|
|
|
|
2005.03.10 満足度120%のゲッティー・センター |
アメリカ合衆国:ロサンゼルス |
|
ゲッティー・センターの名を初めて目にしたのは、自称「世界旅行者」のみどくつさんの著書「ゲッティーへの道」を読んだ時だった。著書はゲッティーへ行くまでの話なので、ゲッティー自体が具体的にどのようなものなのか、読んだ時点では全くわからなかった。ただ、何だか凄い建物で大変人気がある、ということだけがわかった。その後、ガイドブックで、ゲッティー・センターはオイルビジネスで成功したゲッティーという人が作った美術館で、誰でも無料で入れて、現代建築家のリチャード・マイヤーが建築したという情報は得たものの、今一つ、その魅力がよくわからなかった。だから、2月24日に初めてゲッティーに行くと決めた時、半日しか時間を割り当てずに、午後は別の用事を入れてしまっていた。
行ってみてその空間に心底驚いた。夫が建築に関わっていたため、今までにも著名な建築物を訪れて、私も素人なりに感じるものがあったが、ゲッティーでは、今までに経験したことがない感情が沸き起こってきた。一言で言えば「気持いい」のだ、とにかく。ずっとここに居たいと思わせる場所だと感じた。そして、すぐさま午前中しか時間をあてていなかったことを後悔し、絶対にもう一度訪れようと思った。
そして3月11日の今日、ゲッティーを再訪問することにした。 前回行った時に、安い交通費、入場無料、素晴らしく居心地の良い空間と満足だらけの中で、2つ不満足なことがあった。今回はそれらをつぶして完璧なゲッティー訪問にしたいと考えていた。
その一つは交通費だ。そもそも安いバス運賃だが、乗り方によって更に安くできる。サンタモニカからゲッティーセンターに行くにはBig
Blue Busの1番に乗り、UCLA付近でMetro Busの761番に乗り換える。前回は異なるバス会社への乗り換え割引があることを知らずに、各々のバスで代金を支払ってしまったが、今回はBig
Blue Busに乗った時にドライバーにMetro Busに乗り継ぐことを告げて追加料金¢25を支払い、トランスファーチケットを手に入れた。これがないとMetro
BusでUS$1.25を支払わなければならないのだ。今回は成功だ。お陰で1時間半の道のりを、たったUS$1で行くことができた。アメリカのバス料金は本当に安くて助かる。こうした行程もゲッティーを気持ちよく感じさせてくれている一つの要因だ。
2つ目の不満は昼食。あれだけの施設が無料で食事も安くておいしいということになると、当然、来てほしくない方々の巣窟になるのは想像に難くない。また、ゲッティーは丘陵の頂上にあるため、原料の運送費が他よりもかかってしまうことも想定される。だからゲッティー内の食事が割高なのはしかたのないことであるが、それにしても割高であまりおいしくないのは問題であると思った。従って完璧なゲッティー訪問をするならば、昼食持参しかないというのが、前回行った後の家族会議の結果だった。朝からご飯を炊いて、おにぎりを作り、厚焼き玉子を焼いて準備万端で臨むことにした。
さて、今日も狂おしいほどに青い空のゲッティー日和。2回目ともなればバスから降りてトラムへの乗り場へも迷うこともなく、トラムに乗って丘陵を登るうちに足元に広がっていくハイウェイに驚くこともせず、視線は丘の上にそそがれている。早く、早くあそこに行きたい。4分でトラムは頂上のゲッティー・センターに到着。朝の光をうけて、まばゆいばかりに光輝く白亜の現代城、ゲッティーがそこにあった。ゲッティーは1日を通して、さまざまな無料のツアーが開催されている。前回はガーデンツアーに参加したので、今回は11時から1時間かけて、全館内の見所を回るハイライトツアーに参加することにした。
案内してくれたのは、おそらくフランス人のモニカという女性。訛りがあって聞き取り辛い英語だったけれども、ユーモアと美術に対する知識を表情たっぷりに話す様子が、訛りを補ってもまだ余りあるチャーミングさを醸しだしていた。、気がつくと彼女のまわりはシングルの男性ばかりが取り囲む状況になっていた。やれやれ、何て欲望に素直な人たちだ。7つのパビリオンには、彫刻、絵画、写真、家具、陶磁器などゲッティー氏自身が買い付けたものに加えて、彼の死後に財団が買い付けたものが展示されている。モニカさんによると、絵画類が2階に配置されているのは、建物の天井から入る自然光を通して鑑賞できるようにするためとのこと。こうして、彼女の説明で1時間回った感想としては、ゲッティーは空間を楽しみにいく場所として考えた方がいいなということ。絵画を主目的にすると世界の名だたる美術館には遠く及ばない。しかし、現代建築の最高峰が作る贅沢な空間の中で、ちょっと美術鑑賞もできるという観点から見たら、素晴らしいじゃぁないですか。ツアーが終わると、ちょうど昼時となった。さぁ、お弁当の時間だ。
ギリシャのパルテノン神殿を思わせる太い柱が並ぶテラスで、持参したおにぎりと卵焼きを広げる。ここに座ってお昼ごはんを食べながら、何故ここが気持いいのか考えた。目に映る景色は青い空と白いアルミパネルと薄いベージュの大理石トラバーチン。丘の上にあるので周りの建物などが一切視覚に入らない。そう、ここは行ったことがないけれどよく写真などで目にする、エーゲ海の島々のイメージそのままなのだ。洗練された空間を味わうために、周りの雑な景色が入らないように高い壁を建てる手法は知っているが、ここの場合地形が壁のかわりをしてくれている。しかも周りが壁ではなく、自身が高台にあるためとても開放感がある。更に、子供の頃家で海に行く時は塩むすびと決まっていた。こうして陸地にありながら海近くにいる気分でおにぎりを頬張ると、子供の頃の楽しい思い出もよみがえる。そんなことが一緒くたになって、「気持いい」と感じるのだろう。
午後からはアーキテクチャー・ツアーに参加。角柱の建物の一部がずれたり、湾曲しているのが面白いが、ずれようと湾曲しようと1辺60インチの正方形を基本として、その配列は壁・床を伝って向かいの建物まできちっと続いている。角柱からのくずれと正方形パネルの配列、パルテノン神殿を思わせる古代風の素材とアルミパネルという素材のコントラスト。なるほどねぇ。
今度はアメリカ人の女性が説明してくれた。夫いわく、ジャック・ニコルソンの女性版。決して顔が似ているというのではなく、そのちょっと凄みのある腹筋を使った発声と粘りのあるアクセントで人生を楽しんでいる風がジャックなのだそうだ。ふむふむ、納得。先ほどのモニカもそうだが、今回は2人とも観客参加型の説明だった。「皆さん、これ何に見えます?」とか「この彫刻の女性は誰だと思いますか?」など単語で答えられる質問なので、言葉が不自由な外国人でも答えやすい。こうして声を出し合っていると、他の質問も出やすいし、場がもりあがる。アメリカならではの傾向なのか、これから訪れる国と比較するのも面白いなぁ。
さて、ツアーの後はパラソルの下で休憩。きりりと冷えたシャルドネなんか頼んじゃったりして、「ああ、お弁当持ってきたからこんな贅沢もできるのね」と更に満足度がアップ(因みにワインは200mlくらい入りでUS$2.75)したのでありました。
庭園をぐるっと巡り、芝生で休んで、帰ろうと腰をあげたのが午後4時近く。10時半すぎから5時間半、今回は大成功のゲッティー訪問でした。
|
|
|
|
|
|