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2006.01.01
ペリト・モレノ見学ツアー |
アルゼンチン:エル・カラファテ |
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エル・カラファテは、ロス・グラシアレス(氷河)国立公園にアクセスする拠点となる町だ。ここに来て氷河を見ずしてどーするの、という所。
今まで出会った南米日本人旅行者から、折角ペリト・モレノ氷河に行ったのに天気が悪くて残念だったという話を何度も聞いていた。そこで、カラファテのインターネットカフェに行って、天気を調べてから予約を入れた。大正解。晴天の下に青く輝く氷河を見る事ができたので、そのツアーの内容と氷河の写真を掲載したい。因みに、天気予報はYahooの天気コーナー(http://weather.yahoo.com)のエル・カラファテを参考にして行った。この後も何度かこのサイトで天気をチェックしてツアーを入れたりしたが、当る確立は高かったので信用できるのではないかと思う。
氷河ツアーは2つある。ペリト・モレノ氷河を見に行くツアーと、ウプサラ・スペガッツィーニなどいくつかの氷河を見に行くツアーだ。前者は、車でペリト・モレノの近くまで連れて行ってくれて、氷河沿いの散策道から氷河を楽しむというもの。希望者は別途料金で、クルーズ船で氷河に近づくこともできる。後者は、クルーズで出発し、各所の氷河をクルーズ船から楽しむツアー。途中オネージ湖という氷塊の浮かぶ湖で昼食(大抵別料金)という内容。我々は両方に参加したが、どちらか1つと言えばペリト・モレノを挙げる。ペリト・モレノの方が近くから氷河を見る事ができるからだ。ウプサラ・スペガッツィーニのツアーは、氷塊を縫って走るクルージングや、氷塊の浮かぶ湖のほとりでランチしたりと、氷河というより氷塊が楽しい。
ツアーを催行している旅行代理店は、町のメインストリートにいくつかある。が、ペリト・モレノツアーに関しては、藤旅館に宿泊して御主人が催行するペリト・モレノツアーに参加するのが一番安い。次に安いのは、藤旅館から旅行代理店にペリト・モレノツアーを予約してもらうことだ。割引がきく。その次に安いのは、藤旅館が使っている旅行代理店ムンド・アウストラルMundo
Austral社に直接頼むことだろう。我々はペリト・モレノの予約をする時点で、藤旅館に滞在していなかったので、独自に代理店を周って調べていた。その中でユーロツールEuroturという代理店に入ってみたところ、店内の雰囲気もきれいだし、何よりも横浜で1年間日本語を勉強していたというアルゼンチン人の女性が、ペラペラと日本語で対応してくれた。こんなパタゴニアで、こんな人がいるんだぁと感動のあまり、その場でそこに決めてしまった(A$90
=US$23.33くらい)。後から藤旅館に移動して、もっと色々な方法があったことを知ったが後の祭りである。藤旅館主催のだったらA$56なので、かなりの違いである。やれやれ。
ウプサラ・スペガッツィーニのツアーについては、「どこで申し込んでもクルーズ船を持っているFernandez
Campbell社の船に乗ることになる」とガイドブックに書いてあったので、Fernandez
Campbell社に申し込みに行った。が、結局どの代理店で申し込んでも料金に違いはなかったようだ。
ペリト・モレノツアー出発の2006年1月1日は、ヤフーの天気予報では晴れだったエル・チャルテンの空は、曇りというには雲は少ないものの、快晴という感じでもなかった。午前10時のピックアップということだったが、例によって「来ないなぁ」とヤキモキし始めた10時半頃、40人乗りくらいのバスがお迎えがやってきた。我々のピックアップが一番最後だったようだ。ドライバーの隣に夫、最後部座席の1つに私が納まると、バスは満席となった。ドライバーの隣は写真撮影には好都合。夫はラッキーだと思っているに違いない。次々と風景をカメラに収める姿が後ろから見えた。
