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2006.09.03
ウィーンフィル、さようならマイスター、そしてクラシックカー
オーストリア:ウィーン |
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今日はいよいよウィーン・フィルハーモニカー・オーケストラの演奏を生で聴く。ウィーンといったら、ウィーンフィルとザッハートルテってくらの知識しかなくこの町に入ってきた私たちだが、そのウィーンフィルをまだ聞いていなかった。
というのもオペラやオーケストラは7月と8月は夏休みだったからだ。
9月3日にウィーンフィルの演奏会があるというのを、地元の日本語情報誌で知り、7月のうちに会場であるテアター・アン・デア・ウィーンに行って、そこの窓口でチケットを購入しておいたのだ。
チケットの価格はEUR20で、席は天井に近い席。窓口の人いわく、「オーケストラの演奏の音は、天井に近くなるほど調和されて、音を聞くのには悪くないせきです。」それに、と彼女は言った。「オペラと違って音を聞くのですから。」・・・ということは、ステージがちょっと隠れて見えないってことですね。ま、いいでしょう。音を聞くのですから。
テアター・アン・デア・ウィーンでは既にドン・ジョバンニを見ていた。夏休みの最中だけれど、夏の企画として1つだけやっていたオペラだ。ってことで、ここでの公演を見るのは2回目。
今日は午前11時からなので、現地に10時半に到着。まだ開場されていなかったので、皆外で談笑しているが、ドン・ジョバンニの時よりも正装している人が多い。
いよいよクラシックのシーズンが始まったんだなぁと感じさせる風景だった。
ウィーンとザルツブルグでいくつかのコンサートに行ったが、服装に関しては、購入した席が良い席ならば正装も必要だと思う。
というのも良い席になると、周りの人も正装してきているので、そこにジーンズにTシャツにサンダル履きで現れたら、せっかくの雰囲気に水を差すことになるからだ。しかし、立ち見席や私たちが取ったような桟敷の3階、4階のような席ならば、ラフな格好でも大丈夫だと思う。ただし、開場前のこうした雰囲気や、幕間で皆がゼクトを飲んでいる中に入ると浮いてしまうので、それが気にならなければ、別にいいのではないだろうか。
逆に桟敷の上の方でも、肩の出たドレスにショールなどで来ている人もいる。私自身はあまり安い席で洒落ると逆に恥ずかしいような気がするのだが、本人が安いチケットでも思いっきりコンサート気分を楽しみたいと思っているのなら、その気持ちもわかる。実際、そういう人は少なからずいる。
ところで、テアター・アン・デア・ウィーンの玄関前の道路には、モーツァルトのマークが埋め込まれている。
ロサンゼルスのハリウッドスターのと同じような感じ。ウィーンでは所々で見かけるマークなのだが、モーツァルトのはここにあるのだ。
しばらくすると、劇場前でゼクト(発砲ワイン)などの飲み物の販売が始まった。
オーストリア伝統の衣装を身にまとったご婦人などが、次々に買っていく。
ふと見ると日本人の姿も多く見られた。一人の50代〜60代とおぼしき日本人女性が近寄ってきたので、話しかけてみると、一人で旅行しているという。
この年代の人にしては、一人旅行とは珍しいなぁと思いながら話を聞いてみると、地元でピアノを教えていらっしゃる先生だということだった。1ドル360円の時代に初めてウィーンを訪れ、以来、機会あるごとにヨーロッパの各都市を訪れているということだった。そういう経験をしている人から見たら、高いとはいえ1ドル180円弱の現在、ヨーロッパで英語を話せる人も増え、確かに格段に旅行しやすい環境になったんだなぁ。
この女性は特にドイツ語も英語も話せるわけではないが、一人で旅行していると言っていた。そうそう、少ないお金でたくさんの観光スポットを周ることに、いつまで価値をおくのだろうか。言葉ができないからといって、団体旅行で周ることはないのにと常々思っている私は、おおいに共感した。この女性のように、自分のテンポで自分の好きなスタイルの旅行をした方が、よっぽど心に残る旅になるだろう。
話しているうちに会場の扉が開き、三々五々自分の席へと観客が入っていく。我々も会場に入っていくことにした。
「2.Rang Loge 5 Links 2. Reihe Platz5」。呪文のような席の書き方であるが、これはRangの桟敷の3階の左から5番目のボックスの2列目の5番の席という意味になる。劇場はウィーン国立歌劇場Staatsoperだと平場の前から3分の2まではParkett、後ろの3分の1がParterre。桟敷席の1階がRogen-Parterre、2階がRogen-1Rang、3階がRogen-2Rang、4階がBalkon、5階がGalerieになっている。アン・デア・ウィーンは4階までしかないので、私たちの席は上から2番目の高さの席ということになる。
