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2005.09.18
トルトゥゲーロ国立公園〜全体の計画とウミガメ産卵ツアー |
コスタリカ:トルトゥゲーロ国立公園 |
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スペイン語でカメのことを「トルトゥーガTortuga」と言う。トルトゥゲーロという名前はこれに由来しているのだろうか、ウミガメの産卵で有名な国立公園である。産卵の時期は7月から9月。この時期のコスタリカは雨季で、雲霧林で有名なモンテベルデも、ビーチのあるニコヤ半島も雨でパッとしない中、トルトゥゲーロだけはオンシーズンということになるらしい。
そういう理由もあって、サン・ホセの宿の主人から「トルトゥゲーロは行った方がいいですよ」と勧められ、最初の予定にはなかったが行ってみることにした。
アレナル火山国立公園から移動してきて宿を決めたのが、午後4時ごろ。宿の主人がツアーも行っているというので、話を聞きに行った。
トルトゥゲーロでの楽しみは、ウミガメの産卵ツアー(夜8時あるいは10時発2時間)、ジャングルボートツアー(朝がお勧め、所要3時間)、公園内トレッキング(45分くらいの1コースのみ、入園チケットUS$7)だそうだ。2泊する予定なので、ざっと計画をたてると
・今夜、カメのツアー(US$10/人)
・翌朝、ジャングルツアー(US$10/人、ただし公園入園料US$7は別)
・翌日午後に公園内のトレッキング(午前中の公園チケットを使用可)
・翌々朝、帰りのボートに乗る(C3000=US$6.17)
ということにした。一緒のボートでここに着いたオーストリア人は、カメのツアーの翌朝にジャングルツアーは疲れるので3泊にすると言っていた。まぁ、それもありだ。しかし、2日目に1日空けると、一般的な日本人にとっては、暇つぶしが難しい村かもしれない。カリブ海に面したビーチは、カメの卵があるせいかハエが多く、砂浜は黒い砂で、海もそんなに美しくない。村は小さく、端から端まで歩いて20分くらいだ。そうそう、トルトゥゲーロの丘へ登るツアー(ボートを使わないといけないそうだ)を入れるなら3泊にして2日めに行くというのもよいかもしれない。
我々としては、予定通り2泊で充分だという気がしたので、上記の予定で必要なチケットを全部、宿の主人のところで手配してもらうことにした。ここに来る時のボートは乗船チケットにUS$10と書いてあったので、来る時よりはちょっと安くなった。
さて、ウミガメの産卵ツアーは夜8時からと夜10時からがある。我々は翌朝6時からのツアーもあるので、できれば8時からを希望したかったが、何時からのツアーになるのかはガイドの采配で決まり、選ぶことはできないそうだ。夜6時に発表されるので、このツアーデスクに来るように言われた。ちょっと小耳にはさんだ話では、夜10時からの方が、多くのカメが産卵に現れるらしい。だから10時を希望している人もいた。色々と観光客の意向もあるので、一応希望を聞いてくれてもいいんじゃないかなぁとかなり不満を感じた。ここら辺が、観光でやっていこうと思っているのにホスピタリティーが足りないんだよなぁとか思った。
でも、後で村のカメツアーは村人の手で運営されていることを知って、この考えは少し変った。村人のマンパワーを効率的に使って、カメの保護も考えると、このやり方が一番いいようなのだと理解したのだ。
カメが出現する海岸に沿って、樹木が生い茂るブッシュ地帯が3mくらいの奥行きであり、その裏に道が走っている。海岸に出るには、等間隔に設けられたブッシュの間の細い道を通ることになる。細い道には番号がつけられており、海岸には数人の村人がウミガメの動きを監視して、ツアーガイドの村人とトランシーバーで何番入口から入るか、情報をやり取りするのだ。