エル・チャルテンからロス・グレシアレス国立公園までは80キロメートル。町を出ると右手にはアルヘンティーノ湖のエメラルドグリーンが美しい道を走った。出発して20分後、そんな湖畔の野原にちょっと立ち寄る。美しい湖と、南部パタゴニア特有のパンパ(平原)の風景をお楽しみください、という趣向なのだが、今一つ曇っている。どうなるかなぁ、今日の天気。
ツアーでは、この地方に多く生息し、エル・カラファテの名前の由来にもなったカラファテの木というのがあるという解説があった。この実を食べると、必ずカラファテに戻ってくるという言い伝えがある。ガイド氏は、毎朝カラファテの実のジャムを食べているそうだ。以来、仕事も失わずにここに居続けているので、「私としては、この迷信は信用できると思います」と笑いを取っていた。また、ペリト・モレノ氷河の名前は、この地域を発見した人の名前から取ったそうだ(ここから先は、私がガイドの説明を理解したので、思い違いもあるかもしれません)。モレノ氏は、1800年代後半、この地を発見して探索した。その功績に対し、時の為政者から褒章を与えたいと申し出があった時に、モレノ氏は自分に対する褒章はいらないので、この地を国立公園に定め、決して人が汚すことがないようにしてほしいと言ったという。今から100年以上も前に、環境保全という思想を持っていたこと、それを己の褒章に代えても提案したということは素晴らしいという説明だったように思う。へぇー、と感心した。
ツアーを終えて感じたのは、この話が本当かどうかはさておき、この国立公園は他の国で訪れた国立公園に比べて、ガイドからの環境保全に対する注意(ゴミは公園内に捨てないこと。捨てる可能性があるならビニール袋を用意しているので申し出てほしいということ)や、注意看板(たばこを吸いたい人は、ここで吸ってから氷河に近づいてほしい)などが多いし、公園内もゴミがない。エピソードが美化された話であれ、カラファテの人が商売ネタを失いたくないから必死になっているのであれ、ここは環境に対する意識が高い公園だった。
さて、最初の停車地から地図上に定規で引いたようにまっすぐな道を進んで40分後、ずーっと左手に白く輝くものが山間に見える。それが氷河なのだと説明された。「皆さんが今日訪れる氷河です。今はこんなに遠くに見えますが、あそこまで行くのですよ」と期待を高めるようにガイドが言い、再びバスが停車。彼方に小さく見える氷河は、それと言われても雪山と同じにしか見えず、まだ実感がわかなかった。
1時間後、ロス・グラシアレス国立公園の入り口に到着。公園入場料金はツアーチケット購入時に支払っているので、ガイドが手続きするだけで、我々はバスを降りる必要はなかった。公園に入って15分後、車の中から氷河が見え始め、「おお、ここで写真を撮りたいー」と誰もが思った時、本日の氷河観察の第二ポイントに到着。先ほどよりはずっと近くに見える。こうして、徐々に近づいて来る氷河を見せて、最後に圧巻の氷河を見せるという演出らしい。悔しいが、このジラシ作戦には誰もがはまっていて、近づいたとはいえ、まだ遠い氷河に、氷を溶かさんばかりの熱い視線を送って、こちらが心配になるほど様々なポーズをとって写真を撮りまくっていた。
公園の中を尚もひた走り、途中で氷河はチラリと右手にその姿を見せたりしながら、我々を誘っている。12時15分、レストハウスのあるクルーザー発着場所に到着。ここでクルーザーに乗りたい人は下車して、別途A$38(=US$12.67くらい)を支払ってチケットを購入。クルージングをしない人はその先の展望台に向かう。クルージング後バスが迎えに来るが、ここで昼食をとりたい人はクルージング後に食事して、その後もバスは迎えに来るという段取りになっていた。なかなかきめ細かいオプションがあるなぁ。そうそう、A$38のクルージングは氷河の北面を巡るのものだが、もう一つ小型の船で南面を巡るA$30のクルージングというオプションもあった。ガイドの説明では、氷の崩落は主に北面で起るので、北面に行くのがお勧めだということだった。確かに、遊歩道で南面を見てきた人の話では、南面であまり崩落はなかったというから、あながち嘘ではないと思う。
心配していた天候も、この時間になると雲が晴れて快晴になった。そこでクルーザーにも乗ってみることにした。バスを降りた所にあるレストハウスの左端に、クルーザーのチケットブースがある。この地点からは氷河は見えないのだが、左手の森を抜けてクルーザーの発着所まで行くと、氷河は大分近くなって見えていた。
