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2005.12.07
いよいよコンチャ・イ・トロを訪問 |
チリ:サンティアゴ |
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コンチャ・イ・トロConcha y Toroというワインメーカーが出しているSun Riseというシリーズがある。この中のカヴェルネ・ソーヴィニヨンを使った赤ワインは、日本では1200円くらいで販売されていて、値段の割りにとてもおいしいワインだった。日本にいる頃は、ワインといえばこのボトルを買っては飲んでいた。
旅に出るにあたって、どこを訪れるかという点において、あまり強い思い入れもなく出発してしまった私たちだったが、コンチャ・イ・トロのワイナリーだけは行ってみたいと、このワインを飲むたびに話していた。
チリ、サンティアゴに入り、いよいよ、そのコンチャ・イ・トロのワイナリーを訪れることになった。
インフォメーションの情報では、個人でも予約を入れないと中に入れてもらえないということだったので、まず、教えてもらったコンチャ・イ・トロに電話をしてみた。「英語が通じますので、問題ありません」とインフォメーションの人は言ったので、かるーい気持ちでかけてみたのだが、これがなかなか苦労した。1回目、女性が出てスペイン語で話すので「英語が話せますか?」と訪ねると「少々お待ちください」と言われ「しばらくお待ちください」というレコーディングの放送を聞きながら待つこと2分くらい。結局誰も出てくれないので諦めて電話を切った。続けて2回目、今度も女性が出てきて、「英語は話せますか?」と聞くと、いきなりレコーディングテープに切り替えられた。そして3回目、今回は男性が出てきたので「英語が話せますか?」と聞くと、今後は違うレコーディングテープで「ただいま忙しくて電話に出られません。折り返しこちらからかけ直しますので、お客様のお名前とお電話番号を・・・」とスペイン語でいう内容に変わっていた。ここまでは、通りの公衆電話からかけていたのだが、激しくコインがなくなる。この3回の電話だけでUS$2くらい使ってしまった。やれやれ。
そこで思いついたのが、インターネット電話。最近はインターネット電話屋が大流行していて、確かそちらなら格安のはず。そこで宿から徒歩10分ほどのインターネット電話屋に入っていった。値段を聞くと、公衆電話よりずっと安かった。指定されたボックスに入って電話をかけると、またもや「忙しいので・・・」の放送に切り替えられてしまった。「まいったなぁ。」と頭をかいていると、インターネット電話屋の兄さんが助け舟を出してくれた。彼は英語がわかるので、事情を話して、私のかわりにかけてもらった。まず、インフォメーションが教えてくれた電話番号は大代表で予約受付番号は別だということがわかった。次に予約受付の電話番号にかけてもらって、やっと予約を取ることができた。結局、予約するだけで、6回も電話したことになる。
世界に名だたるコンチャ・イ・トロとはいえ、個人で訪れる対応はあまりよくないようだった。予約では、ワイナリーツアーに参加する人の名前と、希望時間を伝えると、予約番号を教えてくれるので、当日、入り口でこの番号を言えばいいということらしかった。
さて、翌日、我々ともう一人、同じ宿に宿泊している登山愛好家かつ飲酒愛好家の荒井さんの3人は、コンチャ・イ・トロに向けて予約時間11時の2時間前の9時に宿を出た。
まず、地下鉄のL5でB. de La FloridaあるいはVincente Valdes方面行きに乗り、B.
