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2006.04.09
日帰りでアランフェスAranjuezへ
スペイン:マドリッド |
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アランフェス協奏曲というのをご存知だろうか。私も結婚するまで知らなかったが、夫が村治 佳織さんという若きギタリストのCDを買ってきてから、よく聴くようになった。
緑爽やかな水辺の春の離宮であるアランフェスを題材にしたこの曲の第一楽章は、日本の五月晴れの天気によく似合う。暑すぎず、肌寒さもなく、すがすがしい感じに溢れている。夫は、この曲にスペインの田舎をイメージしていて、南米では北アルゼンチンのフフイ、サルタ、コルドバあたりの暖かい時期を思い起こすそうだ。私はアルゼンチンのバリローチェ。緑の森に囲まれたすがすがしい湖を渡る風を感じる。さて、アランフェスはどんな所なのだろうか?
この離宮のある町アランフェスがマドリッドの郊外にあり、日帰りで行けるというので、それぞれのアランフェス協奏曲を胸に、天気のいい今日、アランフェスに向かうバスに乗り込んだ。
バスはマドリッドの地下鉄6号線Mendez Alvaroというバスターミナルから出発。片道1人EUR2.74(=US$3.3、EUR1=US$0.83 2006/4/10現在)で所要時間は50分くらい。ヨーロッパにしちゃぁ手頃な値段にホッとした。因みに、アランフェスへの行きかたもマヨール広場の親切なインフォメーションではあっという間に教えてくれた。バスでの行き方、電車での行き方、それぞれの運賃、どこから出発するかなど、必要な情報をザーッと調べて説明してくれて、何と気が利いているのだろうと感心した。
乗車したバスはアランフェスが最終目的地ではなかったので、バスターミナルではなく、普通の道路の路肩で「はい、ここがアランフェスです」と降ろされた。自分の現在地がよくわからなくて、ちょっとうろうろしたが、何人かの人に聞いて、バスを降りた所から背後に向かって進めば、すぐに王宮にたどりつくことがわかった。
左右に広がった宮殿の全景を見渡すには、これだけのスペースがないと納まりが悪いだろうと言いたげに、宮殿の前には広大で何もない広場が広がっていた。
宮殿内部を見学できるというので、早速チケットを購入して内部に入った。久しぶりに見るヨーロッパのお城の調度品は、目にもまぶしくため息の出るような豪華品のオンパレードだった。いやー、ヨーロッパに来たのねぇという気持ちが、またしても起こったのだった。
きらびやかなんだけど、ちょっとリラックスしたムードが調度品のそこここに感じられ、夏の離宮=別荘の趣のある感じの良い宮殿だった。
中でも面白かったのは、「喫煙の間」。今までのヨーロピアンなムードが一転してアラビックな雰囲気になっている。部屋のしつらえも、イスラム圏で見られるような低めのクッションがついた長いすが部屋の壁面を伝っておいてあり、壁紙の模様が特徴的だ。
何でここだけこうなっているんだろう、と帰ってから調べた所、15世紀に建てられたアランフェスはカソリック世界のヨーロッパ人によるものなので、全体の装飾はヨーロッパ風なのだが、この部屋だけはアラブの影響を受けたアルハンブラ宮殿にある1部屋をコピーして作ったために、アラビックな雰囲気になっているのだというのだ。ここだけ雰囲気が違うので目を引くという理由以外にも、壁紙の装飾が面白く他の部屋よりも印象が強く残った。
もう一つ面白い部屋は、「磁器の間」。中国からの陶磁器に魅せられて陶磁器の間を持つという発想は、ドレスデンのツヴィンガー城でも見たことがあり、ヨーロッパではお馴染みのアイディアなのかもしれない。
しかし、ここアランフェスの「磁器の間」は、使っているモチーフは中国なのだが、その色使いや壁へのはわせ方などが独特だ。部屋に足を踏み入れた誰もが、好む好まざるにかかわらず「おぉー」と目を奪われる部屋である。
数々の美しい椅子にも興味が引かれたが、時々椅子の下に畳が敷いてあるのも気になった。これは一体いつから採用されているのだろうか?
お城なんて、どこもヴェルサイユの真似事だというくらいの認識しかなかったが、久しぶりに見るヨーロッパ文化の香り高い部屋は、とても面白かった。
最後の方のコーナーには、スペイン国王や王妃が実際に身に着けた衣装や扇子などのコレクション。中でも王妃のドレスの展示と実際にそれを着た王妃の写真の展示が面白い。王室が今でも継続されているのを感じることができるからだ。
というわけで、宮殿内の見学にはあまり期待をしていなかったのにもかかわらず、ロイヤルな生活を見せてもらえて結構楽しめたのだった。
今日は日曜日。お昼ごはんでも食べようかと、宮殿を出て探したのだが、町はレストラン以外は閉店して閑散としていた。所々でテラスを外に出した観光客向けのレストランが見つかったが、南米からの値段感覚が身についてしまっている我々には、どうにも高くて入る気がしない。それでも手軽なスナックフードの店もみつからず、一番安いランチセットを出している店に入って、泣きたいようなレベルの昼食を食べるはめになった。やれやれ。
さ、気を取り直して午後からは庭園の見学。こちらは、庭園内に農夫の家と水平の家というのがあって、ここに入るには入場料がかかるが、庭園は無料だ。
お花畑を中心に放射状に道が走りながら、全体を構成していくいわゆるフランス式庭園なのだが、すぐ脇を自然林に囲まれたタホ川が走っているので、散策して川にぶつかると自然のままの緑も楽しめるという環境だった。広い緑の中を歩くのは気持ちがいいが、特別感心するような庭園ではなかったが、お弁当を持ってきてここで食べたら、きっと気持ちが良かっただろう。あんなまずいランチも食べずにすんだのに。ああ、失敗。
アランフェスは、夫が描いたような南米の小さな田舎町でもなく、私が想像したような緑に覆われた自然の中にある所でもなく、ちょっと洒落た郊外の町に王様の別荘地がある所だった。しかし、アランフェス協奏曲が今日の風景に作曲のヒントを得たというのもまた納得できた。
帰りは駅からマドリッドのアトーチャ駅まで電車で帰った。アトーチャ駅は、古い駅舎を植物園のようにしている所で、ここもまた機会があったら見ると面白いところだ。
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