日差しは強く額をじりじりと焼くのに、頬に当る風はクーラーの様に冷たい。暑いんだけど涼しいという不思議な状況だった。目の前のエメラルドグリーンの湖はとろりとした乳色がかっていて、氷塊が浮いていることから氷点下に近い水温だろうと思うのだが、見た目にはどうしても温かく思えてしまう。桟橋の向こうには、日に照らされた氷河が見えていた。氷河が水色に見える、という話は聞いていたが、こんなに水色が濃いとは予想していなかった。前に出たクルーザーが、氷河の前に見えた。クルーザーの大きさから考えると、氷河は物凄い高さと幅を持っている。「えー、私たちは今からあの氷河に向かってクルーザーで近づいていきます」と、マイクを持つ真似をしながら誰かに解説したくなるような、そんな興奮が沸いてきた。
そしていよいよ我々の乗船の番。昔、小学校で予防注射を受けるとき、自分たちの行列を通り過ぎていく既に注射を受けた同級生に「ねぇねぇ、痛かった?痛かった?」と必ず全員が聞いていた。船から下りてくる人、一人一人に「ねぇねぇ、すごかった?すごかった?」と聞きたくなって、そんな事を思い出した。船に乗って15分ほど氷河にまっしぐらに進んだ所で、船は停止した。氷河の左端あたりだ。ここから先には進まないようだった。皆が一斉に甲板に出始めた。船を渡る風は、ますます冷たい。用意してきた中綿のコートを羽織り、でも日差しはきついのでサングラスをかけ、おまけにボリビアのウユニで買った耳宛付きの帽子をかぶった。そうそう、日焼け防止クリームも船内で再度厚塗りした。氷河と対決するには、これくらいの用意が必要であった(いや、別に対決しないけど、ま、そんな気持ちでね)。
あーあ、写真にしちゃうと、難しいなぁ。これが船から見た望遠レンズを使用していない写真。かなり大きくは見えるものの、そそりたつ氷壁を見上げるという所までは、安全上近づけないことになっているそうだ。で、実際の気分としてはどんなくらいに見えているのかというと、こんな感じ。氷河の先端の細部が肉眼で見える。もう船上の我々は、この美しい自然の芸術に興奮しっぱなしだった。
船は停止した位置から右方向に進路を変えて、氷河と一定距離を保ちながら氷河に沿って進んでいった。氷が剥がれ落ちたばかりの所は、更に水色が濃い。こうして氷河の断面を見ていると、いわゆるクラックと呼ばれる氷の裂け目が、表面からかなり深い所まで入っているのがわかる。こんな裂け目に滑り落ちたらひとたまりもないという恐ろしさ、今見えている先端の断面は何万年も前に降った雪なんだという時間のロマン、氷河は何の予備知識もなくかる〜い気持ちで来た観光客から、色々知っている学者肌、高級カメラを抱えたお金持ちの老人など、船上の全ての人を魅了しながら、冷たくゆったりと存在していた。
1月といえば、南半球は夏になる。強い日差しに照らされていると、やがてどこかから「パキッ」と乾いた音が聞こえる。氷が解けて亀裂の入る音だ。音のする方を見ていると、場合によってはそこから氷の崩落が起きる。音もなく氷の塊が氷河から剥がれ落ち、エメラルドグリーンの湖面に落ちる。その頃になって、「ガラガラガラ」と崩落する時の音が後からついてくる。つまり、そのくらい我々が離れた所にいることがわかるのだ。スローモーションのように水しぶきが上がり、そこからゆっくりと、湖に水の輪ができる。船は、氷河を右手に進みながらも、「パキッ」と音がすると船を停止して崩落を待った。中々大きな崩落は見られなかったが、それでも小さな塊が落ちるのは見る事ができた。小さいといっても、これだけ離れていて肉眼で見えるので、実際にはかなり大きいだろうとは思う。
こうして氷河から剥がれ落ちた氷塊は、ゆったりと湖を漂って、やがて解けてなくなっていくのだろう。氷河のある方向とは反対側に目を向けると、湖に浮かぶ氷塊たちが見えた。氷塊は日中の日差しをうけて、水面から見えている部分がボーっと光り輝いているように見えた。水中にはもっと大きな塊が隠れているのが、湖面の下にぼんやりと透けて見えて、それがエメラルドグリーンの湖に浮かんでいるのは、この世のものとは思えない妖艶さを感じた。
