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2006.01.16
パイネ国立公園第2日目 |
チリ:パイネ国立公園 |
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朝7時起床。優秀な寝袋のお陰で、温かく快適に朝を迎えられた。夏とはいえ朝の空気はかなり冷たく、キャンパー用にしつらえられた野外のテーブルと椅子で朝食を摂る気がしなかったので、レフヒオのレストランに行った。
レストランを仕切っている、若いけど女将さん風の体格と風格の女性が「朝食は予約してるのですか?」と聞いてきた。予約がないと朝食は食べられないらしい。確か昨日の夕食も予約がないとだめだということだった。確かにここまで材料を運ぶことを考えると、予約しないと無理だろう。朝食の予約はしていないが、お茶だけ注文したいと言うと、それならば大丈夫だと空いている席を指し示された。こちらとしても、はならかお茶だけ飲みに来ているので幸いだ。清潔で暖かいダイニングで朝食を摂った。昨日の夜と同じメニュー、ハムとチーズと玉ねぎとピーマンのサンドイッチとゆで卵だ。
パンは2つに割れる大きなパンを、夫は1回2個、私は1個の勘定で10個持ってきていた。ところが、トレッキングをすると普段ならペロッといける量が、疲れすぎて食べられないということがわかった。朝食が終了すると5個はなくなっている計画だったのに、まだ3個しか減っていない。この分では、お昼も計画より減らないで、食べもしない重めのパンをずっと背負って歩くことになりそうだった。
今日のコースはオレンジ色の線だ。既にChilonoキャンプ場まで来ているので、そこからベース・ラス・トーレスBase
Las Torresまで2時間、2時間の昼食休憩をして、2時間でキャンプ場に戻り、2時間で昨日トレッキングを始めたオステリア・ラス・トーレスHosteria
Las Torresまで戻り、ミニバスでアマルガ湖公園入り口まで戻る。既に購入済みのプエルト・ナタレスまでの帰りのバスは午後3時か7時45分発に乗ればいいことになっている。午後3時は無理だろうから、最低午後7時半までにアマルガ湖公園入り口にたどり着けば、無事に帰れる。
昨日の晩、アマルガ湖公園入り口から乗るバスの時間から逆算して、各ポイントにたどり着くべき時間をざっくりと把握しておいた。オステリア・ラス・トーレスでは、夕食を摂るつもりで2時間滞在を計算。ここから出るミニバスのスケジュールがわからなかったというのもある(昨日、オステリアの兄ちゃんにミニバスのスケジュールを聞いておいたが、何だかあてにならない感じだった。実際に兄ちゃんの情報はデタラメだったので、信用しないで行動したのは正解だった)。
8時半、手前には日が差しているが、我々が向かおうとする先の空にはグレーの雲がかかっていて、微妙な天候だった。でも、雨が降っているほどでもなく、このまま出発することにした。
キャンプ場を出て木の橋を渡ってすぐ、道は2手に分かれる。左はオステリアに戻る道、右がベース・ラス・トーレスへの道だ。右に折れてから、しばらくは川沿いの道を歩くことになった。
最初は平坦な道だったが、徐々に上り坂となり、川は次第に眼下に下りていった。一ヶ所だけロープが用意されている
ここは大きな岩が道をふさいでいて、他の小さな岩を伝って迂回する所。別に難所と言う程の所でもないと思ったが、帰りに大きなバックパックを背負った若い女性5人くらいが、随分苦労しながらここを通っていたのを見ると、なるほど大きな荷物を背負っていたら、ここはちょっと難しい所かもしれない。