で、linksが左という意味なので、ステージの左手から数えて5番目のボックス。1つのボックスは前後2列になっていて、1列目が椅子番号1〜4、5と6が2列目だった。
ボックスの前にはボックスに区切られていない2列の席があるので、実質4列目ということになる。
席からステージを見るとこんな感じ。左端が切れてしまう状況になるが、まずまず見える。
最近はインターネットで劇場のサイトでチケットを購入できるが、どの席がどんな具合に見えるのかというのが、知っている人でないとなかなか難しい。誰かそういう情報をインターネットにあげていてくれないかなぁと思ったのだが、見つけることができなかった。私みたいな思いをしている人に、少しでも参考になるといいなぁ。
今日の曲は前半がシューマンとショスターコヴィッチ、後半はブラームスの交響曲第四番。指揮者はヴァレリー・ゲルギエフ。
ここに来てシューマンといえば、歌曲「冬の旅」をフィルムコンサートで聞いたのみで、ショスターコヴィッチやブラームスはウィーンでは初めて聞く。前半はあまり耳慣れない曲調で、聞くのが難しかった。音楽って、同じようなフレーズが繰り返し形を変えて出てくるのを楽しんだり、覚えやすいメロディーが出てきてすぐに一緒にくちずさめるのを楽しんだり、徐々に盛り上がって行く興奮をオケを一緒に楽しんだり・・・。そんな感じが楽しいのだが、前半の曲は、どこが盛り上がりなのか、メロディーも難解で、一緒に楽しもうという気分を拒絶される。
だから、後半のブラームスはこれだけを取り上げて聴かされたら、これもまた難解で嫌になるかもしれないのに、前半の拒絶があったので、とっつきやすかった。
弦の音はいいねぇって感じだったが、管楽器が「バホッ」と大きすぎる音を出してしまうことが何度かあり、もしかして正規メンバーが夏休みから帰っていなくって、エキストラの学生を入れているのか?という思いをした所が何ヶ所かあった。
でもま、初めてのウィーンフィル。ウィーンに来て最初の方で何度か聴いた生演奏に比べたら、格段に良かった。
午後1時に演奏が終了した。演奏前に出会った日本人女性から、今日はフォルクスオーパーFolksoperがシーズン開幕で「ニュルンベルクのマイスタージンガー」をやっていると聞いた。彼女はもうチケットを取ってあるそうだ。
一旦家に戻って昼食を食べてから、インターネットで調べてみるとマイスタージンガーって休憩を入れると5時間にも及ぶ大オペラ。午後5時から午後10時までだ。前売り券の販売は1時間前から。ちょっと並ぶとして午後3時半には現地に行かなきゃならない。今日は市庁舎前のフィルムフェスティバルのインフォメーションブースで、買いそびれたDVDを買おうとも予定していた。ってことは、もう家をでなきゃ。あら、忙しい。
5時間と聞いて夫は引きまくり。。「えええ?行くの?行くの?」と何度も繰り返していたが、ついに重い腰をあげた。フォルクスオーパーに行く途中、オペラ座の前で路面電車を乗り換えるのだが、ここで面白い車が次々と走ってくるのを発見。クラシックカーに近いような車だ。皆、ドアに「ウィーン24時間」という同じステッカーを貼っている。
イタリアのミッレミリアというのをテレビで見たことがある。イタリアとサンマリノ共和国の公道を使って、クラッシックカーが一定区間を一定時間で走るというタイムトライアルレースである。あのレースでは自転車のように細いタイヤのいわゆるクラシックカーが続出しているが、ここのはそれよりももう少し後の年代の車が出ている感じだった。「面白いねー」と路面電車が来るまで見ていた。
路面電車に乗って市庁舎の前まで来た時に、丁度市庁舎前の停留所がタイム計測ポイントになっていて、次々に車が来ては停まっている。ポイントの手前で時間調節して、時間ぴったりにポイントを通り過ぎるためだ。これは絶好の撮影ポイントだ。と、まだ時間があるので路面電車を降りて、再び観察することにした。
見ていても時間がなくなるので、市庁舎前のインフォメーションブースに行った。ブースはフィルム公演が始まる夕方までは閉まっているらしく、収穫なし。
さぁ、これでフォルクスオーパーに向かえると思っていたら、市庁舎前が計測ポイントに加えて、2本の線の間にぴたりと前輪と後輪を止めることができるか、という競技も行っているポイントになっていた。
あっちゃー。夫はもう完全にこちらを見る気満々。フォルクスオーパーの前売りの時間はとっくに過ぎ、ワーグナーはウィーンの空のかなたに飛び去っていってしまった。さよーならー、マイスタージンガー!