船は氷河の右端まで行ってから、再度左端まで戻ってきて、約1時間でクルーズが終了した。今日のこの晴天の下、誰もが満足げで、素晴らしい体験だったと口々に語っていた。
昼食はレストハウスで摂ることにした。スパゲッティーを注文したが、茹で上げた麺に、チューブ入りのソースをマヨネーズよろしくウニュっとまわしかけた代物で、さしておいしくもなく大変不満だった(どんな物かは、「本日の献立2006年1月1日昼食」を参照)。周りを見ると、みんな「今日の定食(Menu del Dia)」を食べている。これはメニューに掲載されていないのだが、もっと落ち着いて周りを見渡せばすぐにわかることだった。又しても、空腹の余りの失態だった。
昼食が終了してしばらく待っていると、お迎えのバスが来た。そこから車で10分も行くと、いよいよ展望台に到着。駐車場から展望台までは坂と階段を下っていくようになる。坂をくだって初めの展望台は、氷河を上から見下ろす高さだった。こうして上から氷河を見て、初めて「氷河」の意味を気持ちとして理解した。そうだ、そこは山間に挟まれた河なのだ。遠くの雪山から流れ出して湖に注ぎ込んでいる河が、全部氷っていて、だから氷河なのだ。当たり前の事なのだが、今まで氷河というと目の前に屹立した氷壁の写真ばかり見ていたために、氷河というイメージが何となく氷壁としてインプットされていた。ここからの景色をみて、「ああ、氷・河なんだ」とストンと肝に落ちる気がしたのである。
氷河を見ながら、更に下にも設定された展望台に向かう。一番下に下りると、氷河の右から三分の一くらいの所になる。ここら辺から左手に進んだ方に行くと南面が見られる。南面が一番間近に氷河を見られるとガイドブックにはあったが、我々は、ここから右手にしか移動しないで、じっくりと北面の氷河を観察することにした。
先ほどと比べて、左右の位置は多少右にずれるがあまり変わらない。
変わるのは目線だ。今度は、崩落した氷が浮かぶ湖も見える。これも肉眼で見ると、もっと大きな印象がある。
展望台はクルーズ船よりも氷河に近いが、目線はクルーズ船より高いのが違いだ午後になって高くなった太陽の光は、真上から氷河を照らし、各クレバスがネオン管のように水色に光り輝いているのに心を奪われた。深さや氷の圧縮具合によって蒼さは一様ではなかった。もっと蒼い所はないのかと、目を凝らしてクレバスを探す。
私が一番気に入った光は、上の写真でいうと右手奥に水色に光っている部分だった。もっと右の展望台に行くと、更によく見えた。ここ、ここ。氷の光の強さで、バックの森の緑は真っ暗になって写っている。そのくらい強い光を放ちながらも、あくまでも冷たい冷たい水色。これが私の中の最高のペリト・モレノだ。
氷河の色や形を堪能したら、次のお楽しみは崩落。午後ともなると、あちこちでパキパキと音がして、小型の崩落が続いた。崩落が人を興奮させるのは世界共通だ。スペイン語では「見て!」というのを「ミラ!」と言う。家族連れで来ているスペイン語圏のお母さんは、「パキッ」と音がする度に「ミラ!」と大きな声で叫んで、音のする方を指差した。
崩落が起ると、落ちた氷が湖面に描いた輪と共に氷河から離れる方向にザーッと移動する。それがおさまると、引き潮のように、今度はザーッと氷河に湖水が引き寄せられて、氷河の足元を揺らす。その振動が呼び水になって、また新たな崩落を引き起こす。ひとたび崩落が始まると、いくつか続いて起るのは、そういう現象のためなようだ。
やがて右手の氷河で、今までにない大きな崩落が起った。お母さんは「ミラミラミラミラミラミラ!!!!」と叫んで家族を呼び寄せた。彼女のミラミラ声援とともに、周りも「ホホーッ」と歓声と拍手があがった。「えー、本日最大の崩落でござりまするー」とマイクを持ってだみ声で放送したくなるほどの興奮だった。
遠目から氷河を楽しみ、クルージング、そして間近で妖しく光る氷を見て、崩落も興奮も味わえた。午後4時20分、大満足の観光客を乗せて、バスはウシュアイアへと戻った。帰りのバスは興奮後のシエスタを楽しむ人が多く、悪天候の言い訳もいらないガイド氏は、真に満足そうに口をつぐんでいた。
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