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2006.06.23
シャンソニエ「オー・ラパン・アジール Au Lapin Agile」
フランス:パリ |
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モンマルトルの丘の裏手にシャンソニエの老舗「オー・ラパン・アジールAu
Lapin Agile」がある。約8年前だったと思うが、デュッセルドルフ在住の時に夫とパリ旅行で初めて訪れたシャンソニエがここだった。
今回のパリ滞在もそろそろ終わりに近づいている。楽しかったあのシャンソニエに又行ってみようかと、今日、夕飯を自宅で済ませてからまだ明るいパリ郊外の家を出た。
最寄の駅は他にもあるだろうが、サクレクール寺院を見て行こう。地下鉄2号線のAnvers駅からサクレクール寺院のふもとまではすぐ。そこから、ゆっくりと階段を上がってサクレクール寺院に向かう。
サクレクールの丘から暮れ行くパリの町を見ようとしているのか、モンマルトル付近で食事をするまでの時間つぶしなのか、階段脇の芝生には、様々な人が車座になったり寝転がったり、思い思いの格好でこの夕暮れ時を楽しんでいた。
6月に入ってから、べったりと部屋に閉じこもってサイト更新作業とFXの勉強に明け暮れていた私たちにとって、この丘でさえ、ちょっと息切れするものがあった。昨年の暮れには南パタゴニアでがんがんトレッキングしていたというのに、人間の体の衰えるスピードには驚かされる。ふー。
一番上から見ると、パリの街がよく見渡せる。真ん中の奥の方にはポンピドーセンター、その右手にノートルダム寺院、その右手にパンテオンなどが識別できる。
こうして見てみるとパリって、そんなに広いわけじゃないんだ。
今回のパリ滞在では、驚くほど歩いた気になっていたが、実はそんなに遠くなかったってことになる。
サクレクール寺院の左手の道を進んで、人の流れる左手の通りに曲がると、画家のいる広場に進む。午後9時前の広場は、丁度夕食時。
レストランからはいい香り。オープンテラスからはカチャカチャというナイフとフォームの音に混じって、人々の談笑。歩いて行くと、ピアノバーから生演奏の洒落た音楽も聞こえてくる。そんな通りをちょっとはずれると、ユトリロの絵に出てきそうな階段の風景。観光客がパリ気分を満喫できる場所の1つだ。
この広場を過ぎて右折すると、目的地のシャンソニエがある。午後9時の開店5分前。店はまだ閉まっていて、待っているお客もいない。
中から男性が出てきて「あと15分待って!」ととてもいい声でいった。トマというこの男性は、歌手の1人だった。
あたりをぶらぶらして戻ってくると、扉が開いてトマが外を見ていた。「もう、開きましたか?」と聞くと「ウィ」。我々が今夜の一番客。実は8年前もそうだった。9時から開店する店に9時に来るのは常に我々だけなようだ。
店内は入ってすぐ右手にカウンターがあり、そこで入場料EUR24((=US$30.38)を支払う。ついでに、このシャンソニエで録音したという4枚組みのCD(EUR29=US$36.71)も購入。それから、右手の階段を3、4段あがったライブ会場に案内された。
そうそう、8年前はあのピアノの右側の席に案内されたんだった。中央に独立した8人掛けのテーブルが2つ、あとは部屋を取り囲むように壁際にテーブルと椅子が並んでいる。年季の入ったピアノ、テーブル、壁にかかった絵。まだお客さんがいないシーンとした部屋で待っていると、8年前のことがだんだん思い出されてきた。
我々の後には、フランス人老夫婦が1組入った所で、ピアノマンの演奏開始。エイントリーフィーににはワンドリンクが含まれているので、飲み物のオーダーをする。ここのオリジナルのチェリーワインと普通の赤ワインをオーダーした。これ以降のオーダーはEUR6とEUR7の飲み物があった。
写真が悪くて恐縮ですが、これが限界。
店内は真っ赤なシェードのかかった照明が2つ天井から
下がっているのとピアノの上の楽譜用照明だけ。
かなり暗い。ま、ムードがあるのです。 |
白髪のジェントルマンがきれいな顔のオカマちゃんマダムを連れて入って来たのが3組目。ここで歌手達が徐々に登場してきて中央のテーブルに腰掛けて歌い始めた。
8年前に来た時は、この人たちもお客さんだと思っていた。随分大きな声でピアノに合わせて歌う人もいるんだなぁ、それにしても歌が上手いお客さんだなぁと。しばらくしてから、あ、この人たちがシャンソン歌手なんだとわかったのだった。
今回もお客さんと一緒にどやどやと歌手が飲み物を片手に入ってきて、隣の人とおしゃべりしたり、飲み物を飲んだりリラックスした様子から始まった。まるで、皆で酒場で飲んでいて歌のうまい奴が歌いだすような演出になっている。
イースターの時期だった前回と比べると、今回はお客さんの数が少ない上にフランス人が多い。中央の歌手達も、歌の途中で振り返ってお客さんに話しかけたりして、本当に酒場にいるようになってきた。なじみの曲が出てくると、みんなで声をあわせて大合唱。隣のおばちゃんは、かなりのシャンソンファンらしく、始まる曲、始まる曲、全てを中央の歌手に負けじと一緒に歌っていて、一番楽しんでいる様子だった。
途中、ギターを弾きながら漫談のようなシャンソンのような歌を歌う男性歌手のスタンドプレーが始まった。この人の声がまた高田純次にそっくりな声。歌詞はわからなくても、恐らく無責任かつ失礼なことを言っているようで、フランス人は大笑い。この時ばかりは、何を言っているのか知りたいと思った。
かといって私たちが疎外感を感じることはない。世に聞こえたシャンソンの名曲は、知らず知らず私たちの記憶に入り込んでいるようで、歌詞は歌えないけれどメロディーを口ずさむことができる曲が割りとあって、自分でも驚いた。
全員が登場する第一部が終了すると、今度は件のトマ氏のソロのコーナー。しっとりといい声で歌うシャンソンは、先ほどの酒場でのお遊びのような合唱する曲とは違って、哀愁たっぷりだ。これもシャンソン。
お次はアコーディオンの弾き語りの女性。彼女はエディ・ピアフ風で、いかにもシャンソンという声で歌う。楽しい歌、有名な歌が多くて、また皆で参加するのだった。
前回は、モンマルトルの丘のふもとに宿をとっていたので、最後の最後まで見て歩いて帰った。しかし、今は郊外の家に住んでいるので、終電が気になる。時刻は11時10分。アコーディオンの女性が引っ込んで、最後のコーナー全員が出てくるのと入れ違いに、大変残念だったが帰ることにした。既に着席して全歌い始めていたのだが、私たちが席を立って部屋を出て行くと、歌の合間に「メルシー、オーヴォワール」と友達のように言ってくれた。
駅に到着すると終電は0時44分。こんなことならば、最後までいるんだったと悔やんだ。
今回のオー・ラパン・アジールの訪問は、前回のように浮かれて楽しいだけとは少し違った哀愁を感じた。それは、8年前とほとんど変わらぬメンバーがいる嬉しさとは裏腹に、彼らが年をとってしまっていることから来ているかもしれないし、時期が違ったとはいえお客さんの数が少なく、シャンソンの衰退を感じてしまったからかもしれない(たまたまお客さんが少なかっただけだとも思えるが)。しかし、そうした哀愁を差し引いても余りある「大人のパリの香り」を感じさせてくれた。またパリを訪れることがあったら、絶対に来たい場所の一つである。
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