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2006.06.29
ヨハン・シュトラウスとモーツァルトのコンサート
オーストリア:ウィーン |
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ウィーンの韓国人宿のホームページで予約をしようとしたら、この宿がエージェントになってクラシックコンサートに行けると書いてあったので、宿の予約と同時に、コンサートの予約も入れておいた。
ウィーンには、こうしたエンターテーメントを行うグループが数多く存在する。ハプスブルク家が残した建物や、ニューイヤーコンサートで有名な楽友協会を使って、馴染みのある有名曲を演奏するだけでなく、歌あり踊りあり、あるいはモーツァルトのような衣装を着て演奏するなど、工夫を凝らしてクラシックに親しんでもらおうという試みになっている。入場料金はEUR30程度からEUR60くらいまで席によって、グループによってわかれているが、どれもこちらのコンサートを普通に聴くよりも高い。つまり、エンターテーメント性の高い、観光客向けの催しものなのだ。
我々はシュタット・パルクStaat Park内にあるクーアサロンKursalonで行われるコンサートを予約した。歌も踊りもあって、宿のご主人が扱っている3つの中で一番お勧めだと書いてあったからだ。一番いいカテゴリーのA席はEUR54のところ、宿のご主人割引でEUR45。一番前から2列の中央席はVIP席だということだが、早めに会場に行って「キムチハウスで予約しました」というと、本来ならEUR90のVIP席にEUR45で座れるかもしれないと宿の奥さんにいわれ、8時半開演の予定の所、7時に現地到着した。
ところが、辺りの様子がおかしい。
まだ開演1時間半前だというのに、次々と人が集まってきているのだ。しかも、男性はタキシード、女性はイブニングドレス。ドレスコードなんて聞いていない。宿のお母さんはサンダルさえ履いていかなきゃいいって言っていたくらいだ。
会場入ってすぐ右手に、受付のカウンターがあったので聞いてみると、今日は突然パーティーが入って、コンサート会場が変更になったのだそうだ。本来コンサートに来るべき人は、この急なニュースに驚き、さっさと新しい会場に向かっているようだった。我々は、宿の奥さんの指示に従って「VIP席は・・・?」と聞いてみたが、こんなあわただしい日なので、VIPを割り当てることはできないと言われてしまった。
新しい会場は路面電車に乗りなおして1駅、そこから徒歩で15分くらいのやや不便な所。ホーフブルグ宮殿のジョゼフプラッツJosefs-plats前にあるPacffyという所だった。会場にはまだ人が数人しかおらず、8時過ぎに開場された時もA席の人は我々しかいなかった。というわけで、「いい席に案内してチョーダイ」と言ってみると、最前列の中央の席にしてくれた。
開場は狭い。本来コンサートが行われる予定だったクーアサロンがどのくらいの広さだったのかがわからないが、8時30分に向けて団体観光客がどっかん、どっかんと到着して、ギュウギュウに並べられた126席(はい、数えました。)は満席となった。
開演直前に韓国人男性が入り口からちょっと顔を出し、会場を見て渋い顔をして連れと話し合って去っていった。
私たちの席は、ステージから1.5mくらいしか離れていない。本当に目の前だ。
やがて時間きっかりに楽団入場。赤いドレスのコンサートマスターを含むバイオリン2名と、ビオラ、チェロ、コントラバス、パーカッション、フルート、クラリネット、ピアノという小編成。
第二バイオリンは、先日まで暮らしたパリの同居人のパトリスを真面目にした風で、ビオラの男性は気の優しいマイケル・ダグラス、チェロはジダン似。親しみのもてる面持ちのメンバーだった。ピアノの伴奏者は日本人の学生かもしれない。
演奏が始まって15分もしないうちに、入り口からバレーダンサーの男女が入って来た。
一体このスペースのどこで踊るんだろう?と思う間もなく、ダンスは私たちの目の前、ステージとの間の1.5mで行われる。
右へ左へと動くバレリーナのスカートが膝に当たるなんて経験は初めてだ。目の前で90度に足が蹴り上げられるのは迫力だった。でも同時に若いバレリーナの張り付いたような笑顔が気になる。バレリーナは無理にでも微笑みながら踊んなきゃいかんのでしょうか?ブエノス・アイレスでは、無理やり憂鬱な表情でタンゴを歌う歌手を見たが、無理やり憂鬱で歌うシンガーは笑えるが、無理やり微笑んでいるダンサーを見るのは心が痛む。相手が中年ダンサーだから嫌なのか、こんな商業的な所で日銭を稼がなきゃいけない自分が情けないのか、最近彼に振られたのか、それとも単に緊張しているのか。気になったなぁ。
ダンサーが引っ込むと、お次は歌手の出番。女性は小柄ででこっぱちの若い白人で、男性は韓国人。
こちらの2人は演技力もたっぷりに、モーツァルトのパパゲーノやフィガロの結婚からのアリアを歌う。声も迫力あるし、音楽を楽しんでいる気分がこちらにも伝わってきて、とても楽しかった。「この子らは伸びるねぇ」と夫に言うと、「あんた、何様や」と突っ込まれた。確かに。
こうして歌あり、踊りありの名曲三昧の1時間45分。最後はニューイヤーコンサートと同じくラデツキーマーチで締めくくられた。
この催しでEUR45(=US$56.25)を高いと見るか、安いと見るか。結論からいうと、私はちょっと高いと思う。例えばアルゼンチンのタンゲリア(タンゴを見せるレストラン)が、ワンドリンク付きでUS$30くらい(これもピンきりだが、平均的に)、マドリッドで行ったタブラオ(フラメンコを見せてくれるバー)がワンドリンク付きでUS$35という相場を考えると、US$40くらいにしてほしかったなぁ。
何様覚悟で申し上げれば、歌は良かったけれど、器楽の演奏レベルは決して高いとは言えなかった。
お手軽にウィーンの雰囲気を楽しめるエンターテーメントとして1回は楽しめるけど、続けて2回目に別の同様のコンサートに行きたい気持ちが起こらなかった。
後で宿に戻ると、韓国人の奥さんが私たちに会場変更について詳しく聞かせてほしいと詰め寄ってきた。私たちが会場で見かけた韓国人は、この奥さんからチケットを買っていたらしい。突然の会場変更を事前に告げられなかった上に、変更された会場が思っていたよりもシャビーだったことに腹を立てて、エージェントである奥さんに怒りの電話をかけてきたそうだ。奥さんも会場の変更については連絡がなかったので、知らなかったといっても信じてもらえず、「お前は女だからだめなんだ、旦那を出せ」と言われたそうだ。旦那さんはイタリアに出張中。理不尽な怒りにムカムカきていた奥さんは、旦那さんの滞在先がイタリアだということを告げずに、「しゃらっとイタリアの電話番号を伝えたわ。今頃国際電話料金を大量に払っているはずよ。私もそれくらいの仕返しはしないとね」と最後は舌を出して笑っていた。私たちがコンサートを楽しんでいる間に、韓国人同士の熱き戦いが行われていたようだ。
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