|
|
|
|
2007.01.09
満を持して、いざギザのピラミッドへ
エジプト:カイロ |
|
昨年のクリスマスにカイロ入りしてからというもの、なかなか晴天に恵まれない日が続いていた。カイロの他の場所はさておき、ピラミッドだけは晴天の青空をバックに見たいと強く願っていた私たちは、他の宿泊客に「えー、まだ行っていないんですかぁ、ピラミッドへ」としばしば言われても、我慢、我慢と天気待ちをしていた。
年が明けてから晴れ間も多くなり、インターネットで天気予報を見て9日、ついにピラミッドに行くぞー!と決めたのは8日だったかなぁ?
ピラミッドって、あのスフィンクスのある所だけじゃない。エジプトのガイドブックを開くまで、ピラミッドは時代によって少しずつ形が違うこと、見られる場所も違うってことなぞ知らなかった。私たちが通常ピラミッドと言っているのは、ギザという所にある3つのピラミッドとスフィンクスのある場所。ピラミッド見学の第一番目はギザを目指すことにした。
ギザではクフ王、カフラー王、メインカウラー王のピラミッドを外側から眺め、スフィンクスを眺めるというチケットとは別に、クフ王の内部を見学するチケットが販売されている。ピラミッドの内部見学は午前中150人、午後150人に限定されている。1月といえばエジプト観光のハイシーズンではないか。この時期に午前中の150人に入れるかどうかに勝負がかかっていると、勝手に鼻息を荒くして私たちは叫んだ。「こうなったら、朝6時出発だー!」
朝5時15分に起床。こんな早い時間でも階下のパン屋というかピザ生地を焼いたものに粉砂糖を巻いてくれる店は開いていた。この店、24時間営業なのかもしれない。
いつも以上にしっかりと朝食を摂り、最寄の地下鉄駅ナセールに到着したのが6時5分だった。
ダウンタウンからピラミッドへの行き方はいくつかある。メジャーなのは、タフリール広場から375番という通常よりは少し値段の高いバスに乗るとクーラー付きでピラミッドの目の前まで行ける。もう一つは地下鉄でギザ駅まで行き、ここからミニバスに乗ってピラミッドに行く方法。午前中のクフ王のピラミッド内部見学に燃える私たちは、朝の道路の渋滞を非常に恐れ、ギザまでは地下鉄、そこからミニバスという方法を選択した。
しかし朝の地下鉄というのはなかなかやってこない。ギザまでは乗ってしまえば10分強の距離なのに、この日は6時30分過ぎに到着することになってしまった。
まだ明けきらぬギザの街は車も人もあまり多くなかった。ええっと、バスは一体どこでつかまえられるのだろうか?
地下鉄を降りて大きな通りに出て右に向かってしばらく歩くとミニバスの発着所になっている場所がある。どうやらここから行けるようだった。
辺りにいる人に聞いて、どうやらミニバスに乗り込んだ(一人EGP0.75=約15円)。
ギザの町はなかなか大きくて10分乗ってもまだ町並みが続いていた。
乗車して20分後、団地の向こうに三角形の物体が見えてきた。え?ピラミッドって団地の向こうに見えるもんなの?