そうとなったら、こちらを楽しむしかない。ここに集まっている人々は、今朝テアター・アン・デア・ウィーンで見た人々とは又別の種類の感じのオーストリア人集団だった。私たちの前に座っているのは、お父さんと20代の娘とその彼氏と思しき3人連れ。お父さんと娘の彼氏が車好きらしく、口角泡を飛ばして、来る車、来る車に批評を加えているらしかった。熱い男達だ。
フィルムコンサートのスクリーンの前には舞台が設置されているが、今日はここにマイクやソファーが置かれている。
どうやらここでちょっとした座談会や大会の始まりの挨拶などが行われていた模様だ。
このステージの左にSAMSUNGというロゴとネイティブ・アメリカンのような男性の顔がかかれた車が目立っている。男性の顔の下には「インディアン・スピリット」と書かれている。すると、車のなかから長髪の中年男性が出てきた。おおお、まさに車に書かれている顔の男性ではないか。続いて、若い衆が数人。皆、社長と同じ長髪でダークなよれよれのTシャツに古びたジーンズ。どうやら、ここは、社長と全く同じコーディネイトするくらいに社長好きな若者が集まる舞台設営会社チームらしかった。
彼らは手際よく舞台の上のソファーやらマイクやらを車に運び込んでいた。それにしても、車に自分の似顔絵を書いちゃうとか、社員が社長と同じ格好だとか。車の世界の男くさい熱いスピリッツを感じますねぇ。社員同士で「社長の男らしさっていいよなー」「あ、先輩もそーっすかー。俺も社長にほれ込んで、ここに来たんっすよー」とかいう会話をしちゃってるのだろうか。熱いぜ。
そんなことに目を奪われている間にも、次々と車は登場。車種ごとにまとまって来ているが、少しずつ違う。この中の1台でも街で走っていたら「おっ!」と目を引く車が、こんなに大集合しているのは圧巻だった。
こうやって見ていると車も面白い。特にここのポイントは、2本の線の間にタイヤを停めるので、乗っている人のキャラクターも見えてくるのがよかった。大抵は、助手席に乗っている奥さんや友人や息子や娘が、ウィンドウから大きく身を乗り出してタイヤの具合を見ながら、「パパ、もうちょっと前、もうちょっと前」などと叫んでいるのだが、うまくいって大喜びするチーム、失敗して息子を叱責するお母さん、ま、これくらい朝飯前だと観衆にすまして手を振るニヒル派(表現が古!)など様々。中には、助手席の女性は何もせず、ドライバーの男性が一人でドアを開けて調節しているカップルもいて、この二人には一体何があったのだろうと想像するのも楽しい。
こうして午後5時近くまで、ここで見物して本日は終了。マイスタージンガー、いつか見てみたい、そしていつかイタリアのミッレ・ミリアを見に行きたいと、また行きたい所リストに項目が増えてしまった1日となった。
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