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2006.10.09
生ムッティーでウィーンフィル、これぞウィーンの醍醐味。
オーストリア:ウィーン |
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約1ヶ月の日本滞在を終えてウィーンに戻ると、街路樹の木々は色付き、朝には霧が立ち込める。ウィーンには確実に冬の足音が聞こえ始めていた。
日本から到着の2日目、かねてから約束していた友人たちと宿の近くのケバブ屋で昼食。色々とお世話になったこともあり、お得意の「へしこ」をプレゼントしたのだ。そのお返しってわけじゃないけど、音楽を勉強する友人達から、今夜ムッティー指揮のウィーンフィルコンサートが楽友協会で行われるという情報をもらった。彼女達は既に立見席を購入したというのだ。何?生ムッティーがEUR4.5で見られる?いや聴けると?
ムッティーといえば、ウィーンの楽友協会のニューイヤーコンサートでも指揮を振る当代きっての超有名指揮者だ。まっすぐな長髪の頭をうなずかせながら、ニヒルに観衆の拍手に応える姿にクラッと来ている日本のご婦人方も多いことだろう。見たいみたい。この目で一目見てみたい。そんなミーハーな心がムクムクとわいてきて、我々は話を聞くやいなや行くことを決定した。
ウィーンフィルのオフィス前。 |
ウィーンフィル前の歩道にはウィーンフィルの記念碑が。 |
今夜のコンサートの前売り券は、オペラ座の斜め前にあるウィーンフィルハーモニカーの事務所で販売されている。
世に名を響かせているウィーンフィルにしては、とても地味なたたずまいのオフィスだった。
ここで立ち見券二枚を購入。友人との次の待ち合わせは楽友協会の正面玄関に午後6時だ。夜の戦闘(?)に備えて夜までは昼寝することにした。
午後6時ちょっと前、楽友協会に到着。誰もいないなぁと思っていた、6時を過ぎると、一組、また一組と、立ち見券を買った人が正面玄関に並び始めた。
正面玄関には扉が3つあるのだが、立ち見券の人は左右の扉の前に並んでいく。
立ち見券で並んでいるのは、決して我々のような節約旅行者や節約音楽学生ばかりではない。身なりのいいオーストリア人の中年夫妻などもいて、この土地の人々がいかに気軽に上質の音楽を楽しんでいるのかということを物語っていた。
やがて友人達も到着し、我々は左側扉の第一組として扉のまん前に陣取り、友人が握ってきてくれたホカホカの「おかかにぎり」をパクつきながら、扉の開くのを待っていた。
女性にしては大きな手の持ち主である友人が握ったおにぎりはとても大きく、一つでお腹いっぱい。これで空腹を感じずにコンサートを楽しめる!しかも、今後、楽友協会の正面玄関といえば「おかか握り」という、通常ではあり得ない思い出もできた。
午後6時半に開場。このまま一気にいけるのかと思いきや、ロビーの左にある階段で再び待機。たかが立ち見、されど立ち見。なかなか盛り上がる設定になっているのだ。20分後、さらに階段を上がって立ち見場所の直前まで進入して待機。ああ、立ち見席は既に目の前である。
この時点で友人から立ち見場所攻略方法の説明があった。立見席に行くには、目の前にあるバーをくぐる。そして、なるべく真ん中を目指して走って行くのだそうだ。
立見席の目の前には柱が何本も並んでいる。真正面に3人並ぶと、その左右に1人分の柱、そこから3人並ぶと再び柱があるので、焦るあまりに柱の目の前に場所を取ってしまうと失敗になる。ここがポイントなのだ。
1組目の私たちの競争相手は、反対側からあがってきている人たちだけなので、最前列の確保は楽勝だろう。あとは柱前を避けるのだけ忘れなければ大勝利だ。場所を確保して目の前の柵に自分のマフラーやスカーフを巻いておけば、席を離れても自分の場所は確保できるのだそうだ。この辺りが紳士的でクラシック音楽界という感じがする。
6時50分。係員の「では、立ち見入場!」(と言ったかどうかは定かではない)の掛け声とともに、左右から人々がバーをくぐり抜けてステージ中央に走り寄る。ほんの数メートル走るだけなのだが、壮麗な楽友協会の黄金に光る大ホールの前で、こんな障害物競走をするとは思わなかったので、大興奮。
キャーキャーとはしゃぎながらも、ステージ真正面の最前列、つまり立見席としては最高の場所を確保することができた。
よく見てみると、反対側の1組目として並んでいた品のいい夫婦は、走って駆け寄ることもなく、ゆったりと端の方の最前列を確保してご歓談中。同じ立ち見券といえども、この立ち居振る舞いの違いは何なんだ。私たちも飽きるほどここに通って、飽きるほど障害物競走をしたら、あの境地に達するのだろう。ま、それまでは走るね。
ウィーンで最初に楽友協会で聴いたコンサートは、夏の間だけ行われる観光客向けのモーツァルトコンサートだった。素人の耳にもかなりレベルの低さがうかがわれるのにもかかわらず、チケットはEUR50くらいもした。今日は一流の指揮、一流のオーケストラでEUR4.5。知っているのと知らないのとでは、これだけの差が出てくる。旅においても情報は大切なんだなぁ。
こうして席を確保したら、開演までの30分間は自由。内部の見学するもよし、自分の服装が気にならなければカフェで洒落た紳士淑女を見物するもよし。立ち見席の大半は、その場の絨毯に座り込み、持ってきた本を読んだりしていたが、私たちは、外に出たり、カフェを見物したりして、思いっきりオノボリサン気分を楽しんた。
午後7時半、盛大な拍手の中、ムッティーが登場。ハイドン、モーツァルト、サリエリの曲を演奏した。7月からウィーンに入り、観光客向けの高いコンサートを聞いた。ウィーンの実力ってこんなもんか?と思っていた。
8月に入り、市庁舎前のフィルムコンサートに毎晩通いつめ、歴代の素晴らしい作品を素晴らしい演奏で聴き、クラシック音楽の素晴らしさを存分に楽しんだ。
9月に日本に帰り、10月の今宵、ウィーンでの最後のひと時をレベルの高い演奏、ホール、指揮者で、ウィーンでできた音楽を学ぶ友人と共に楽しんでいる。私たちにとっては、今回の旅におけるウィーンでの集大成的な意味のあるコンサートとなった。卒業式みたいなもんだなぁと思うと、じわじわと感動が胸の中に高まってくる。
今度ここに来られるのはいつだろう。その時にまた、正面玄関で一緒に待ち時間を楽しく過ごしてくれる友に会えるだろうか。ウィーン、また一つ後ろ髪を引かれる都市ができた。
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