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2005.12.02
ブドウを使ったお酒三昧のツアー |
アルゼンチン:メンドーサ |
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宿に到着して、メンドーサの予定を立てようとしていたら、宿のマネージャーのマリアノがあるツアーを勧めてきた。
「お値段は1人A$85 (=US$28.33)で、ボデガを2つ以上周り、2つ目のボデガでは昔ながらのワインセラーの雰囲気の中で、ワイン飲み放題とおつまみがどっさり。これは始まったばかりの新しい企画で、まだ僕も行ったことがないんだけど、旅行代理店の話を聞いて、絶対にお勧めだと思うんだ」とマリアノの話は止まらない。
でもね、通常ボデガに1ヵ所連れて行ってくれるツアーがA$25が相場で、2ヵ所行ったとしても倍にならないからA$35としよう。するとワイン飲み放題とおつまみどっさりでA$50(=US$16.67)の価値ってことになる。物価の安いアルゼンチンでUS$16も出したら、普通にたくさん食べてたくさん飲める。新しい企画ってのが微妙だ。マリアノが「そしたらね、飲み物もフリー、食べ物もフリー」ってフリー(無料)じゃなくてツアー代金支払っているから、そういう言い方が気に食わない、などなどの理由から、話を聞いていてもどうも乗り気がしなくって、お断りのモードに入っていた。
ところが夫が、「ま、ただワイナリーに行くよりも面白いんじゃない?」なんていい出して、マリアノが「だよねー、だよねー」と拍車をかけ、あれよあれよという間に行くことになった。しかし、もう一つ、私には気になる点があった。メンドーサにいる間に、ラ・ルラルとシャンドンというボデガには最低行きたいと思っていたので、このツアーにシャンドンを組み込むことができるのなら、参加してもいいと最後に条件を出した。シャンドンは、フランスのシャンパーニュ地方のあの有名なモエ・シャンドンのメンドーサ支店。行っておきたいじゃないですか、折角メンドーサにいるんだから。
こういう所、マリアノは天才的にしっかりとしていて、翌日になるとシャンドンを組み入れたツアーを2日に開催するから、更にボデガは3ヵ所周ることになったからと言ってきた。これで私に反対する理由は何もなくなり、ツアーに参加することになった。
2日の朝10時、お迎えのミニバンがやってきた。今日のメンバーは我々2人と、隣のホステルに宿泊しているイスラエル人カップル2人とイギリス人青年1人だった。そして、ガイドは、先日のアコンカグアを見に行くツアーでもガイドしてくれた陽気なフリオ。今日もノリノリで迎えてくれた。
「今日は4つのボデガを巡ります。ボデガといっても1つ目はスパークリングワインを主に生産しているシャンドン、2つ目は教会ミサ用のワインを生産している所、3つ目はピスコやグラッパ、ブランデーなどブドウを使った蒸留酒を生産している所、そして4つ目にいわゆるワイナリーに行って、お待ちかねのお食事となります。」とフリオから今日の予定の説明があった。
シャンドンは、先日訪れたラ・ルラルのあるマイプーという町よりも更に先にあるやはりワイン畑の続く地域にあるということで、メンドーサから車で40分ほどかけてシャンドンのワイナリーに到着した。シャンドンの会社はルイ・ヴィトンなども抱えるゴージャス用品を扱うグループに所属している。シャンドンの敷地に入ったとたんに、スプリンクラーの回る青い芝生があり、アプローチには花が咲いて、モダンな中にもクラシックな要素を入れた展示場が見えてきて、さすがゴージャス追求にかけては、世界一流のグループの会社だけあるなぁとすぐに感心してしまった。
現在、シャンドンでは予約のない訪問者は受け付けないことになっており、先日訪れたラ・ルラルのようにフラフラと個人でうろついている人は一人も見えなかった。やがて、担当者が訪れて、写真の展示場の裏手に回って、ツアーが始まった。