第一印象は意外だというしかない。私はピラミッドってのは、町からかなり離れた砂漠の中に忽然とあるものだと思い込んでいたのだった。ところが、ピラミッドは町のすぐそばにイトーヨーカドーみたいな感じで、商店や団地やオフィスビルの向こうに見え隠れしてくるのものだったのだ。
ミニバスの運転手が振り返って、「ピラミッドならここで降りるんだけど」と言っていたと思う。アラビア語なんでよくわからない。ピラミッドはまだまだ先にあるように思えた。「いや、もう少し先に行ってほしいんだけど」と英語で言ってもさっぱり通じず、「何だ降りないのならもっと走っちゃうよー」とミニバスは再び走り始めたのだが、すぐに道をUターンして逆走。じゃ、じゃーここでいい、ここで止めてくれ。と慌てて運転手に言うと、ピラミッドはこの先を右に曲がった所が入り口だからまぁ落ち着けみたいに言って走り続けるのだった。
ピラミッドは2ヵ所の入り口がある。スフィンクスに近い入り口と遠い入り口だ。
クフ王のピラミッド内部のチケットを売る場所は遠い入り口の近くだ。それに、スフィンクス側から入ってしまうとスフィンクスと3つのピラミッドが一望できてしまって、それからバラバラに眺めることになるので感動が低いという情報も聞いていた。
だから、遠い入り口から入らなきゃいけないのに、今ミニバスの運転手はスフィンクス側の入り口に向かっているに違いなかった。違う、違う、ここでいいからと無理やり降ろしてもらった。そこから歩いて10分ほどして、ようやくスフィンクスから遠い側の入り口に到着。午前7時6分だった。
私が勘違いしていたのだが、冬の開門は8時である。てっきり7時半だと思っていた。1時間も前の入り口には当然誰もおらず、私たちはラクダの客引きの勧誘を避け、警官にここから先は入るんじゃないぞと念を押されながら、入り口を封鎖している鎖の前で待つことになった。
7時半過ぎになると、この入り口の隣にあるオベロイ・ホテルに宿泊しているという日本人の3人組若者男性旅行者がやってきた。車両のスタート地点は徒歩者のスタート地点よりも50mばかり後ろになっている。
7時半の時点では一台もいなかったのだが、開門の8時近くになると続々と大型バスが停車し始め、あっという間に5台もの大型バスが我々の後ろで開門を待ち始めた。
一台のバスに観光客が30人乗っているとしたら、5台で150人。やばい。クフ王の内部見学のチケットは午前中150人だけなのだ。徒歩の5人の日本人は、「こうなったら走るしかないですね。やりますよー、俺は」などと息巻いて、後ろのバスをにらみつけたりした。
午前8時開門。ここから先は無常の上り坂だった。あっという間に大型バスに追い越される。こんな朝っぱらから走っている東洋人旅行者をバスの中の旅行客は何だと思っていただろうか。思えば、この旅が始まってから、トレッキングはよくしたが走るということをしたことがなかった。この旅が始まってというよりは、もう何年も走ったことがなかった。自分の肉体がこんなにも衰えてしまっているのかぁぁぁぁ、待ってクレーと軽快に走り去る若者の姿が遠のいていく中、悲しく足をもつれさせながら走った。いや、正確には途中から歩いたんだけどね。
右手にチケット売り場が見えてくる。幸いにもバスの駐車場は少し離れていて、そこからゆったりと歩いてくるバスの乗客の大半は私たちよりも後からチケット売り場に到着することになった。まずピラミッドの敷地に入る入場券を購入。その後、X線検査を経て、クフ王のピラミッドを右手に更に奥にあるクフ王の内部見学のチケット売り場へと、再び走った。
