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2005.08.28 かる〜い気持でパカヤ火山! |
グアテマラ:アンティグア |
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パカヤ火山という2550mの山に登るツアーがあるという。一人US$7という手頃な値段で、「頂上ではマグマがグツグツいっているのが見えるかもしれない!」というのに魅かれて、宿でツアーを申し込んだ。
夫の靴はともかく、私の靴はNIKEのソフトな布地のもの。大丈夫だろうか?宿の主人からは「その靴ではちょっと厳しいかもしれませんねぇ、まぁ、ぎりぎり何とか大丈夫かなぁ?」と言われていたが、何とかなるだろうと、軽い気持で行くことにしていた。
朝5時50分、まだ夜が明けきらぬ中、宿から歩いて5分ほどのEl Gran Jaguarというツアー会社に向かった。余談だが、マヤの遺跡にはジャガーのモチーフを良く見る。そのせいか、メキシコからこっち、ジャガーと名のつくホテル、レストラン、旅行会社を数々目にした。ここもマヤ文明にあやかった商売なので、そんな名前にしてるのねー。
集合時間は6時。ツアー会社といっても、ホテルの中にあるデスクである。ちょっと心配になるような簡単なデスクだったが、6時5分前になって、係りの人も出勤してきた。リストを見ると14人の参加者がいる。
6時2分に、バンが到着して、乗り込んだのは我々だけ。そこから、各ホテルをまわって人を拾い上げていくのだった。アンティグアの街を出たのは6時半を過ぎていた。5列のバンは、ほぼ満席になって移動。一人US$7だから、お客さん14人でUS$98。午前と午後にツアーがあるので、1日の売り上げは最高でUS$200近くなる。これはかなりおいしい商売だ。とまぁ、例によって関係ないことに頭を回していたが、さっきバスの中で食べた持参のクリームチーズサンドイッチで胃に血がまわり、早朝に起きたのと、アンティグアを出てから、石畳でなく舗装道路になったスムーズさにどっと睡魔が襲い、バスの中で眠ってしまった。
目を覚ますと、相変わらずの舗装道路だったが、周囲は山に囲まれ、ズーッと上っては少し下り、どんどんと高度が上がっているようだった。やがて、脇道に入ると、ダートと呼ばれる未舗装の道になった。雨水が作った深い溝を避けながらも、ガタンガタンと車が大きく揺れ、いよいよ山が近いことを予感させた。やがて、本当に小さな村を通り、村の一角からかなり急斜面を上りつめたところが登山口だった。
一同はバスを降り、トイレを済ませ、入山料金一人Q25(US$3.29)を支払ってチケットを購入した。ここのトイレは、きれいに清掃されていて、トイレットペーパーもちゃんとあるし、手を洗う洗面所の脇にはハンドタオルまであった。さすがに、入山料金を支払うだけあって、ちゃんとメンテナンスされているのが、ありがたい。ちょっとした売店と、テーブルと椅子のある休憩所の壁には、噴火の写真が何枚も掛かっていた。中にはドッカーンと火柱立っているのもあって、こんな様子だったら、かなり危ないのでは?と疑問が浮かんだ。一体、どーなっているのだろうか?
ここで運転してきてくれた男性とは、しばしお別れ。かわりにサンティアゴという現地登山ガイドが案内してくれることになった。我々はサンちゃんと勝手に呼ぶことにした。先ほど買った入山チケットは、別の男性が山の入口に立っていて、昔の国鉄(ふ、古い!)みたいにはさみをパチンと入れてくれた。7時50分、さぁ、出発だ。
最初の20mくらいはコンクリートで固められた細い道だった。しょっぱなから体が前傾姿勢になるような坂で、こんな調子でいったら、きついなぁと思っていた。やがて、コンクリートがなくなり、土の坂道で、ところどころ木の根が階段のようになった道になり、出発して15分後、平らな見晴台があるところで1回目の休憩になった。見晴台からの眺めは、全て霧に包まれて、何一つ見えなかった。そういえば、アンティグアを出る時も曇っていた。もしかして、今日は、曇りのままか?
