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2007.10.25
ABCへのトレッキング第五日目
ネパール:ポカラ |
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昨日の夜にパッサンと決めた通り、朝4時に起床して4時半に出発することになった。夜明け前の漆黒の闇の中、それぞれにヘッドライトを付けて準備完了。一番気温が低くなる時間帯ということもあり、上はTシャツ、フリース、中綿、ウィンドブレーカー、下はズボン下、トレッキングパンツ、中綿パンツ。毛糸の帽子に手袋という持ってきた物を全て身に着ける重装備で外に出た。
MBCからABCまでは標高差480m。短い距離にもかかわらず標高差があるので懸念していたのだが、MBCの宿の裏手の急激な坂を上りきると少しは緩やかな傾斜に変わるので、ここで一息つける。
暗闇の中、前を歩くパッサンのヘッドライトに照らされる数歩前だけを見て歩くのでよくわからなかったが、朝5時半過ぎから徐々に明るくなってくると、目の前には今までよりも更に豪華な風景が横たわっていた。
午前5時49分にABCの入り口に到着。この時期の夜明けは午前6時くらいで、後ろに見えるアンナプルナサウスは大分明るく見え始めている。
ここからベース・キャンプまでの最後の階段を上ると空の一部がオレンジ色に染まって、今まさに夜が明けんとする所だった。
ふー、ぎりぎり間に合ったようだ。
一番最初に朝日が当たるのはアンナプルナサウスの頂上だった。全体が蒼く静まりかえった夜明け前の静寂の中に、突然そこだけ燃えるようにオレンジ色の光が灯ったように明るくなったのが始まりだった。
オレンジ色のヴェールはゆっくりゆっくりとアンナプルナを覆いつくしていくのだが、オレンジ色は20分とはもたずにそれ以降は白い光へと変化して昼間の始まりへとつながっていくのだった。
最初は宿泊施設の近くで見ていたのだが、人気があるのは裏手の丘の上だ。ネパール特有の梵字のような文字が書かれた色とりどりの旗が下がって、いかにもネパールの山という感じを出しているし、ここからの眺めがより素晴らしいということで、6時を過ぎる頃になると、宿泊していた客が起き出してこの丘につめかけた。
丘の縁まで行って向こう側をのぞきこむと、遥か下が氷河となっている。もっとも氷の上には黒い砂や砂利が覆いかぶさっているので白い氷の河という風には見えないので単なる地面だと思っていたのだが、近くにいた観光客がここは氷河なのだと教えてくれた。
よく見れば、地面と思っていたところに亀裂が走って、その中は白く見えている。柵などはもちろんないので、のぞきこみすぎると真っ逆さまに堕ちていくというスリル満点の場所でもある。
やがて、アンナプルナサウスの下の方まで太陽の光で白く輝き始めると、反対側の東のマチャプチャレの後ろが光り始めた。
太陽はマチャプチャレの後ろから出るのだ。
頂上の上に見えている雲が太陽の光に照らされてピンク、緑、水色などの様々な色に変化するのを見た。雨上がりに大きく空にかかる虹ではなく、こうしてプカプカと浮かんでいる雲が色々な色になるというのは初めて見た。淡い色合いがとても美しい。
太陽が上がるにつれて、雲も位置を変えて色がどんどんと移り行くさまが面白くて見入ってしまった。
夜が明けてからの各場所のスナップ。
アンナプルナサウスを展望の丘からのぞむ。
もう少し近寄った所から。
白く光る山は左からアンナプルナT、グレーシャードーム、テントピーク。アンナプルナTから流れ出している氷河は目の前まで来ている。砂や土が覆いかぶさって目の前の氷河はそう見えないが。
マチャプチャレをのぞむ。
MBC方面からあがってくる斜面。右上の尖ったのがマチャプチャレ。
宿、テラス、洗濯物干し場。いつものゲストハウスの設備も背景がゴージャスだとまるで別世界に感じる。
整理してみると、西側はこんな眺めになる。左からアンナプルナサウス、真ん中辺りより少し左側で扇のようになっているのはアンナプルナファンかなぁ?真ん中よりもやや右がアンナプルナT、その右がグレーシャードーム、右端にピコッと突き出しているのがグレーシャードームよりは実はずっと手前にあるテントピークだろう。遠近があるので実際の高さ通りに並んでいるわけではないが、一番高いのはアンナプルナTで8091mだそうだ。その他も軒並み7000m台、テントピークのみ5663mである。
それにしても錚々たる顔ぶれだ。南米ボリビアの首都ラ・パスから車で5300mまでドライブして、そこから100mだけ足でのぼって5400mの地点から向かいの6088mのワイナ・ポトシという山を見た時はとても感動したのだったが、今は4130mの地点から7000、8000m級の山々を1つのみならずいくつも一度に見ている。やっぱりネパールは世界に冠したトレッキング立国だけある。世界中にこんなに高く地球に皺が寄った場所は他にはないのだから、ここに来てこそトレッキング冥利に尽きるってもんだ。
アンナプルナサウスから左に目を向けると、名前も付いていない山が手前に見えていて、自分から立っている場所からは落ち込んだ氷河を越えるわけでもなく、何となく目で見えている斜面をワーッと駆け上がったら頂上まで行けそうな錯覚にとらわれる。ってことは、この斜面がどれだけ急に立ち上がっているかということでもあるんじゃないだろうか。