このチケット売り場には誰も並んでいない。ふと振り返って後ろを見ると団体観光客はガイドに連れられて、別の方向に歩いていっているではないか。大抵の人がクフ王のピラミッド内部に入るものだと思い込んでいた私たちは、だったら急ぐことなかったなぁとその場にヘナヘナと座り込んだ。確かにピラミッド地域全体の観光チケットがEGP50(=US$8.32、換算レートは1月8日US$1=EGP6.01を使用)に対して、クフ王のピラミッド内部見学だけのチケットは倍額のEGP100(=US$16.64)。そんなに高いお金を出してみる価値があるのかと疑問に思う人が多いというのもうなずける。
でもまぁ、ルクソールでツタンカーメンの墓の内部は見なかったし、ここぐらいは見ておこうというのが、私たちの気持ちだったのだ。
まだ息があがっているので、とりあえずクフ王のピラミッドのそばの石に座って休憩。いやー、朝からハードだった。見上げるとクフ王のピラミッドはやはり大きい。
足元から見上げるとその巨大さが際立って見える。一つ一つの石は下の方は80cmくらいの高さだが、上までに行く途中には大人の男性がよじ登らないといけない高さの石もあるらしい。
夜中のうちに警官に賄賂を渡したり、あるいは黙ってここを登頂する人がいると聞いている。
頂上からの眺めというよりも、ここを登った征服感、達成感が味わいたくってそんな事をするのだろうと、その気持ちが理解できた。ただし、昨年の5月に登頂した日本人は罰金という名の巨額の賄賂をふんだくられた上に、警官にボコボコに殴られたそうなので、決してお勧めはできない。
クフ王の内部に入る入り口は、ピラミッドの下から少し上がった所にある。ここだけは階段が取り付けられて、登りやすくなっていた。カメラを持ち入ってはいけないことになっていて、入り口でカメラの所持の有無を聞かれる。私はカメラを手に持っていたので、見つかってしまい、チケット売り場にカメラを預けてくるようにと指示された。エジプトに入ってから誰も信用ならんと思っていたので、あんなチケット売り場に預けたら戻ってこない気がして、私たちは一人ずつ見学して一人はカメラを持って外で待っていることにした。
内部は人がすれ違うのもやっとな細い通路がまっすぐに上り坂になって続いていた。時にはかがまないと行けないような天井の低い所もあった。
しかしやがて、通路の幅は細いままに天井がたーーーっと高くなる空間に出た。ここからまっすぐに上っていく坂は、通路と天井の高さが常に一定になっていた。つまり天井も通路と並行して斜めに登っているのだ。
両脇の壁には飾りの横線が走っているのだが、これも通路と並行して登っている。つまり、通路と天井と横線が並行しているためにまるで平面を歩いているような感覚にとらわれるのだった。それにもかかわらず、実際は坂道を上がっているのだから、体には重力がかかってくる。平面を歩いているのに重力を感じるのは、まるでピラミッドの内部にあるクフ王の墓が置いてあった玄室から、近づこうとする者を押しやろうとするファラオのパワーを受けているようにも思われる。「ピラミッドパワーだ!」一人でそうつぶやきながら一歩、一歩玄室へと向かった。
ピラミッド内部の玄室は天井の高い四角形の部屋だった。中にポーンと一つ石棺が置いてあるだけで、他には何にもない。そう、ピラミッド内部の見学は、この通路を歩いて何もないに等しいこの部屋を見て帰るだけなのだ。これでEGP100を高いと思うかどうかは、その人次第だ。「あの」ピラミッドの内部に自分が入っているという認識、しかも不思議な通路を歩けるという点で、他では味わえない体験だったことは確かだ。
別の日にここを訪れた一人の日本人男性の若者は、他にはピラミッドパワーを信望しているらしい白人の団体だけと一緒にこの玄室に入ることになったそうだ。白人の団体は、感慨深げに玄室内部を眺めた後、一人ずつ石棺に入ってファラオと同じ格好で中に横たわりそのパワーを受けようとしているらしかった。全員が終わった所で、「じゃ、俺もやっちゃおうっかなぁ」とその青年も棺に入って寝てみた。ふむ、ピラミッドパワーかぁ。で、しばらくして棺から出てみると白人の姿は全て消えて、怒りの眼差しの警備員だけが玄室にいたというのだった。彼がこってり怒られたのは言うまでもない。「それにしても、あの白人は誰も怒られなくってズルイですよねぇ」と、彼は口をどんがらかして話してくれた。ピラミッド内部の体験は人それぞれあるらしい。