8時25分。2回目の休憩。 |
サンちゃんから説明があって、15分上ったら2〜3分休憩という風に進みます、ということらしかった。って、例によってスペイン語はようわからんのですが、所々に聞こえる「15分」「2分か3分」「休憩」という言葉から、そう判断した。道は鬱蒼とした森林の中に入り、霧というか恐らく雲だろう、白くて湿って冷たい気体が、風と共にサーっと通りすぎては、火照った体を冷やしてくれる。天気はよくないが、山登りをするには暑過ぎずに丁度よかった。これで、上にいったら晴れてくれたらなぁと都合のいいことを考えながら歩いた。
2回目の休憩を過ぎてから、突然森林が開け、軽石のような黒いゴツゴツした斜面に、くるぶしくらいの丈の短い草がところどころにしか生えていない原っぱとなった。あたりは一面雲の中である。そんな中を緩やかに上り、最後にグッと急に上りきると、平らな地面が広がっていた。9時だった。先の方は崖になっているようで、平らな地面は途中で雲に吸い込まれてなくなっている。
崖っぷちまでいくと、サンティアゴが雲の中を指差し、何かをしゃべっている。今回はお手上げだ。指の先に何か見えればともかく、「晴れていれば、この辺りに○○な風景が広がってみえるのです」の○○を想像するのは容易でない。
スペイン語を理解しないグループの約半分の人間は、「まさか、これで終わりってことじゃないよね?」「一体、何が見えるはずなんだろう?」と、いぶかしげに真っ白な雲を背景にピースした写真なんかを撮り続けた。写真も撮り終わり、これで帰るのか、また進むのかと、みんなの目がサンティアゴにそそがれた時、サンティアゴの長靴が、来た方向とは別の道を指し、彼は無言で歩き始めた。彼だって、最初はスペイン語でいろいろと話してくれたんだけど、みんながあまりにもスペイン語がわからないことがばれて、だんだん無口になっちゃっていた。
とにかく、この視界数メートルの殺伐とした世界では、サンティアゴだけが頼りだ。ついていくしかない。それまで、ちょっとしたトレッキングの延長くらいに考えていた我々は、これが登山なんだということを思い知ったのはこの時だった。「火山に登るツアー」といえば登山でしょう?でも、あまりに手軽な値段だったので、まさかこんな本格的な状況になるとは、思ってもいなかったのだった。「おお、これは、まさしく登山ですねぇ、健君。私は登山、初めてなんですよ。」「いやぁ、参りましたね、晶子さん、私も初めてなんですよ」と、不安な気持を打ち消すように冗談めかして言ったものの、サンティアゴが進む道は、どうやら尾根伝いらしく、幅3mほどの道の両脇は斜面で、途中から雲で見えなくなっている。おまけに、風が強くてウィンドブレーカーが、バタバタバタと大きな音をたてる程。
いったい、いつまでこの状態が続くのかと不安になったが、100mも進むと、左手が崖から山に変わり、風も遮られて歩きやすい場所に出た。しかし、そこから先の道を見て愕然。
視線の上の方に、ちっちゃく横一列に歩く人が見える。あ、あそこに行くのか?