de La Floridaで下車。改札を出て、左手にまっすぐと歩いて行くと、バスターミナルに直結しているので、そこから80番のバスPirque行きに乗る。Pirque行きは80番の他にもあるが、80番で行くほうが若干早いようである。
超陽気な運転手さんは、我々の顔をみるなり「ボデガ(ワイナリー)、ワインを飲みに行くんだね!」と話しかけてきて、「教えてあげるからノープロブレムだ」と言った。一緒にいた荒井さんが「一体、何と言う所で降りるんですか?」と私に聞いてきた。「いやぁ、運転手さんが教えてくれるところで降りるだけなので、私も停留所の名前は知らないんですよ」というと、「うわぁ、そんなもんなんですか」と、お気楽な私たちのやり方に少し驚いているようだった。荒井さんは、今までに登山でチベットやインドなどを訪れている。決して旅なれていないわけではない。しかし、想像するに、登山では、詳細な地名や詳しい情報を把握して動いているのだろう。そうしないと、命にかかわるのかもしれない。我々のような旅行とは異なるスタイルで旅をしている人のようだった。
80番のバスの運転手は、陽気な人ではあるが、この辺りの他の運転手同様、非常に運転が荒かった。急ブレーキなどはお手の物。誰と競争しているのか、やたらにスピードを出して、停留所もそのままのスピードで通り過ぎるので、手を上げたお客さんに気付いて、急ブレーキで停車したころには、停留所はいつもかなた後ろの方で、お客さんは常に手をあげたままバスに向かって走ってくるという具合だった。こんなバスに揺られること40分。約束どおり「ここだよー」と教えてくれて、バスを降りると、荒井さんはぐったりと憔悴しきっていた。アイスピックで氷壁に登る山男は、スピードには弱いようであった。
「さ、早くワインでも飲んで回復しよう」と我々はワイナリーに向かって急いだ。ワイナリーの入り口は、バスを降りた先のT字路を右折して100m先右手にあった。因みにバスを降りるずっと手前から、すでにワイナリーの敷地の横を走ってきた。かなり広い所のようだ。
早めに出たことと、バスが予想よりも早く到着したので、10時半だった。入り口の門を入って左手に受付があり、予約番号と名前を告げると、「駐車場奥の右手に進んで、そこでお待ちください」と英語で言われた。ここは英語が話せるのに、予約は話せないんだなぁ。それから「入場料、お一人C$6000あるいはUS$12いただきます。ワイングラスをお渡しいたしますので、試飲の時に使って、帰りはお持ち帰りになれます」と言われた。これには驚いた。アルゼンチンのメンドーサやカファジャテのワイナリーはもちろん無料だった。コンチャ・イ・トロではUS$4かかると情報を得ていたが、いつの間にこんなに値上がってしまったのだろう。荒井さんは「たけー!」と目を丸くしていた。荒井さんにはUS$4かかりますと伝えてあったので、本当に申し訳ないことをした。
駐車場奥の右手は、気持ちの良いポプラ並木となっていて、並木を通り過ぎると左手にワインショップとワインバー、トイレなどが並ぶ建物が見えてきた。南フランスを思わせるレンガ色の瓦と白い壁の建物で、トラディッショナルなんだけど、窓枠が黒いサッシのせいか、間のトイレエリアに真っ白なストーンとした壁が立っているせいか、間の中庭がコンクリート敷きのためか、非常にモダンな雰囲気を出していた。
ここで待っていると、ガイドに伴われた各言語のグループが次々とやってくる。多くは50代以上と思しき人たちで、ハイヒールを履いたような御婦人もいて、明らかに我々とは違うスタイルで旅行をしているようだ。ツアー会社のパンフレットを見たが、サンティアゴ市内の他も周ったり、他のボデガと組み合わせたワイナリーツアーになっていたりして、純粋にここだけを訪れるツアーはなかった。ここは、そうしたツアーで訪れる人が多い場所なのかもしれない。どうりで、個人での英語の予約が面倒なわけだ。
やがて、ツアーガイドを伴った英語の団体がやってきて、我々はこのグループに交わることになった。ワインショップの片隅にあるビデオルームに案内されて、コンチャ・イ・トロのプロモーションビデオを見た後、いよいよツアーが開始。ビデオでは、コンチャ・イ・トロの人気商品DiabloがなぜDiablo(悪魔)の名を冠しているかの説明があった。ビデオの内容もさることながら、そのビデオの作り(音楽や画面の作り方など)が、アメリカの製品プロモーションビデオを見ているようで、アメリカ人が企画に参加しているんじゃないかなぁ、なんて思いながら見ていた。