|
写真を合成して作成したため中央の男性の頭が消えてしまった。
決してあやしい写真ではない。 |
クフ王のピラミッドは東側から朝日を受けていた。朝日の当たるピラミッドを見ようと東側に回りこむと、東側墳墓群の手前にある女王のピラミッドだろうか、小さな塚に観光客が入っていっている姿が見えた。こちらは別のチケットを買わずに入れる玄室のようだ。
クフ王のとは違って、こちらはひたすら下って、最後に玄室に下りるはしごを伝って玄室に降りる。
玄室は狭いにもかかわらず、無料というためか大勢の人が見学に来ていて酸素が薄くなっているようなムッとした空気になっていた。
再び狭い通路を伝って地上に出て左手を見ると、手前からクフ王、カフラー王、メインカウラー王の3つのピラミッドが一度に見える場所だった。
手前からピラミッドのサイズがだんだん小さくなっていくのだが、遠近の感覚と相まって、一番奥のピラミッドは非常に遠くにあるように感じられた。あそこまで歩いていくの、大変だなぁと思っていたが、実はそんなに遠い所にあるわけではないのだ。
2番目のカフラー王のピラミッドまで来て、ようやくクフ王のピラミッドの全景をカメラにとらえることができた。先ほど玄室に入った女王のピラミッドが右手に見えているが、クフ王のと比べたら非常に小さい。後ろにはギザの町並みが広がっている。
ピラミッドのある場所は少し高台になっている。ここからギザの町を見るとやや眼下に見えるようになっているのだが、朝だというのにギザの町は早くもスモッグに覆われて、グレーのビニール袋に包まれたように見えた。
カイロやギザの空気の悪さといったら半端ではない。初めてカイロの町を散策した日などは、喉だけでなく目も痛くなったほどだった。こうしてピラミッドからスモッグの状況を見ていると、自分はあのスモッグから離れて清々しい所にいるような気分になった。結局、あのスモッグの中に戻らなきゃいけないんだけどね。
カフラー王のピラミッドとクフ王のピラミッドは何が違うのか。まず大きさが違う。クフ王の方が大きい。あとは上の方の部分。クフ王のピラミッドは頂上付近まで全て階段状の石しか残っておらず、頂上の石は崩れ落ちてかつての頂上の高さまでの棒が立っている。
一方のカフラー王は上の方が階段状の石が覆われている。この上の部分がピラミッドの当初の姿だったのだろう。
階段状の基礎部分があり、更にそれを多い尽くすように仕上げをされていたのだと思うと、今まで抱いていた以上に、この作業が大変だったのだろうと思われた。
カフラー王のピラミッドからメインカウラー王のピラミッドに近づいていく。
規模は一番小さいのだが、隣に王妃のピラミッドがいくつかあるだけで、砂漠以外に何もない背景が私のイメージの中のピラミッドに一番近く感じられたピラミッドだった。
ここまで徒歩で来る観光客は少なく、そこら辺に転がっている石の上には暇そうに座っているエジプト人が「このピラミッドに登りたいなら案内するよー」と誘ってきた。そもそも登る気もなかったので断ったが、クフ王のピラミッドに夜中にこっそり登って殴られたという話を聞いていただけに、この白昼のピラミッド登頂の勧誘にはびっくりした。
ここからは引き返して、いよいよスフィンクスに向かう。500mくらいの距離だ。
後頭部から見るスフィンクスは変な形だった。前から見た絵ばかり頭の中にインプットされていたので、後ろから見た姿がこんなに稚拙な物だというのは知らなかった。
スフィンクスは柵で囲まれていて、柵の中に入って見るには前部に回りこんで1箇所しかない入り口から入るしかなかった。