ラ・ルラルと同じくシャンドンもかなり近代化された工場施設になっていて、整然と並んだ金属のワイン醸造タンクを前にして、説明が行われた。スパークリングワインがどのように造られるのか、という話よりは、我が社では年間生産量がこれこれで、主な輸出先はどこの国で、ここに見えているタンクは何リットル入る容器で、他の場所と合わせていくつあって、というマーケティングと施設の話が多くて、正直あまり興味はわかなかった。ただ、話の中で面白いと思ったのが、シャンドンはアルゼンチンのスパークリングワインマーケットで67〜8%のシェアを占めているという話と、メンドーサのシャンドンでは75%がスパークリングワインで発砲していないワインは25%しか生産していないという話だった。
日本ではもちろん有名メーカーのシャンパン初め、各国のスパークリングワインが入ってきている。中には2流、3流のスパークリングワインもあるだろう。その状況と比べると、アルゼンチンの人は平均的に質の高いスパークリグワインを飲んでいることになるんじゃないかなぁと思ったのだった。他の物は知らないが、少なくとも牛肉とスパークリングワインにおいてはアルゼンチン人は総じてグルメだと言えるんじゃないだろうか。
近代的なタンクの次は、瓶詰めの工程の見学だった。普通ここには一般の人は立ち入らせないらしいのだが、フリオの努力なのか、担当者の気まぐれなのか、我々は入って見せてもらうことができた。この事を本当にラッキーだと、友人に自慢するようにとフリオから説明があった。
その自慢の瓶詰めの工程では、クラブなどで販売するために少量に瓶詰めされたスパークリングワインがラインに流れてくると、ピンク色の管を瓶につっこんでは抜いている兄ちゃんがいた。「あの人は一体何をしているんですか?」と質問すると、機械注入された瓶の内容量が多少違ってきてしまっているので、最終的に人手で量を調節しているんだという回答だった。
しかし、どーみてもその兄ちゃんは、同僚とおしゃべりしながらピンクの管を突っ込んで抜くだけで、そんな微妙な調節をしているようには見えない。最終的にキャップを被せられる直前のスパークリングワインの量はまちまちのままだった。先日、フリオが嘆かわしげに言っていた、「アルゼンチンでは利益に対して人員が多すぎて、余計な所に人を使いすぎるのです」という言葉が頭をよぎった。大エンタープライズをしてもこの状況なら、他は押して知るべし。フリオの解説を実際に目撃できたのがよかった。
スパークリングワイン工場見学というのは、こんな感じ。11時半に解説が終了して、展示場に戻ってくると、キンキンに冷えたスパークリングワインが私たちを迎えてくれた。
この試飲カウンターもカッコいい。スパークリングワインの素人としては、工場見学は今一つだったけれど、シャンドンの冷えたスパークリングワイン、そしてこのカッコいい空間でそれを味わえること、これがシャンドン訪問の最大の喜びだと思った。
リビングにこんなワイン棚があって、そこから外に出ると、気持ちのいいテラスがあり、その先に青々とした芝生が広がっている。いやぁ、こんな家があったらいいなぁと思った瞬間でした。
ここで試飲したスパークリングワインは、こことアメリカ合衆国でしか販売されていないFRESCOという物だそうで、辛口過ぎずフルーティーな味わいで飲みやすいので1本購入した。
次の目的地に向かおうと車に乗り込むと、フリオがスパークリングワインが2本入った袋をドライバーに渡し、我々に向かって「シャンドンは誰が一番偉いか知っているみたいだね!」と目配せしながら言った。ドライバーに一番気を使うなんて、洒落たサービスをするもんだ、とこの時は思っていたが、これが後になって間違った認識だったことを知ることになった。