外に出て、ぶどう棚のトンネルをくぐると、広大な庭園が広がっていた。左手に人口池があり、右手奥には、現在は商談会場やオフィスとして使用されている、もとコンチャ・イ・トロの邸宅があった。ワイナリーというと、ワインの製造過程の話、そして試飲。という流れが多かった中、コンチャ・イ・トロは、創始者のエピソード、かつて住んでいた邸宅、その庭のデザインや樹木についての説明が、まず最初にくる。コンチャ・イ・トロは、広大な敷地を持つ地主の娘と、ワインの見識を持っていた議員が出会い、愛とワインビジネスを育んだ結果できた会社だそうだ。今も、その何代目かが社長を務めて、初代の意思を今に伝えているということならば美しいワイン物語にもなろうが、現実はそんなに甘くなく、子孫は一部の株を保有するものの、大半の株は別の人の手に渡っており、会社の実運営は行っていないそうだ。
この説明を聞いて、ここに入ってきてから、何となく感じていた違和感の素がわかった気がした。整然とした中庭のワインショップ、よくできたプロモーションビデオ、これらは現代のエンタープライズが代表するトップクラスの技術を使っている。それを隠すわけではないが、話として出てくるのが、「昔々、地主の娘がおりまして・・・」というおとぎ話のような内容ばかりで、目に映るものと耳に聞こえることにギャップがあるために、どこか作り物っぽい感じがしてしまうのである。ま、ディズニーランドなんて、その最たるもので、あまりに度合いが激しいので喜んでだまされて楽しもうという気になるのだが、ここの場合はそこまでいっていなかった。だから、違和感を感じる。
邸宅と庭園の見学が終わると、最初にブドウが植えられたというワインヤードを見学。当初は様々なブドウが植えられていたそうだが、今はカヴェルネ・ソーヴィニヨンだけだそうだ。管理が徹底しているので、鳥やブドウを好む蜘蛛は排除されていて、良質のブドウが作られているという説明があった。ただし、3月の収穫近くになると観光客が勝手にもいで口に入れてしまうので、今は人害だけがある、というのが面白かった。
荒井さんはどうしているかなぁ、と振り返ると、かなりつまらなそうな表情だった。「どうでもいいから、早く飲ませてくれないかなぁ」とブツブツつぶやいていた。
このワインヤードの見学の後、いよいよお待ちかねのワインの試飲だった。最初の試飲は、初代の主人ドン・メルチョ氏がワインの研究をするために奥さんと2人で滞在していたフランスから苗を持ち帰ったカルメネーレCarmenereという品種のブドウだけを使った赤ワイン。この品種は、ドン・メルチョ氏が持ち帰った後、疫病によりヨーロッパ中の苗が絶えてしまい、オリジナルはここにしか残っていないというものだそうだ。
特徴は色と香り。グラスを傾けて手のひらの上で見ると、ワインの入っていない部分のグラスが紫色に見えるのだ。この色が特徴だといわれた。最初の香りはフルーティーかつコショウやシナモンのようなスパイスの香りがツンと鼻をつくほどに強い。しかし、説明されてグラスを回して味わい、グラスを持ったまま、樽の置いてある倉庫の説明を聞いているうちに、グラスのワインはどんどんと変化を遂げて、チョコレートのような甘い香りに変わっていった。ガイドの女性が「このワインは女の子みたいなものです。最初はツンとパンチをきかせてきますが、だんだんと華やかに、そして甘い香りに変わっていきます。好みだとか、好みじゃないとかは個人差がありますが、こうした特徴があるブドウなのです」と説明すると、フランス人のおじさんが、すかざず「どんな変化であれ、女の子のサプライズは常に楽しみなものさ!」とちゃちゃと入れた。さすがフランス人。これを宿に帰ってみんなに話したら、フランス人というのは、常にそんなことを考えて生きているのだろうかと、ちょっとした議論になった。
ワイングラスを片手に、ワイナリーを巡るという趣向も面白いと思った。こんなに大勢でぞろぞろと歩くのでなければ、かなり優雅な気分に浸れたに違いない。
やがて、倉庫の中でも、階段を下りて地下に入っていく倉庫の前にたどり着いた。ここがいわゆる「Casillero