入り口から入ると、神殿のような作りの建物を抜けてからスフィンクスの目の前に出るようになっている。ここからは、スフィンクスのすぐ後ろにクフ王、左にカフラー王のピラミッドの3点セットが一望できる。
ここには世界中からの観光客が詰めかけていて、様々な言語が飛び交い、明るくハイテンションな世界が繰り広げられているのも、普段は地味にカイロで暮らしている私たちには楽しかった。
今年の年賀メールにふさわしいスポットを探そうと思ってピラミッドに来てみたものの、なかなかこれというアングルが見つからない。この柵の中からのアングルも今ひとつ気に入らなかったので、柵を出てスフィンクスの見つめる先に向かって歩き始めた。
少し先が一段高い所になっていて、そこでは団体ツアーの人がガイドさんから解説を受ける姿が多かった。うん、ここがいいのかもしれない。
午前8時から入って、スフィンクスまでざっと見て午前11時になった。ちょっと早いけれどお昼ご飯にしよう。昼食場所は決まっていた。スフィンクスの見つめる、その視線の先にある店。それは2階がKFC、3階がピザハットになっているビルなのだ。
エジプトではKFCやピザハットは他の食事と比べるとお高いファストフードでご馳走になる。店内にはわずかな観光客がいるだけで、3階に至っては誰もお客がいなかった。
早速、窓際に陣取って窓からスフィンクスを見た。おお、見てる、見てる。こっちを見ている。ピラミッドも3つとも視覚に入り、遠めではあるが全景が見える場所なのだった。ここは来る価値があるだろう。
景色を楽しんでいる間にも、「注文を」とウェイターの催促が激しかった。ここに来て景色だけカメラにおさめて帰ってしまう観光客もいるようで、「朝の誰もいないこの時間帯のお前達は逃さじ」というウェイターの気迫が伝わってくるようだった。
昼食後から、もう一度ピラミッド敷地内に入場し(チケットがあれば当日は何度でも出入りが可能)、今度は夜に「光と音のショー」が行われる座席のある会場に行ってみた。昼間はショーは行われないから、丁度椅子もあるし、景色もよい休憩場所になっている。
ここの前から2〜3列目あたりに座っていると、最前列に来た白人二人組みの若い女性にターバンを頭に巻いたエジプトおっちゃんが話しかけた。危なそうだなぁと私は何が起こるのかを興味深く見ていた。
「エジプトは初めてかい?」みたいな話から、おじさんが写真を撮ってあげようねと二人からカメラを預かった。無邪気な彼女達は何も疑うことなくカメラを渡した。逃げるか?いやそんなことはしなかった。ピラミッドをバックに、二人でピラミッドを腕で囲むようなポーズを取らせたり、ピラミッドに寄りかかっているようなポーズを取らせたり、いわゆるトリック写真みたいなのを次々に指示してポーズを取らせていた。二人は大喜びで、いわれるままにポーズを取り、たくさんの写真を撮ってもらったお礼を言って立ち去ろうとした。その時、おやじは「はい、じゃぁチップとして5ドル頂戴」。でたー、バクシーシだぁ。親切なローカルを装って、サービスの押し売りをしている。二人の女性はさんざん楽しんでしまった手前もあり、今までの楽しそうな笑顔を消してすっかり硬直した顔つきで5ドルを支払って立ち去った。
しばらくして、もう一組。おやじは気前のいい白人ばかりを狙っているらしく、多少の抗議や冷淡な態度を受けながらも次々と5ドルを稼いでいった。今はハイシーズンの稼ぎ時だ。この調子で1年分の食い扶持を稼いでいくつもりなのだろうか。時々ジロッとこちらを見るが、別に何も言ってこないので、かなり長い時間観察させてもらった。東洋人に声をかけないのは正解。日本人はともかく韓国人や中国人はたとえ短期旅行者としても、こうした事に関してはものすごく苦情を言うのだ。
