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2006.07.08 Vol.3
コンサート(2)アンドレ・リュー(Andre Rieu) in シェーンブルン宮殿
オーストリア:ウィーン |
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アンドレ・リューをご存知だろうか?我々は随分前に日本のテレビで彼のステージを見てかなり強烈に覚えていた。
オランダのマーストリヒト出身の彼は「音楽は楽しむもの」というコンセプトのもと、ポップミュージック並みの華やかさと楽しさで観客とステージが一体となって楽しめるステージを試みている。クラシック音楽というと、いずまいと正して、咳をするのもはばかられ、拍手は決められた所で行うというイメージがある。しかし、ヨハン・シュトラウスのポルカやモーツァルトのアリアを聞いたら、足を踏み鳴らし、手拍子を取り、歌の途中でワーッと感情が盛り上がって拍手したくなる。そんな気持ちを解放して、気持ちのままに音楽を楽しめるコンサートがあってもいいじゃないか、というのだ。(詳しくは、彼の公式HPの自信についてのページを参照http://www.andrerieu.com/site/index.php?id=personal&L=5)
そんなメッセージがテレビの画面から繰り出され、「そうだ、そうだ」と共感したので、とてもよく覚えていたのだった。
彼のポスターがウィーンのあちこちに貼られていて、我々の滞在中にコンサートを行う。会場は、あのマリア・テレジアも愛したシェーン・ブルン宮殿。ヨハン・シュトラウスに造形も深いアンドレ・リューが、この作曲家のお膝元の宮殿で行うコンサートとなったら、行かない理由がない。
早速チケット販売店に赴いて聞いてみると、開場は屋外特設ステージで、チケットはVIPのEUR220から一番安いのでEUR50台だった。残席状況をPC画面で見せてもらい、Bクラスの席EUR70.3(=US$90.13)を2つ選んでチケットを購入した。コンサートの2日前でこの状況。日本では即完売という話を聞いているだけに、ウィーンの人のアンドレ・リューに対する人気は日本やアメリカほどではないようだ。確かにここではウィーン・フィルに勝るものはないという感想を誰もが持っているだろうから、ここでコンサートするというのは、アンドレ・リューにとってもある種のチャレンジなんだろうなぁ。
7月8日は、屋外コンサートだけに天気が気になったが、前日の深夜からの嵐もおさまり、家をでる夕方には晴れ間も見える天気になってきた。地下鉄のシェーンブルン駅で降りた人はほぼコンサートに向かう人と思われた。我々のようなカジュアルな服装の人から、ドレスアップした人まで様々である。どちらかというと、カジュアルな服装の人が多かったけど。
宮殿の正面玄関に向かう人の波に混ざって歩くこと5分、正面玄関が見えてきた。正面玄関が駅の改札口のような機械に取り囲まれ、チケットを見せた人だけが、そのバーを回して入れるようになっていた。
開演20分前の午後8時だが、まだまだウィーンの空は明るい。会場は一体どこ?と探すまでもなく、宮殿の前にどーんと設えられたステージが目に入って来た。うわっ、豪華。これだけで興奮が高まる風景じゃありませんか。
会場はステージ横に大きなスクリーンが2つ用意されていて、時間近くになると、宮殿の庭園から馬車に乗ってドレスを来たバイオリニストらに囲まれて座ったアンドレ・リュー氏が手を振りながら入場する場面から映し出された。なんちゅう登場の仕方!会場内が思わず爆笑し、つかみはOKだ。ステージからの映像では、満席の観客が映し出され、大観衆が集まっている雰囲気に、会場は更に盛り上がった雰囲気になった。
こうして映像で会場を盛り上げておいて、コンサートスタート。
バイオリンを弾きながら指揮をするのは、テレビでもお馴染みの姿だ。
なごやかに始まったコンサートは、ヨハン・シュトラウスの知名度の高い曲が次々と演奏されて、会場は更に盛り上がっていった。
ワルツの曲になると、ステージ裏手の宮殿二階の舞踏の間に正装した男女のカップルがワーッと現れてワルツを踊っているのが遠めに見える。この様子を左右のスクリーンが大きく映し出すという演出。宮殿というロケーションをフルに活かして、我々も舞踏のまでワルツを見ながら演奏を聴いているような気分にさせてもらえた。
ステージは、イタリアからの歌手、ブラジルからの歌手などの歌姫の登場や、第三の男のテーマソングともなった曲をコミカルに演奏するなど、華やかで演奏中も笑いが絶えない。ステージも青や赤や黄色の照明を使い、華やかなことこの上なかった。
あるワルツの曲では、冬の間に撮影した市庁舎前で演奏するアンドレ・リュー氏らの前にアイススケートリンクがあり、演奏にあわせてワルツを踊るスケーターの姿がスクリーンに映し出された。半年も前からロケを行っているという事実に、このコンサートが付け焼刃でなく、じっくりと計画されている所に深い満足感を覚えた。