del Diablo(悪魔の蔵)」と言われる蔵への入り口だ。中は湿度があってひんやりとして、多くの樽がひっそりと眠っていた。
ガイドさんが「それでは、悪魔に登場してもらいましょう」というと、今までともっていた照明が落とされて、ほとんど真っ暗になると、本当にディズニーランドのように英語のナレーションが響き渡った。
「コンチャ・イ・トロ伝説の悪魔の蔵へ、ようこそ!」こうしてカッコいい声のナレーションは、悪魔の蔵の由来を語り始めた。おいしいワインを作り始めたドン・メルチョ氏は、この蔵で作るワインが、時々目減りしてしまうことに気付いた。中で働いている人が、そのおいしさの誘惑に耐え切れずに思わず飲んでしまうために、量が減ってしまうのであった。そこでドン・メルチョ氏は、この蔵には悪魔が住み着いており、ここでワインを飲んだものは悪魔に連れ去られていくという噂を流した。以来、ワインを盗み飲みされることはなくなったという。
ナレーションの後、再び照明が灯された蔵の奥に、ドン・メルチョ氏のプライベートワインを保管していたという小さな蔵を見学。鉄格子で閉ざされていたワイン蔵は真っ赤にライトアップされていて、一番奥には悪魔の影が浮かび上がって見えるという装飾がされていた。
こうして伝統的な蔵におちゃめな悪魔の影を入れてしまうというあたり、やっぱりアメリカっぽい感じがした。私としては、こういう趣向はちょっと興ざめだったが、他の観光客は結構受けているようだった。
悪魔の蔵から全員が無事に帰還した後、今度はドン・メルチョ氏の名前を冠したブランド、ドン・メルチョのカヴェルネ・ソーヴィニヨンの試飲会になった。
夫も私もやはりカヴェルネ・ソーヴィニヨンが好きである。ドン・メルチョシリーズは、日常ワインの中でも上位のもので、Diabloよりも上。ふくよかな香り、どっしりとした風味で、やっぱりおいしいなぁ。荒井さんと3人で、神妙な顔で手のひらの上でグラスを傾けて色を見て、グラスを回して香りをかいで、味を楽しんだ。で、今日のツアーはこれでおしまい。「え?これで終わりなの?飯は出ないの?もっと飲ませてくれないの?」と荒井さんが言う度に、US$4だと言った私が責められているような気がして、心が痛んだ。すみませんねぇ。
ワインショップの隣のワインバーでは、他のワインもグラス単位で飲める。気の利いたおつまみも置いてある。おつまみはUS$4くらいなのでいいとしても、私が飲んでみたかった、最上級のワインはグラス1杯でUS$20と書いてあったのでやめた。最上級といっても1本US$150くらいだったので、グラスの値段は高すぎると思ったからだ。
でも、この後ワイナリーの外に出て、目の前にある観光客目当ての割高でさして味もよくないレストランに行くよりは、ここでいろんなワインを飲んでおつまみを食べたほうが、ましだったなぁと今は思うのであった。
この後は、ワインショップへ。スーパーだと最高級品としておいてあるのはDiablo(US$7)とTrio(US$10)という3種類のブドウを使ったシリーズどまりで、その上のクラスは置いていない。ワインショップでは、これらが最下クラスくらいで、あとはこれ以上のものしか置いていない。我々が愛飲していたスーパーでSun
RiseはUS$3.5くらいで売られており、ワイナリーのショップには置いていなかった。スーパーでの価格とワイナリーショップでの価格はほとんど同じ。スーパーは特売を行うことがあるので、そうなったらスーパーの方が安いくらいだ。でも、ここで買って飲んでみたいってのがあるよね。で、MARQUESのカヴェルネ・ソーヴィニヨンを購入。これはUS$15だった。試飲したわけではないが、ブドウの種類と値段で選んでみたが、これは本当においしかった。
ということで、試飲でスイッチが入ってしまった荒井さんと我々は、ワイナリーの目の前のレストランに飛び込んで、おいしい食事とワインを飲もうと思っていた。しかし、たかがパスタが日本並みの値段をしているのに驚き、たちまち気持ちが冷えてしまった。
お楽しみのワインは、宿に帰ってから、荒井さんのワインテイスティング講座とともに、大笑いしながら皆で飲んだ。これが一番おいしいワインの飲み方だ。
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