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2005.05.08 vol.2 週末の夜のお楽しみ |
メキシコ:グアダラハラ |
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日中、グアダラハラ市内を観光していたら、ヒストリック・エリアの中心地にあるデゴジャード劇場の裏手で、ステージのセッティングが始まっていた。何々?早速、聞き込み調査。目の前で屋台を出しているお母さんに、「何かイベントがあるんですか?」と尋ねたら、毎週末の夕方5時から何かしらイベントを行っているとのこと。
市内観光が終わる頃、丁度5時近くになっていたので、イベント会場に行ってみた。まだ、椅子を並べている最中で、到底始まる様子はないが、準備は着々と進んでいるので、様子を見ていた。
左手は日陰に設置された椅子に座る組。右手が日向から椅子を運んできた強者組。 |
5時半といっても、グアダラハラの日はまだ高い。日向は焦げそうな暑さだ。イベントを見に集まってきた人たちは、日向から椅子が並べられているのを遠巻きに見ていた。しかし、日陰エリアに椅子が並べられ始めたとたん、サッとかけよって座り始めた。なかなか素早い行動。さらに、日向に並べられた椅子を、ズルズルと日陰まで運んで勝手に座り始める強者も出てきた。そんな光景をながめているうちに、既に時刻は5時半。もう始まるだろうと、私たちも着席して待った。
5時40分頃に、主催者らしき人が出てきて「5時始まりの予定でしたが、遅れております。もうしばらくお待ちください」というアナウンスがあった。会場に集まった人々は、「早くやれー」「遅いぞー」みないなことを口々に言っているらしいが、別に本気でブーイングしているのではなく、ここら辺から余興の世界に入って楽しんでいる風だった。
そして、6時過ぎ、いよいよイベントが始まった。今日の出し物は、男性と女性のボーカリストとギターやパーカッションのベテランバンド。年季の入ったいい声で歌い始めた。周りの席はほぼ地元の人でビッシリ埋まり、歌を口ずさんだり、物を食べたり飲んだり、涼しくなった週末の夜を思い思いに楽しんでいる。
ステージと客席の間には、ひっきりなしに物売りが通る。直径30cmはあろうかという薄い瓦煎餅みたいなお菓子を売る人、チューインガムや1本売り用のタバコやキャンディーの入った箱を首から提げた、メキシコ特有のチェック柄の可愛らしいエプロンを付けたおばちゃん、ゼリー状のお菓子売り。中でも私が注目したのは、綿菓子を売る少年と、私の斜め前に座っている同じくらいの年齢の少年だった。13〜14歳くらいの綿菓子売りの少年は、鷹のようなするどい眼差しで会場をくまなく見回しながら、何度もステージ前を往復して売っている。通る度に、綿菓子の数が減っているので、首尾よく売れているらしい。その大人びた顔立ちには、家計を支えている大人の表情があり、チャンスを逃すまいとする商人の表情があった。一方で、私の斜め前に座っている少年は、ポッチャリとした体系で、キッチリときれいにスポーツ刈りされた頭を揺すりながら、「今度はあれが食べたいのぉ」とだだをこねては、次から次へと食べ物を買ってもらっていた。父親は、文句を言いながらも買い与え、少年の口の周りのチーズを拭ってあげている。綿菓子売りの少年と、甘えん坊の少年が、丁度私の視界で重なった時、甘えん坊の少年の後頭部をつかんで、「見てみぃ、あの少年を。甘えている場合とちゃうでぇ!」と渇を飛ばしたい衝動にかられるくらい、対照的な2人だった。
メキシコは、どの程度貧富の差があるかわからないが、労働している少年や少女を非常に多く見かける。グアダラハラのみならず、ラパスやカボ・サンルーカスのスーパーに行くと、必ずレジの近くでこうした青少年を見た。そして、こうした青少年は皆、大人びた顔をしている。
さて、バンドのボーカル男性は、一旦奥に引っ込んだと思ったら、今度は衣装とかつらをつけて、お笑い歌謡ショーが始まった。この衣装は、メキシコ版ロデオのショー、チャレアーダCharreadaのカウボーイの衣装らしい。ちょっと酔っ払い風のチャーロCaharro(カウボーイのこと)が、面白い話をしながら、歌を歌っていく。会場は爆笑の渦に包まれていた。スペイン語はよくわからないが、誰かの真似をしていているらしいことはわかった。ベテランバンドは、歌だけでなく、芸達者でもあったのだ。その恰好のままで、マンボNo.5の演奏が始まると、会場からはダンス好きの老人や熟年カップルが、ここからもあそこからも、サワサワと出てきて、踊り始めた。中には、お相手を物色して会場内をうろつきまわるメキシコ人男性もいた。これは、と思う女性に声をかけるのだが、ごめんなさいと言われたり、片手を振るだけで追い払われたり、連れの夫らしい男性に睨まれたりして、結局ゲットできず、踊りたくてムズムズするのか、悔しそうに体を揺すりながら会場を見守る男性が、少なくとも2人はいた。そんな人を横目に、老練のカップルは、何故か物凄い真面目な表情で、マンボを踊っている。マンボが愉快な曲調の上に、時々奥さんの手を持ってクルクルと回したりしているので、こっちで見ていると「それ、笑いながら、楽しそうに踊るところでしょ?」と思うのだが、ひたすら無表情で踊っている。そういうもんなんですか、社交ダンスって?面白いなぁ。