更に左に目を移していくと、アンナプルナと相対するマチャプチャレのある東側を向くことになる。1枚目の写真で右端に写っているグランドキャニオンのようにウネッた茶色い岩壁の続きはこういう風に見えた。右端でとんがっているのがマチャプチャレである。この尖がった形が魚の尾っぽに見えることからFish
Tailというニックネームで親しまれているんだそうだ。外国人トレッカーにはフィッシュテールの名前の方が馴染みがあるみたいだ。
とまぁ360度どこに目を移しても「私は本当によくやった!」という風景に囲まれている。このトレッキングに際してABC行きを勧めてくれたOn
the globeという新婚カップルの旦那さんであるトシオさんの熱意に深く感謝したのだった。
それにしても、ここの山々の姿もさることながら空に浮かぶ雲が非常に面白かった。こういう綿のように周囲がもやもやっとちぎれた繭玉のような雲は南米パタゴニアのパイネ国立公園のトーレス・デル・パイネ近くで見た(雲の写真はSketch「パイネ国立公園第2日目」参照)。パイネ国立公園は緯度が高い場所にあるので山は低くとも上空の気温はかなり低いはずで、ここと同じような気温になるので同じように面白い雲が見られたのだろう。この日見られた面白い雲の写真を紹介したい。
最初はアンナプルナTの上空に発生した雲。最初はくらげのようだったが次第にUFO型に変化。
お次はフィッシュ・テールのニックネームで親しまれるマチャプチャレの左手に出たヒラメ型の雲。「フィッシュ・テールだけに!」と白人も大喜びだった。
魚の雲は仲間を呼び集めてくっつきあって、やがては大きな雲に成長してひらりひらりと東の空を埋め尽くした。この雲の様子も迫力があった。
同じ場所で10分後。
アンナプルナTを中心にアンナプルナサウスとグレーシャードームに向かって大きく広がった雲。朝の段階では、この西側の空は東側に比べると空の色が黒ずんで暗く宇宙的だ。この空に巨大に、しかし繊細に広がる雲は端の部分が緑がかって幻想的だった。
ひとしきり景色を楽しんだ後は、今回のサブタイトルというか夫の野望である「ヒマラヤでキリマンジャロ企画」の最終撮影だ。キリマンジャロはアフリカのタンザニアにあるのだがタンザニアよりも経済が発達しているケニアでおいしいキリマンジャロコーヒーを手に入れることができた。これをネパールのここまで持ってきたのも「ヒマラヤでキリマンジャロ!」と言いながらコーヒーが飲みたいという一念のなしうる業である。
まずはアンナプルナサウスをバックに悦に入る図。
そして「ヒマラヤ山脈のマチャプチャレをバックに繭雲とキリマンジャロを飲む私」。
私たちがそんな事をしているうちに、パッサンとバラットが散策から戻ってきた。この人たちは思い荷物を担いでここまで上がってきたにもかかわらず、尚も散策するパワーが残っている。やっぱり並ではない。
パッサンは手にとても美しいコバルトブルーの小石を持っていた。チョークのようにもろく崩れて文字などを書くこともできるので、近所の子供のお土産に持って帰るんだそうだ。時々はとても固くて美しい石に出会うこともあり、そういうのを下に持ち帰って宝石商に見せると、時には思わぬ収入になったこともあるので今日も散策したのだが、あまり成果がでなかったようだ。
朝6時頃到着して、雲が出て辺りが真っ白になってしまった11時半までは夢中で景色を楽しんだ。11時半には全く何も見えない状態。あんなに晴れていたのに、山の天気は変わりやすい。
昼食を摂って、シャワーを浴びて、洗濯もして干して。あとはパッサンや他の観光客とおしゃべりの時間だ。それにしても寒い。歩いている時と違ってじっと座っていると室内なのにとても寒い。Tシャツ、長袖の薄い綿ジャージシャツ、フリース、中綿ジャケット、ウィンドブレーカーを上に着て、下はズボン下、トレッキングパンツ、中綿パンツ、靴下2足重ね履きして、毛糸の帽子を被ってようやく寒くなくなった。
夕方になってマチャプチャレに当たる夕日を期待していたのだが、この日は夕方になっても晴れず、昨日に引き続きマチャプチャレの夕日を見ることはできなかった。
その代わりに満月に近い明るい月なので夜晴れたら夜の山が楽しめるというのがダイニングでの専らの話題だった。夜の9時にはベッドに入ってうつらうつらしていた私は、夜中の0時過ぎにはたと目が覚めた。外に出てみると、噂どおりの強い月明かりであたりの山の雪が銀色に光って見えた。おおー、これも素晴らしい。こんな時間にもかかわらず、ネパール人のトレッキング客の若者たちと、カメラマンらしいヨーロピアンの男性が起きて撮影。私もこごえてかじかむ手を温めながら撮影してみた。
朝日、昼の景色、月夜の景色。これでマチャプチャレに当たる夕日を見られたら完璧だった。また、ここに来いってことでしょうかねぇ。
そうそう、ここの宿代はツイン共同シャワー・トイレで一部屋NRS200、別途ダイニングのヒーターチャージが一人NRS70(=US$1.06)だった。 この日の食事については「本日の献立2007年10月25日」をご覧ください。
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