品企画というかデザインの部屋。日本での工業デザイナーとしてのキャリアと、その後に滞在したパリでのセンスを活かして、ここで赤座さんがデザインした作品は全作品400種のうちの100種にもなるというから驚いた。
そもそもは、ネパールの女性が作った職業訓練の場だったこの団体だが、1999年にネパールのNGOであるフェアトレードグループに所属して今はボードメンバーにまでなっている。しかし、ネパール人だけの発想では、先進国のニーズにマッチした商品を編み出しにくいこともあり、こういう製品開発の部門に先進国からの人を入れているのだろう。
赤座さんは自身でもデザインを描くとともに、自分が去った後の人材育成にもつとめていて、ローカルの女性のデザインに先進国の要求する機能性を考えたアイディアを付け加えてあげて、何が必要とされているのかを彼女達に気付かせようとしているそうだ。
デザインは形だけではなく色も要素に入ってくる。隣の色見本の部屋には、今までに染色された糸の見本がぎっしり。
サンプルノートを見せてもらうと、最初に説明してもらった、同じ素材の草木染でも媒染によって出る色が異なる例が、横1列ごとに並べてあった。同じ草から出た色とは思えないほどバラエティーに富んでいて、見ているだけで楽しい。
草木染は気温や湿度によって必ずしも同じ色に染まらないのだそうだ。草、そしてネパールの天候から十分に影響を与えられた布は、トレッキングを終えたばかりの私にはネパールの自然そのものに思えて面白かった。赤座さんもそんな草木染の魅力を感じているという。しかし、商品という観点から見るとあまりに異なる色が出ると、お客様の要望からはずれてしまうので、そこが難しい所なのだそうだ。
お次の部屋は総務室と呼ばれている部屋で、一人の女性がてきぱきと働いていた。
ここで働く女性は歩合制が多く、仕上げた仕事の量に応じて給与が支払われるのだが、給与を管理するのもここの仕事だそうだ。
また、資材管理も行っているのだそうだ。
最後の作業場は裁断の部屋。デザインに応じて布を裁断して縫製部門に渡すのが仕事だ。
裁断はやり直しが聞かないので、裁縫の行程の中でも気を使う場所だろうけど、ここもネパールらしくのんびりとした雰囲気が漂っていた。
全ての行程を見せてもらって30分も説明してもらった。いやいや、何も勉強せずにフラリ約束もなく訪れたのに、こんなに丁寧に説明してもらって、私たちはとても恐縮してしまった。
で、できあがった商品ってのはどんなのがあるのですか?
と聞くとショールームがあるという。
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いやー、この部屋は楽しい。実に様々な色や模様で織られた布が、見事にバラエティーに飛んだバッグになっている。
見ているうちに私も1つカバンが必要だったことを思い出した。 |
そうだ、ここで買おう。何てタイミングがいいんだろうか。
部屋の一角に他の織物とは趣を異にしている製品群がある。ここが草木染を使った製品のコーナーで、他の製品に比べると柔らかい色合いが都会によく似合いそうなソフィスティケートさを出している。
形も従来の肩掛けカバンではなく、トートバッグやヨガマッドケースや旅行カバンなど、都会の生活にマッチしたラインナップになっていた。
カッコいい。この一角は赤座さんのセンスが全開になっている棚だった。
本当はこの棚から欲しいとは思ったものの、私の希望するサイズと形がなかったことと、都会ではなくて旅先で利用するので汚れが激しいことを考えると、洗濯によって退色しにくい合成染料の製品の方がいいだろうと判断して、ビビッドな赤いショルダーバッグを買うことにしたのだった。
これも持っていると布の手触りがざっくりして気持ちがいいし、ネパールらしい模様が一部に可愛らしく入って、使うほどに気に入っている。各製品に縫い付けた団体のロゴもブランドという感じで洒落ている。合成染料の製品にはビビッドなカラーに合うように赤いタグに黒い文字で、草木染の製品にはもっと柔らかい色合いのタグがついている。タグも赤座さんの着想だそうだ。
丁寧に最後までお付き合いしてくれた赤座さんとショールームでお茶を飲みながら、更にお話させてもらった。
一番の苦労は輸出先相手の国とネパール人の時間感覚が合わないということだそうだ。
先進国では納期が近づいて作業が遅れていると、残業しても納期に間に合わせようとするのだが、ここの人は納期に対してあまりに感覚が鈍い。しかし、作業を急がせると今後はクオリティーが落ちてしまい、納期とクオリティーのジレンマに度々陥ってしまうのだそうだ。
「私のやっている事って、本当に役に立っているのだろうか」という悩みは、これまで会って話した別の協力隊員の人からも聞いたことがある。赤座さんも落ち込むと、そう考えてしまうこともあるのだそうだ。それでも、自分が対している人々が少しずつ意識が変わっていくことが見える喜びや、体にいい(発がん物質のないもの)染料を使っている製品を作っているという誇り、ここで働いている女性の子供は全て学校に通っているという事実を思うと、少しずつ自信を取り戻す。
「落ち込んだり、嬉しくなったり。色々と波はありますが、ここでの経験は私の人生に決して無駄ではないという気がします」と、自身も草木染のように柔らかな印象の赤座さんは、最後にしっかりとそう締めくくった。
任期が終了したら、またパリにでも行くのだろうか。今度はパリで活躍する彼女にも会ってみたくなった。
ポカラ女性技術開発計画 Women's Skill Development Project
土曜日休み以外は日曜日も含み朝10時〜夕方5時までオープン。
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