そこから、1回の休憩をはさんでの20分間は、本当に登山だった。
くるぶしまでズサズサと潜るような砂地の場合はまだいい。足が汚れるくらいで、ひっかかりがあるからだ。所によっては、岩の上に砂が薄く堆積しているだけの場合もあり、この傾斜を踏ん張って重い体を引き上げようとすると、足がザラザラーっと滑り落ちる場合もある。サンティアゴが、何故長靴を履いているのかが、今、やっとわかった。私の靴は、ひっかかりがないので、滑り易い。なるべくサンティアゴの後をついて、彼が作った足跡の階段に沿って歩くようにした。途中で、疲れてうずくまって休む人、立ったまま休む人などもいるが、みんなかなり無言。また、雲だと思って吸い込んだ白い気体は、硫黄のガスで、喉もいがらっぽい。
パカヤでは、ここの斜面が一番きつかった。
やがて、平らな部分に到着。そこから更に頂上が見えているのだが、今日はガスが多いので、ここで終了ということだった。それにしても、何も見えない。ねぇねぇ、サンちゃん、これじゃ、何だか登り損みたいだねぇ。サンちゃんは、ここで20分、ガスが晴れるのを待って、景色を楽しんでから下山するつもりらしい。山頂近くの崖っぷちで、みんな白い霧を睨みながら、晴れるのをまった。10分後、サンちゃんのいうように、山の天気は変わりやすい。あんなにガスっていた白い気体が、サーっと嘘のように風に飛ばされ、今まで白一色だった景色が、下界の山林や畑、そして雲、その上に空という、大パノラマに一転した。おおおーーー。これは凄い。
今までの苦労(たいした苦労ではない)が、一気に吹き飛ぶような素晴らしい気持になった。今まで飛行機の中から、雲を眼下に見ることはあっても、こうして地に足をつけた状態で、雲を眼下に見たのは、生まれて初めてだった。これが登山の醍醐味かぁ。
左手には、まだ山頂が見えた。斜面の数ヶ所が黄色くなって、そこからバフッ、バフッと煙があがっている。あの辺りがマグマの吹き出し口なのだろうか?
しかし、あそこまで行かなくとも充分満足な気分だった。おまけに、「あー、こんな所で会うなんて!」と、パナハッチェルで知り合った2人組みの女性に会う偶然もかさなって、皆ではしゃぎまくった。彼女たちは、カリフォルニア米を調達して、ご飯を炊き、おにぎりを持参してきていた。この景色、この風の中で食べるおにぎりは、さぞやおいしいだろう。ここに来るなら、おにぎり持参はお勧めだ!
この景色を充分堪能して、さぁ下山と思ったら、我々のグループはサンちゃんを先頭に、山頂を目指して進み始めた。どうやらマグマ目当ての数人が、どうしも行きたいとダダをこねたようだ。「ガスが危険なので、行かない」とさっきサンちゃんが言っていたのに、大丈夫なのかしら?不安になりつつも、折角だから我々もついていくことにした。
山頂へは、右から回り込む細い道がある。坂は緩いのだが、今度はガスがひどい。トレーナーを口のまわりに巻いて完全防備でのぞんだら、案外喉は平気だったが、こうした覆いがない人は大変そうだった。山頂まではほんの5分ほど。山のてっぺんは尖っていて上れないが、ほとんどてっぺんと言ってもいい場所まで来た。
そのてっぺんの尖った岩の根元がほこらのようになっていて、ガスがサーっと消えた一瞬、マグマがメラメラっと赤く光るのが見えた。見えたー、見えたー、マグマだ、マグマだ。喜んでサンちゃんに報告すると、彼も満足そうに微笑み返した。登山口で見たような、派手に火柱があがる光景ではなく、どちらかというと超巨大なBBQの炭を見ているような感じだったが、顔に受ける熱線、風が吹くとバキバキっと音を立てるマグマは、これが吹き上がったらどんな大惨事になるかを想像する材料としては、充分だった。
山頂から振り返ると、左手に別の山が見え、右手に下界が見渡せる。この風景もなかなか面白かった。
山頂付近には座って休めるような平らなところはない。この晴れ間を利用して、どんどん次の登山者も上がってくる。というわけで、あちこちきょろきょろして7〜8分過ごし、下山することにした。