海岸で監視する人、ツアーガイドをする人が必要で、更に観光客はこの時間帯はガイドなしで海岸には入れないし、ガイド付きで入っても2時間しか滞在できないという制限が設けられている。こうしたシステムと制約で、ウミガメを保護しつつ、保護のための資金を観光で確保して行くという方針だそうだ。とまぁ、こういうシステムの中では、観光客の意向は二の次になるのは仕方ないなぁと思ったわけである。
ツアーグループの発表まで時間があるので、村の中を散策することにした。ボートが着いたところを背にして、右手が川、左手がカリブ海に挟まれた細長い砂州のような村である。メインストリートは、幅2mほどの未舗装の道が真っ直ぐ1本だけ。その両脇に、レストラン、ミニスーパー、教会、土産物屋が立ち並んでいる。道行く人々の中には、黒人系でドレッドヘアのジャマイカンな人もいて、民家から、大音量でレゲエミュージックも聞こえてくる。あぁ、ここはカリブ海に面したところなんだなぁと実感できる村である。
村の端には、川に向かっていきなり大きな鳥の像が2つ、スックと立っている公園がある。ここだけ、何だかとってつけたような所だった。翌日、村をぶらぶらしてわかったのだが、周囲の孤立したホテルから「村の観光」というツアーで、この村を訪れる観光客が多くいる。そうした人たちの待ち合わせ場所兼お休みどころとして、この場所が機能しているのを見た。観光客の数が年々増えていって、それでは、ということで得た収入で最近作ったものと思われる。周囲の風景と全くそぐわないところが凄い。それだけに、待ち合わせ場所としては、とてもわかりやすいのだが。
さて、6時の発表で8時のツアーグループになった。この発表の時に、カメを脅かさないように白いシャツは黒かそれに近い暗い色のシャツに着替えてくるように、カメラはフラッシュなしでも禁止されていること、傘を持ってきたほうがよいことなどの注意事項が言い渡された。カメラがだめっていうのが、我々にとっては痛い。このスケッチも、写真はここまでとなってしまう。しかし、デジカメは音を出すし、誤ってフラッシュをたいてしまうかもしれないし、液晶画面が光りすぎるかもしれない。出産中のカメが不愉快に思わないように、諦めるしかなかった。
8時にツアーは徒歩で海岸に向かう。海岸からだいぶ内陸にひっこんだサッカー場の手前で、海岸からの情報を待った。この日は満月に近い夜で、空にはこうこうと月が光り、この分ならカメの出産も充分に見えそうだった。しかし、肝心のカメの情報がなかなか来ない。時刻は1時間を過ぎようとしていた。
その時、ガイドのトランシーバーに連絡が入った。海岸沿いの道を歩き、指定された入口から入る。惜しい。カメは出産を諦めたようで、海に帰っていく後姿が見えた。我々の気配を感じているようで、大きな体についた4本のヒレを必死に動かして海に向かう。でも、疲れちゃって途中で止まって休み、また必死で歩く。やがて、カメは暗い海の波間に消えていった。これまでウミガメと言うと、動物園などでスイスイ泳ぐ姿しか見たことがなかった。こんな野生のウミガメが、暗い夜の海に消えていく光景を見られただけでも、何だか凄いぞ、という気がした。でも、あんなに必死に歩かせちゃって、申し訳ないという気もした。
最初のカメが行ってしまったので、もう一度ブッシュを通って裏道に行き、そこで待機して連絡を待つ。程なくして、第二の連絡。「25番入口だ」と聞こえた。25番入口に向かい入ろうとしたら、海岸監視員の村人が、ウミガメはもういない、というようなことを言っていた。ウミガメは、一晩のうちに何回も出産を試みに、浜にあがってくるらしい。しかし、掘ろうとした所がたまたま硬いとか、人の気配がするとか、その他よくわからないウミガメの事情によって、諦めて海に戻ってしまうということなのだった。25番はだめだった。また戻って待機しようかと思ったら、今度は30番だという連絡。30番に入って行くと、左手から、こっちだこっちだと別の村人が手招きしている。一体、何人の監視員がいるのだろう。