2軒目は、先ほどのシャンドンから程近い所にある、CABRINIというワインメーカー。シャンドンとは異なって、展示室となっている母屋は、初代が18世紀にイタリアから渡ってきた時に自宅として使っていたという建物で、壁に描かれた当時の肖像がに、自分たちが今立っている居間が描かれている。ワイン倉も古い感じで、昔ながらの醸造所という趣があった。現在は4代目ということだが、2代目がイタリアに帰って僧侶になった縁から、教会のミサで使用するワインを造ることになったそうだ。
教会のミサ用に使う樽は通常のワインに
使った物のお古を使う。ここでじっくりと寝
かして、ポートワインに仕上げる。 |
試飲会場は、オーナー一家のダイニングだった
所。代々のオーナーの肖像がや写真が壁に
かかり、歴史を感じさせる。 |
ここのワイナリーでは、この辺りで収穫されるマルベックというブドウから作られた赤ワインの1年物と5年物を出してもらって、熟成によって、同じブドウでもどんな風に味が変わってくるのかを楽しませてもらった。この辺りのマルベックは、世界的な評価が高く、メンドーサに来たらマルベックでしょう、という話は、先日のワイナリー訪問でもチェコ人からも聞いていた。
若いワインは酸味が強くて、フルーティーさも残っている。熟成した方は、まろやかな味になっている。好みの問題だが、私は熟成した方が好きだった。ここでは、最後に教会用のワインも飲ませてもらった。ほんのりと薄く赤みのあるロゼのワインは、少しトロっとしていて甘みが強い。教会ミサ用のワインなんて初めて飲んだので、面白い体験だった。
3件目はTAPAUSというブドウやその他のフルーツを使って、蒸留酒を専門に作っている会社だった。
まだ新しい会社で、社屋もできたばっかり。近くの川の石と廃線になった鉄道レールを使ったという建物は、エコロジカルな雰囲気をモチーフにモダンな作りだったし、ロゴも新しい感覚で可愛らしい。ポップな会社という印象を持った。
案内人の女性に従って社屋に入ると、ミニ体育館のようにガラーンとした空間の中に、ポツンと2つだけ蒸留器があった。
中央に開いている丸い口から果物を投入して蒸留するそうだ。ぶどうの場合250kg投入して、蒸留酒として取れるのは5kgだというから贅沢だ。
なぜ、こんな広い所に2つだけ置いているのですか?という質問に対して、案内の女性は「まだ、会社が始まったばかりなので、これから生産が増えるごとに追加していく予定です」と答えていた。本当に始まったばかりなんだぁ。
この蒸留の過程を終えると、薄暗い倉庫のような所で熟成される。温度と湿度の管理が大切で、原料になった果物によって、熟成の日数が変わってくるのだということだった。薄暗い中に置かれた黒っぽい瓶には、手書きで「オレンジ」やら「ぶどう」やらと原料の名前と日付が書かれている。隣の部屋の瓶詰め作業室も、機械などはなく、人間の手によって瓶詰めされているという話だった。ワイナリーにも良質少量生産のブティック・ワイナリーがあるように、ここはブティック・スピリッツを作っているのだろうか?と思った。
試飲会場は、中庭に面したパティオだった。これもメンドーサ新進気鋭の何とかというデザイナーによる設計だとかで、外から見ると、釣鐘を被せたような屋根が、6角形の打ちっぱなしの建物の上に乗っている。
中に入ると、真ん中に試飲用のスタンドが立っていて、この会社のシンプルなボトルがずらりと並び、色々な色のお酒が並んでいる。お酒の瓶の目線の向こうは、緑の中庭で、真ん中の噴水が涼しげに水をあげているのが見えた。
見上げると、釣鐘の内側は竹のような素材で組んだ屋根で、真ん中に緑色に見えるのは、昔から現在でもこの辺りで使用している10リットル入りのワインの瓶である。
こんな気持ちの良いパティオで試飲も初めてだった。今日のツアーの面白いのは、ブドウという素材を使って異なるお酒を造っている現場を巡っているという点だが、それに加えて、それぞれのメーカーの試飲会場にも特徴があることだった。ここに来て、このツアー、当りだったなぁという実感がわいてきた。
今回のお酒は強いものばかり。白人はお酒に強いと思っていたが、意外と皆飲まない。