ショーの合間にも、人々はどんどん入れ替わり、後ろで立ち見をしている観客は、席が空くのを今か今かと待っている。私の前に座っている、ちょっと派手目の女性は、濃い化粧でサングラスをかけ、タイトな服を身に着けて、子供を横に座らせて、自分は鼻の穴からタバコの煙をファーっと出したりしていた。彼女に対して、あからさまに非難の目を向ける老年の奥様なんかもいた。しかし、私の前の席が2つあいて、中年のカップルと老人1人が同時に席にかけより、中年カップルがちょっとの差で、椅子を獲得して、老人が諦めて、再び後ろに戻ろうとした時、派手目の女性が、すっと席を立って老人に席を譲った。なかなか粋な光景だった。
最後は、アンコールの声がかかり、2曲アンコールを歌った。2曲目は、「さぁ、会場の皆さんもご一緒に!」という具合に、会場に向けてマイクを差し出し、皆で声を合わせての合唱となった。確かに、いい節回しだったので、宿に帰ってから、フロントの女性にそのメロディーを歌って曲名を聞き、次に訪れたグアナファトでCDを買うことになった(曲名:Si no te hubieras ido)。
さて、次のバンドはやや若者バンドでボーカリストもレゲエ風なドレッドヘアーで、ラップを歌ったりした。でも、さっきのバンドでダンス熱にスイッチが入ったカップルたちには、ラップもへったくれもない。どんな曲でも踊っちゃうのだ。と、先ほど声をかけて振られまくっていた男性のうちの一人が、お相手をゲットして得意げに踊っているが目に入った。その男性は、髪の毛が肩までのびていて、しかも天然パーマなのでクリクリしており、口ひげもはやしている。まぁ、メキシコ人から見てもちょっと変わった風貌の男性だった。お相手の女性は?と見ると、先ほどまで数列前に座っていたお母さんだ。
1つめのバンドが終了した時に、このお母さんの旦那さんらしき人が怒りながら近寄って、お母さんと口げんかしていたので覚えていたのだ。想像するに、お父さんはお母さんをずっと探していたのに、お母さんがのうのうとステージ中央に陣取って見ていたので、腹が立っているらしい。お父さんは、ステージの左手の方に椅子を持ってきて、お母さんを呼んだ。お母さんは「どうしてこんな最高の席を手放して、隅っこの席にいかなきゃいけないの?」と怒っている。スペイン語がわからなくても、その表情やジェスチャーからほぼ内容が理解できるくらいに、表現力がある。それでも、お母さんは渋々と自分の椅子を持って、お父さんの方に移動していった。そのお母さんが、今目の前で、クルクルロングヘアーの男性と、腕を組んで、これまた無表情で踊っている。お父さんへの腹いせに違いない。
2番目のバンドの途中だったが、先ほど席を譲ってもらった老人が帰ろうとしている。派手目の女性は子供を膝に乗せて、私の前に座っていた。老人は帰り際、手にしていた一輪のバラを差し出しながら、派手目の女性に礼を言った。粋な女性へのお返しは、また粋なお礼だった。
私たちも帰ることにしたが、このステージのイベントを通して見た、人々の様子はまるで「ニューシネマパラダイス」の映画を体験しているかのようだった。
さて、夕食を中華レストランで済ませたが、まだ元気があったので別の広場に行ってみると、オーストリア人のドラムとアコーディオンの2人組が演奏していた。グアダラハラ市は、この5月をオーストリア月間と銘打って、オーストリアに因んだイベントを多く開催している、その一つらしかった。こっちの観客は、先ほどのショーよりも年齢がかなり若く、「いいぞ、オーストリアー!」というような掛け声もかかって、盛り上がっていた。こちらのバンドもなかなか魅力的だった。
時計を見たら夜の10時。そろそろ宿に戻ろうと歩いていたら、宿のすぐそばの公園に大勢の人が集まっている。若い女性に聞いたところ、この辺りのカトリック信者の集まりだそうで、これから神に感謝する歌と踊りのイベントが始まるのだという。「よかったら見ていきませんか?」と誘われたが、さすがに疲れてしまったので断った。
日曜日の夜11 時。街はまだまだ寝ようとはしていなかった。明日から、1週間が始まるんだよね?と余計な心配をしながらベッドに入った。先ほど通りかかった公園では、神への感謝イベントが始まったらしい。賑やかな音と歓声がぼんやりと響いてくるのを子守唄に、寝に就いた。
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