ヨルダンのペトラ遺跡という有名な遺跡でのこと。ここでは馬やロバを使った馬車屋がたくさんいる。暇な時は御者は馬車を降りて、日陰でおしゃべりしたりして客を待っているのだが、この空の馬車を見て格好の撮影ポイントだと思い込んだ韓国人のおばちゃんがいた。
「ちょっと、あんた、ここで写真撮ってよ」と旦那らしき人に指示して、自分は馬車に乗り込んで写真をとりまくった後、何と馬車から降りて立ち去ろうとした。「ちょっと待ったー!」と慌てたのは御者だ。商売道具で勝手に写真撮影されたのに一銭ももらえないなんてひどすぎる。馬車に乗ってくれ、乗るのが嫌なら撮影に使った分だけでもちょっと払ってくれとか言っている。しかし、韓国のおばちゃんは泣く子も黙る勢いで、「あんたはねぇ、走ってなんぼの商売でしょう。走ってもいないのに金を払うわけないでしょう。ちょっと写真撮っただけじゃない。いーじゃないの、いーじゃないの。ね。もう終わりにしましょう」と言いながらさっさと立ち去ってしまった。後に残された御者は、相当ブツブツと文句を言っていた。
この記憶がピラミッドの前で蘇ってきた。東洋人を相手にしないのはマーケティングとしては正しい手法に違いない。
さて、時刻はようやく正午になろうとしていた。今日はこのまま帰るか、それとも別のピラミッドまで足を伸ばすかと考えていたが、一つ気になる場所が残っていた。ガイドブックでは地図外になるのだが、「ピラミッド・パノラマ・ポイント」というのがあるのだ。見ていると、大型観光バスがどんどんとそちらに向かっており、遠くの丘の上に人がたくさんいるのが見えた。よし、パノラマ・ポイントに行ってみよう。
パノラマ・ポイントまでは舗装道路がクネクネと上り坂で続いているので行くのは簡単だった。20分ほど歩いて、最後は舗装道路のない砂利道の斜面をよじ登ってパノラマ・ポイントに到着。
ここからは3つのピラミッドが比較的大きなサイズで全てくっきりと見える。なるほどねぇ。パノラマ・ポイントだ。その構図がカッコいいとは言えないけど、3つが全て見えるってのがポイントだろう。ここでも、トリック写真を撮ろうと必死にポーズを取っている人たちがいた。トリック写真そのものよりも、変なポーズを取っている人の方がよっぽども面白い。
ここにまで来てギザのピラミッドは堪能の域に達した。ふー、満足、満足。帰りは高台から見晴らしが良くて自分の帰る道筋がよくわかる。舗装道路を通ると無駄に迂回することになるので、まっすぐにクフ王のピラミッドに向かって歩いたら、案外楽に帰る事ができた。途中で白馬に乗った警官が2人近づいてきて、「ようこそ、エジプトへ」と挨拶をしてきた。お、観光地の警官はなかなか愛想がよろしいねぇと思っていたら、「僕たちと僅かなお金で一緒に写真を撮りたいかい?」と聞いてきたのだった。あー、もう、エジプトはどいつもこいつも腐っている。白馬に乗っていても例外ではない。
もう見るべきものは見たし帰ろうと思うが、なかなか去りがたいピラミッドだった。
大きな石の前でもう一度写真なんかを撮って、また何回もピラミッドを見上げて「はー、大きいねぇ」とため息をもらしたりもしていたが、天気も曇ってきつつあり帰ることにした。
帰りも入って来たのと同じ口から出て、坂を降りきった右手のバス停からバスに乗った。
バスの番号は357番だがアラビア文字で大きく書かれ、その下にちっちゃくちっちゃく数字で書かれている。
午後2時半過ぎのバスは、途中でサラリーマンやら買い物帰りのおばちゃんや学生を詰め込み、ぎゅうぎゅうだった。座れてよかった。中でうつらうつらと眠りながら乗ること1時間くらいだろうか。見慣れた考古学博物館のレンガ色の壁が見えてきて、タフリール広場に到着。渋滞で車が停まってしまった隙を見計らって、適当な所で降ろしてもらった。停留所じゃないと停車しないなどと堅いことを言わないのがエジプトの良さでもある。
|
|
|
|