ズブズブッと思い切りよく歩くと楽しい。
中には、両足を揃えて、ジャーンプ、ジャーンプで
進んでいく白人男性もいた。 |
下の平らな所に降りるまでに、またガスがやってきて、視界は数メートルになった。煙いし、左手は急斜面だし、なかなかドキドキだった。道自体、急坂でないのが救いだった。下の平らなところでホット一息ついたら、今度は、もっとも急斜面を一気に降りる。登る時に、足のかけどころがなかったところで、ズルッとすべったりもしながら無事に通過。次は、ズブズブっと足首まで埋まる部分だ。ここは楽しい。ズサッ、ズサッっと、この際、靴や足の汚れは気にせずに、思いっきり体を沈ませながら下った。登る時は、あんなに苦労したのに、下りるのは何と楽だろう。これから、私達は「下山家」として山を楽しんでいきたいと思う。
一気に平らな所まで下りて、小休止。相当の砂や小石が靴下や靴に入っていた。一応、はらって、更に下る。来る時に尾根伝いに見えていた道も、晴れて両側が見える。両脇が奈落の底のように思えていたが、何のことはない、山の中腹にちょっと隆起した、尾根状の道だっただけで、ころげ落ちてもたいしたことはなかったようだ。見えないということは、異常に恐怖心をそそるものだ。
この尾根を下りると、黒々とした風景は終了になり、また緑の中を歩くコースとなる。振り返ると、行きには見えなかった注意の看板が見えた。「ここより先は、健康を害する有毒なガスと・・・」。なにー?あのガスって有毒だったの?注意書きなので、大分過激に書いてあるが、先にこの看板を見ていたら、山頂までの道のりがもっと恐怖に満ちていただろう。確かにガイドのサンちゃんは、口を覆うように言っていたけどね。見なくてよかった。
この注意書きを過ぎ、牛が草を食む、なだらかな草地に来て振り返ると、自分達が登った山が見える。あんなことろまで登ったんだ、とつくづく満足感がこみ上げてくる瞬間である。サンちゃんは、ここで止まって休憩するつもりはなかったらしいが、あんまり皆が写真を撮り出すので、しかたなく、遠くから見守ってまっていてくれた。
そして、人一人しか通れないような、木のゲートを通る。ここは、来る時にも通った。登山口からこの木のゲートまでは、登山グループの後ろから、馬タクシーが2台(頭?)ほどついてくる。挫折した人を即座に馬に乗せて、タクシー代金をもらおうという商売だ。ちょっと急な坂を上りきると、「タクシー、タクシー」と誘いをかけてきた。我々のグループは誰も利用しなかったが、この木のゲートまでタクシーはついてきた。このゲートは、この先、馬立ち入り禁止の意味があると思う。商売だからと、危険な付近まで馬を入れない配慮だろう。
そして今、再びゲートを通ると、先ほどついてきていた馬と馬主が待機。今度は下山狙いだ。グサグサと足が埋まる斜面よりも、実は森林の中の坂道の方が、下りるのがきつい。
道はどんどん下っていく。どんどん、どんどん。いやー、こんなに登ったんだと、また感動する道のりである。
登りで休憩した場所も止まらずに、サクサクと進む。サンちゃんは、午後にもう一度登山するようで、時間が気になるらしい。しかし、1日のうちに2往復するなんて、仕事とはいえ凄い。
やがて、コンクリートの坂道になった。もう一息だ。土の道と比べるとコンクリートは膝への衝撃がきつい。この道を下って、登山口に到着した。早速飲んだビールのおいしかったこと。
帰りはダートの揺れもS字カーブも気にならず、ぐっすりと眠って帰ることができた。運動不足の中年夫婦である私達。最近は毎日1時間、サルサ教室に通っていたせいもあってか、なんとか登山をこなすことができた。泣き言をいいたい程辛くはないが、ちょっときつい所もあった。しかし、上の景色は、写真や文章では伝えきれない素晴らしさがある。地面を噛む靴をはき、カリフォルニア米のおにぎりを持参したら、もっとよかったかな。
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