無色透明のグラッパから始めて、ブランデー、ピスコ、キャラメル風味のスピリッツ、カシス風味のスピリッツと、だんだんと味の濃いものを試飲していく。グラッパ、ブランデーの良し悪しは、飲んだことがあまりないのでわからない。しかし、味つきの方は、これを使ったカクテルはさぞやおいしいだろうなぁと想像できた。
この時点で午後2時になろうとしていた。朝からスパークリングワイン、そして、ここに至ってはスピリッツまで飲んでしまった我々は、4軒目のお食事が待ち遠しくなってきていた。
4件目では、Caa de Canoというワイナリーを訪ねた。あまり蔵の説明やワインの説明がなく、すぐにワイン試飲会場へと通された。しかし、お食事はまだだ。このツアーの売りでもある、「ワインの楽しみ方をソムリエから教わろう!」のコーナーがまだ残っていたのだった。
5人が揃ったのに、なかなか始まろうとしない。そこへ、ガイドのフリオがやってきて、「もうちょっと待って。ドライバーが来ないと始められないんだ」と言った。「どうしてドライバーを待たなきゃいけないの?」と皆が口々に言い始めて、初めてドライバーの正体が明らかにされた。本日のドライバーは、実はフリオのボスのお父様、つまり今日の旅行代理店社長のお父上というのだ。なるほど、シャンドンで付け届けがドライバーに渡されたのも、このためだったのかと合点がいった。2軒目のワイナリーで、このドライバーは私の夫の横に座り、「赤ワインは、こうしてグラスを回して飲むんだ」などと、夫に教えたりしていた。まぁ、ドライバーの人とはいえ、メンドーサ出身だと、ワインに対しては教師口調になるのだろうかと思っていたが、これも合点がいった。
というわけで、ドライバー兼社長の父上が来たところで講座が始まった。まず色をみてー、はい、まだまだ飲まないー、香りをかいでー、グラスを回してー、はい、ここでもう一度香りをかいでー。で、やっと口に含んでよし!と言われて、皆でうやうやしく一口ごくり。ここのマルベック、柔らかでコクがあっておいしい。
一口飲んだところで、隣の会場にお食事を御用意しておりますからと案内された空腹の我々は、テーブルの上の御馳走を見て、思わず歓声をあげてしまった。
10種類はあろうかというハムとサラミの盛り合わせ、サラダ、チーズ、ナスや人参のオイル漬けなど、マルベックに合うだろうと吟味されたおつまみが大集合していたのだった。
とにかく、皆席に着くなり、物もいわずにしばらくは食べ続けた。空腹がひと段落おさまってから、今日のツアーについて、出身地について、旅の内容についてなどの交流が始まった。その間にも、新しく熱い料理が次々と運ばれてきた、そのどれもがとてもおいしかった。
もうこれ以上食べられないし、これ以上飲めません、という状態に皆がなったころ、先ほどのソムリエから「それでは皆さん、上の中庭へどうぞ、ちょっとしたサプライズがありますので」と申し出があった。
上の地上階に出ると、中庭に面した小さなダイニングに、またもやお皿とナイフとフォークがおいてある。サプライズとは、どうやらデザートのことらしかった。さすがに、あまりに満腹で食べられないので、中庭の椅子で休憩。おしゃべりをしていると、「サプライズとはこれです」と、ソムリエがアイスクリームと葉巻を持って現れた。脂っこい食事と濃厚なワインの後には、さっぱりとしたアイスとそのバニラを引き立てる葉巻がいい、という趣向らしかった。もう、あまりに貴族みたいで、一般現代人の我々はびっくりしてしまった。
こうして、満腹の上に満足感いっぱいで宿に戻った後は、ベッドに倒れこんで3時間近く眠ってしまった。単純にワイナリーに行って試飲するというのでなく、ブドウの様々な加工を知り、新しいメンドーサと古くからのメンドーサのワイナリーを訪ね、貴族のような午後を過ごす。これ、行く価値ありだと思った。
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