こうして、川のせせらぎを耳にしながら、ある時は緩やかにある時はちょっとキツイ坂を登りながら、林の中を1時間ほど歩いた。日に照らされている所は暑いが、林の中はひんやりと涼しく、3ヵ所渡った川の水はおいしかった。これといって驚く景色はないのだが、目にする木々や木漏れ日、川の流れが美しく、爽やかでおいしい空気も気持ちいい、そんなコースだった。
1時間歩いた所で、トーレスTorresキャンプ場への立て看が出ている所まできた。写真のもう少し先を右手に下っていくと、キャンプ場になっているらしい。我々はまっすぐ行くコースなので立ち寄らなかった。
このキャンプ場は使用料金が無料なので、頑張ってここまで歩いてくるキャンパーは多いだろう。昨日のうちにここまで来る体力がなかった、というのが大きな理由だが、ここに宿泊しなかったのは、他にも理由があった。ここには、レフヒオが併設されていないので、シャワーやレストランがないし、キャンプ用具のレンタルを行っているかどうかも定かでなかったからだ。
さて、背後に見えている山とトーレス・デル・パイネの位置関係はどうなっているのか?曇っているのでさっぱり見当が付かなかったが、実はトーレス・デル・パイネは写真背後に見える山の左手後方に見える。トレッキングは、ここから背後の山の右手に周り込み、急な斜面を1時間登って到着するのだった。それにしても天気が悪い。
山の麓にたどり着くと、こんな感じで川沿いの道を登っていくルートになった。この辺りは坂道が急ながらも、ルートはわかりやすいし、最初の登りの15分野趣あふれる庭園の中を歩いているような面白さがあった。
しかし、道はだんだんと坂がきつくなり、坂ではなく岩の段差をよじ登ることが多くなってくる。これが次の15分。体が熱くなってきて、顔が真っ赤に蒸気してきて、「えー?まだこんな時間しか歩いていないのー?あと40分も登り続けるのー?」などと文句が口をついて出てくるのもこの辺りだった。
そして登り始めて30分すると、草や川や木は姿を消し、周り中が岩だらけの風景になる。
かすかにルートらしき道がある場合もあるが、あとは岩に塗られた赤い●を目指して、自分が登れそうな岩に足をかけて赤丸まで行くしかなくなってきた。
ベース・ラス・トーレスの最後の登り1時間がめちゃくちゃキツイとは聞いていたが、確かにこれはハードだ。
2人とも眉間に皺を寄せて、黙ったままモクモクとよじ登る。時々「休んでもいいですか?」とどちらかが言うと、「はぁ。」と返事にならない返事をして、黙って休む。こういう時は、何故か敬語になる私たちだった。一体、あと何分上るのか、上はどーなっているのか、上っているコースは本当に正しいのか、と懐疑的になってきた頃、上から降りてきたカップルが、「あと15分も上れば到着だから頑張って!」と声をかけてくれた。嬉しい。こういう時の励ましはとても嬉しい。また、上る勇気が出てきて、我々はあと一頑張りすることにした。
そして10分後くらいに、ようやくトーレス・デル・パイネのさきっちょと思われる部分が見えてきた。
晴れていれば、もっと前から見えていたのだろうが、雲がかかっているために何も見えていなかったのだった。この時点で少し雲が晴れてきたので、私たちには突然パイネが現れたような気がしたのだった。
やったー、やっと到着した。この1時間の登りは大変だったが、先日のアイス・トレッキングの体験よりはずっと楽。チャリダー(自転車で旅をする人)のようにガッツポーズで記念写真。
岩の斜面を上がりきった所からは、すぐまた岩の斜面の下りになっていて、下りきった所に緑色の湖が見える。その背後にトーレス・デル・パイネと呼ばれる山々が屹立しているのが見えた。
トーレスTorresは英語で言うとタワーなので、トーレス・デル・パイネは「パイネのタワー達」という意味になる。その名の通り、湖の周りには4本の岩の塔が立っていた。