ウミガメを驚かせないように赤いライトを使うのだが、こちらに向かって赤いライトが振られている。どうやらあの場所にウミガメがいるらしい。ツアーの客は、無言で興奮しながらその方向に近づいた。いた、やっとウミガメの産卵現場を見た。大きく丸く掘った穴の中に、ウミガメがうずくまっていた。穴の中のウミガメは、その中にさらに小さな穴を掘って、その中に産卵していくのだった。
すると、ガイドが皆にウミガメの後ろに回れと支持。ガイドはウミガメの真後ろに行き、後ろ足の一本、といってもベロッとした物をヒョイと持ち上げ、赤いライトで照らした。するとウミガメの体から、卵がボタボタボタっと、穴に落ちていくのが見えた。穴の中には既に真っ白な卵がうず高く積みあがっている。凄い、本当に産卵の現場だ。
観光客はガイドの指示に従って、一人ずつウミガメの真後ろに回って卵が落ちるのを見せてもらった。その間にも、他のウミガメが浜に上がってこようとした。ガイドが「みんな、しゃがんで。人影で逃げちゃうから」と言って、皆しゃがんだのだが、既に遅く、ウミガメは海に去っていってしまった。
結局、この夜は一匹のウミガメの産卵をじっくりと観察した。本当は生み終えたウミガメが、海に帰っていく姿まで見たかったのだが、産卵観察が一通り終わると「さ、皆帰って、帰って」と海岸から撤退させられた。理由がわからないので、ウミガメが海に帰るのを邪魔しないようにかと思っていたが、後で観光客の海岸滞在時間が2時間と決められていると聞き、この日はカメの出現が遅かったのでタイムアップになったのだろうと思われる。
これがウミガメツアーだった。宿に帰ってからオーストリア人と話をしたら、彼らはこのウミガメツアーが全く気に食わないということだった。彼らの望みとしては、海岸に座ってウミガメが来るのを待機して、ウミガメが産卵して帰っていくのを、遠くからでもいいから見守るようなツアーだと思っていたそうなのだ。そのためには、海岸に3時間くらいねばってもいいと思っていたと言っていた。それなのに、あんなにシステマチックになっていて、しかも産卵中のカメの足を持ち上げて卵が落ちる所を見せるなんて、カメに影響はないのか、本当にこれで保護なのか、単なる金儲けなのではないか、と大いに不満だったようだ。
私としては、産卵中のカメの体の一部を持ち上げて、赤いライトで照らして一人ずつ呼ばれてこっそり見るというのが、何か覗き穴からヌードでも見せられているような悪趣味さを感じたので、そうした意味ではこのツアーが妙だと感じた。また、こうした行為がカメに悪影響を与えないと、誰か調査した上で行っているのかどうかもわからないので、罪悪感のようなものも感じた。しかし、一方でテレビなどでしか見ることがなかった産卵を、肉眼で見たいという気持も正直あり、そうするためには、あの状況ではカメの足をめくらないと見えない。
後で出会ったイギリス人にこのツアーの話をしたら、やはり「おえーっ」という顔をして、そんなツアーなら行かないと言っていた。また、他の日本人に話をしたら、「僕の行ったツアーでは、カメに触ることはありませんでしたねぇ」と言った。
どんな風に出産を観察するか、ガイドから事前に詳細な説明があれば、もう少し気分も良かっただろうし、そうした内容が見たくない人は参加しないですんだだろう。また、こうした行為がカメの出産には影響を及ぼさないということが、研究者によって研究された結果なのだ、とでも言ってくれれば、罪悪感も感じないですんだだろうし、悪趣味とも感じなかったかもしれない。カメの出産自体はとても興味深かったが、様々な点が説明不足だったお陰で、今でも複雑な気分だ。
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