当然、各国から集まってきた観光客は大喜び。私の隣のシカゴから来たというポーランド人(アメリカに移住して32年になるそうなので、気分はアメリカ人)の奥さんも、後ろの方の席の男性達も、盛り上がりとともに手拍子、足拍子、「ヒューヒュー」「イェーイ」と音楽の途中で掛け声をかける。アンドレ・リューの意図する通りの盛り上がりだ。
ポーランド人奥さんは、シカゴで何回も彼のコンサートのチケット取得に挑戦したのだが、いつも売り切れで取れなかった。それが、たまたまウィーンに旅行してきたらあっさりと取れたということで、大変楽しみに来たという。悲運の王女エリザベートの人生を描いた映画「シシィー」のテーマソング(英語)では、「やれやれ、やっと私のわかる言語での歌が出てきたわ」と言って、「私は自由になりたいの。なぜなら私は他の誰でもない、私自身なのだから」とかいう歌詞のところで、「その通りExactly、その通り」と大きな声で言いながら大きくうなずいていた。もう、心からコンサートにのめり込んでいるという様子。
ところが、こうした観衆の態度がお気に召さないのが、我々の前の席に5人ほどずらりと横並びしているウィーンっ子の老婦人方。最初、後ろの方で「「ヒューヒュー」「イェーイ」が始まった時に、「クラシックのコンサート中に何事でござりますの?」と一斉に後ろを振り返って、キッとした目つきで声の主を探そうと群集をにらみつけた。
次に横の方で、立ち上がって「パシャ」っとフラッシュをたいてカメラ撮影している中年男性が出現。またもや一斉に視線攻撃。その後、口々に「まぁ、何てことでしょうねぇ」と話しているようだった。私の隣のおばちゃんも立ち上がってパシャリとやった日には、「今回は私の真後ろでやったのでござりますわねぇ、ええ、私、あなたということはわかっているのでござりますよ」とまっすぐにおばちゃんをにらみつけた。おお、インターナショナルおばちゃん対決勃発だぁ。
さぁ、これに怒ったのが隣のポーランドのおばちゃんだ。私に向かって、「アメリカじゃねぇ、音楽ってのは気持ちに応じてリラックスして聴くもんなのよ。いい演奏にあたったら、拍手して、声を出して、楽しむのがあたりまえじゃない。ジャズだって、なんだって、皆そうしてるのよ」と言ってくる。同じヨーロッパの出身とはいえ、32年の月日は彼女をすっかりアメリカ人に変えてしまったようだ。
まぁ、従来のクラシック音楽とジャズを一緒にしちゃ前の老婦人たちは卒倒しかねないだろうが、アンドレ・リューだから、楽しんだほうがいいよねぇと私も同調した。
もう、あちこちで手拍子が起こって、にらみ疲れたのか老婦人たちはしまいには振り向かなくなったが、勝手の違うクラシックコンサートのニューウェーブに大変とまどっている様子だった。
休憩をはさんで2時間半後の午後11時。青い照明に彩られて「美しき青きドナウ」そして「さぁ、それではこれが最後の曲です」で、お馴染みのラデツキー行進曲が終わった瞬間、ポーランドの奥さんは、「さ。行くわよ!」と私の手を取った。「へ?」と言う私に、「もう最後の曲が終わったらA席もVIP席もないはず。ステージの真下に突進して、最前列で見るのよー」と立ち上がった。よし、このお母さんとならどこまでも行けそうだ。と、私と奥さんはお互いの夫をおきざりにして、どんどんと前の方に移動していった。奥さんは、休憩時間にもA席のエリアに入ってステージを撮影しようとしたのだが、セキュリティーにとめられたらしい。その時から、突破の機会を虎視眈々と狙っていたに違いない。
もうこの時間には通過自由。まずA席エリアを突破して、奥さんはこちらにVサインを送ってきた。さらにVIPエリアに行くと、全員立ち上がって大興奮状態なので、誰も整然と席に座っていないので、ここにも紛れ込めた。どう見ても椅子の数よりも多い人がいるので、同じような考えの人がどんどん詰めかけているようだった。おお、近い、近い。今までスクリーンでしか見えなかった出演者の表情が、ここでは肉眼ではっきりと見える。これはいい。
アンコールは、全部で何曲あっただろうか。アンコールに入ってから20分くらい演奏していた。最後は合唱曲も多く、もともとVIP席にいたと思われる品のよさそうなオーストリア人の老人たちも、大きな声で歌っている。終わると「ツーガーベーzugabe、ツーガーベーzugabe」(アンコールの意味だそうだ)と叫び、また次の曲。今宵の演奏はいつまでも続くかのように思われた。
やがて本当にフィナーレ。いつまでも鳴り響く拍手の中、何回もカーテンコールをして、皆大満足で幕を閉じた。私たちの前に座っていた老婦人たちの感想は別として、大抵の人は大満足のコンサートだったと思う。
さて、席に戻るか。ポーランドの奥さんは本当にステージの真下まで行ってしまったらしく、この時点でははぐれていたが、席に戻る途中で合流。「何で私についてこなかったのよぉ。アメリカじゃねぇ、度胸のない奴はチキンっていうのよ。チキン。こういう時はどーんと行かなくっちゃ!」と言われた。いやはや、異国で頑張ってきた人はパワーが違う。
席に戻ると置いてけぼりをくらった旦那たちが迎えてくれた。最後にポーランドのお母さんと記念撮影。「今度はスイスでばったり会おうね!」とポンと肩をたたいて高笑い。いやー、この人も面白かった。
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