10時半。天気は良くないが、かすかに雲の切れ間からどきっとするくらいクリアな青空が見える時があった。この分だといけるかも。と期待しながら待った。それにしても雲の流れが速い。そらの状況は、映像を早回ししているかの如く、どんどん移り変わって、それに伴って湖の色、塔の前に残る雪の色、塔自体の色がぐんぐんと変化するので、このパノラマ映像は見ていても飽きがこない。
11時。早くも30分前よりは青空が見えてきて、だんだん期待も高まってきた。
それにしてもここは寒い。Tシャツでたどり着いた体は、万年雪の上を渡ってくる冷たい風に冷やされて、たちまち、セーター、フリース2枚、ロングコートのフル装備にプラスして、ジーンズの上にダウンパンツまで履きこむことにした。さすがに寒くなくなった。
11時半。風のあたらない岩陰を探して、お昼にした。3回目のサンドイッチ。激しい運動の後でモケモケと口の水分を奪うパンはあまり興味がわかないし、立て続けに同じものなので飽きてきた。ということで、また予定よりも減らない。ここではシリアルクッキーやチョコレートがおいしく感じられた。理想的にはおにぎりと塩鮭と卵焼き。それに熱くて濃い緑茶があったらいいだろうなぁ、とかなわぬ夢を描きながらサンドイッチをぱくついた。
晴れてきそうな空に期待が高まり、この頃から到着した人は、なかなかこの場を去らずにいるため、人が増えて活気が出てきた。私は、待っている時間を利用して、湖の岸まで降りてみた。驚いたことに、湖の岸近くの大きな岩の陰に、2人用のテントを張っている人がいた。もしかしたらカメラマンかもしれない。中からは、超セクシーな黒のブーメランパンツ一丁の白人のおっさんが出てきた。おっさんの白くて大きな腹にブーメランパンツが食い込んで、それを背景にエメラルドグリーンの湖とトーレス・デル・パイネを見る、というのはなかなかできない体験だ。ここまで来た甲斐があった。夫のもとに戻ると「何か面白いものあった?」と聞かれたので、ブーメランパンツのおっさんの話をしたけど、あまりうけなかった。面白いと思ったんだけどなぁ。
そうこうするうちに、待望の晴れがやってきた。晴れがやってきたといっても、すぐに雲に覆われて、またすぐに晴れるという状況で4本のタワーに全て日があたり、湖にも日が当るという瞬間を捉えるのはなかなか難しかった。しかし12時55分、その瞬間が訪れた。ほんの一瞬だった。一体何枚の写真を撮ったことだろう。これが今日のベストショットだ。
タワーの右端から天の川のような薄い雲がサーッと流れていて、それを目で追って後ろを振り返ると、天の川のような雲はずっと後方に続いていて、その前に繭玉のようなフワフワッとした可愛らしい雲が浮かんでいた。そして、その繭雲の右手にしっぽがはえたようにシューッと細く流れているのは、さっき飛んでいた飛行機が作った飛行機雲だった。こちらの空のキャンバスも、なかなかの芸術品を見せてくれていた。
こうして上での景色を堪能して午後1時、ここを降りて帰ることにした。
苦労して上った所を降りるというのは、何とも名残惜しいものだ。しかも快晴でいつまでもトーレス・デル・パイネが見えている。
少し歩くと「ちょっと写真を撮っておこうか」と立ち止まってしまう夫の気持ちもよくわかる。峰が見えなくなってから、ようやく通常のペースで降り始めた私たちだった。この時間からも、まだまだ人が上ってくる。午前中に上ってきた私たちよりも、晴れて日差しが強い分、更にキツイ状況になっているだろう。自分が登ってきた時に声をかけてもらったように、これから上ってくる人に「頑張って!上には素晴らしい風景が待っているから。ここからだと、あと○○分くらいですよ」と声をかけながら降りていった。いっぱしの山女気分だった。
帰りは47分でトーレス・キャンプ場まで到達。もうここからはトーレス・デル・パイネは見えない。トーレス・キャンプ場からチレーノ・キャンプ場までは行きと同じく1時間かかった。天気が良くなってきたので、途中の川も朝よりも美しく見える。手を浸すとキーンと冷たい水だった。
見覚えのあるレフヒオが見えてきて、そこがチレーノ・キャンプ場だった。中庭にはおおぜいの人がいて、これから出発しようかという一団や、ストレッチングで気合を入れているおばちゃんの姿が見えた。
川の向こう側のレフヒオを眺めながら、ここで10分の休憩し、こんどはオステリアに向けて出発。2時間の予定だ。
写真右端の中腹から奥に細く伸びている道。
山の中腹伝いにずーっと上る。 |
チレーノ・キャンプ場を出てすぐは、上り坂だった。昨日の夜、キャンプ場が見えてきて有頂天で下った坂は、逆から見るとこんなに登りだったっけ?ってくらいずーっと長く上っていった。
今回も途中で何人ものバックパッカーを抜かしていった。いくら若くて体力のある白人といっても、10kg以上もあるようなバックパックを背負って歩くのだから大変だ。我々ごときはキャンプ場でレンタルするに限る。
この坂を登りきると見晴らしのいい場所に出た。ここからは一気に下まで下った。
下りきった所から、川を渡り丘を越えて20分ほど歩くとオステリア。行くときにここのボーイの兄ちゃんにミニバスのことを聞いたら、「午後4時と6時がある」などと言っていたが、そんなものは一つも無く、そこから徒歩15分先にあるレフヒオから午後7時半に1本あるのみだ、と言われた。本当はオステリアでお食事でもしようと思っていたが、バスもここから出るわけでなく、レストランは夜7時半からしか開かない。同じ敷地内のバーで軽食が食べられると案内されたが、食事っていったら、絶対ビール飲むでしょう、この状況だと。つまりだるくなるわけで、だったらミニバスが出るレフヒオで食べればいいじゃん、ってことになった。
やったー、到着だ、休めると思ってしまってからの更なる15分は、なかなか足が重い。ようやくたどり着いたレフヒオに入り、「とにかくビール出してー」と注文して飲んだビールのおいしかったこと。更に、おつまみメニューを見せてもらうと、「肉とソーセージとフライドポテトのミックス」というのがあった。うってつけではないか、とこれも注文。更にワインもハーフボトル注文。何だかもう気分はすっかり宴会なのだった(詳しくは「本日の献立」2006年1月16日夜の写真をクリックしてください)。
午後7時半のバスがくるまで、あと2時間ある。店を出るとバス待ちの人が木陰で休んでいるので、我々も混じって、ちょっと横になったらもう爆睡してしまった。
朝から2時間歩き、2時間半休憩後、3時間47分歩いた。限界という所ほどでないにしろ、かなりくたびれたので、ここでの休憩は丁度よかった。
我々の帰りのバスは7時45分ということで、このミニバスが7時半。ここからアマルガ湖公園入り口まで15分だから、結構ぎりぎりだなぁと心配になっていたが、各社のバスはちゃんとこのミニバスを待って待機していた。というか、我々のバスは来てさえいなかった。数分後にやってきたバスに乗り込んで、2時間かけてプエルト・ナタレスに到着。バスの中ではいうまでもなく、爆睡の続きを行った。このバスは宿の目の前で降ろしてくれるので、大変便利だった。
重い体を引きずって部屋まであがり、靴をサンダルに履き替え、数秒後には、靴を返却するために宿を出た。時刻は午後10時を過ぎている。一家で経営しているので、何時に返しにきてもいいよ、と言われていたが、大丈夫だろうか?とホステル・イミグラシオーンのベルを鳴らすと、岩のような顔のおじいちゃんが出てきて、足の悪いお母さんも出てきて、ちゃんとお釣りも返してくれた。やれやれ、これで全て終了。
今回のパイネは初級者の上、というレベルだろうか?上を見ればきりがないが、自分の体力を考えて、ちょっとキツイ目の計画を達成すると満足感が大きい。天気予報も当ったし、パイネ、大成功だった。
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