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2006.01.03
ウプサラ他氷河クルーズ |
アルゼンチン:エル・カラファテ |
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エル・カラファテ発の氷河ツアーは、大きく2つある。一つは、我々が1月1日に行ったペリト・モレノ氷河を訪れるツアーであり、もう一つが今日訪れるクルーズのツアーだ。
船会社のオフィスで申し込みを行った所、地図を使ってルートを説明してくれた。
ツアーはエル・カラファテからバスでプエルト・バンデラに行き、船に乗り換える(バス代金は別途かかる)。プエルト・バンデラからノルテ水道Brazo
Norteを通って、ウプサラ氷河を船から見て、そこから戻ってオネージ湖付近で下船。オネージ湖までは徒歩で行き、そこで昼食。オネージ湖の向こうにオネージ氷河Gl.Onelliとアガシス氷河Gl.Agassizも見えるそうだ。上陸した所に徒歩で戻り、再び船に乗ってセコ氷河を船から見物し、スペガッツィーニ氷河を船から見物して、プエルト・バンデラに戻ってくるというコース。
これはいわばフルコースなのだが、ウプサラ氷河だけを訪れるツアーも用意されている。価格は聞かなかったが、ウプサラだけの方が当然安い。まぁ、どうせならということで、フルコースの氷河ツアーを申し込むことにした。因みに、ここまでの説明は、全部英語でやりとりできる。南米の他の地域に比べると、エル・カラファテはとびっきり英語が話せる人の率が高い気がする。
後で聞いた話なのだが、この時点のアルゼンチンの大統領はエル・カラファテのある州の出身なのだそうだ。それ故に、この州には潤沢に資金が供給され、町はピカピカ、人材も取り揃えているということになっているらしい。確かに、知名度でいったら上のチリのパイネ国立公園のお膝元の町、プエルト・ナタレスは、エル・カラファテと比べると、悲しいほどお寒い町の様子なのである。チリとアルゼンチンの国力の差なのか、それとも国民のセンスの問題なのかと色々と考えていたが、この話を聞いて納得した。
日本でもよくあるが、政治家が故郷に金を引っ張ってくるというのは、とかく醜聞として伝わる。この話を教えてくれた人も、眉根を寄せがちに話してくれた。しかし、観光客としてこうした地域を訪れる場合、政治家が引っ張ったお金だろうと何だろうと、町が洒落ているのは歓迎だ。英語のできる人材を置いてくれるのも助かる。こうしたインフラが整って、世界的にもパイネを抜く人気の観光地になるのであれば、政治家の政策もあながち間違いではないことになるだろう。いらん道路を作っているよりは、よっぽど健全だ。
ツアー代金は、港であるプエルト・バンデラからクルージング料金でA$175(≒US$58.33、昼食など飲食は含まない)、エル・カラファテの宿からプエルト・バンデラの往復送迎代金はA$18(≒US$6)、ロス・グラシアレス国立公園入園料金がA$30(≒US$10)、合計A$223(≒US$74.33)となる。
ツアーは前日にしか申し込めないということなので、3日に行こうと思っていた我々は2日に申し込みに行った。この時、藤旅館という日本人宿に宿泊していたのだが、この宿は送迎のピックアップのリストに入っていないと言われ、朝7時に船会社のオフィスまで徒歩30分かけて行くことになってしまった。宿に戻ってから、宿の奥さんに言うと、宿で申し込めば、同じ値段で近くの旅行代理店に迎えに来てくれて、しかも朝食のサービスが付くという。ああ、なぜ相談しなかったのかなぁ。悔やまれる所である。
1日のペリト・モレノ氷河ツアーで唯一の失敗点と言えば、昼食だった。今回は、ぬかりなく旅館の奥さんにおにぎり弁当の注文を出しておいた。朝早いにもかかわらず、奥さんが握ってくれた、ほかほかのおにぎりを持って、朝6時半、ツアーのオフィスに向かって歩き出した。
オフィスでバスを待っている人は案外多い。町の急速な拡大でツアー会社のホテルリストが間に合わないのだろうか。それにしても、もっと近い場所を指定してくれても良さそうなのだが、船を持っている会社だけに、そこは高飛車な態度だったのかもしれない。
7時過ぎにオフィスを出たバスは、ホテルを丹念に回って客を拾い、50キロ離れた港に到着する頃には8時半となっていた。ここで乗船する前に、国立公園の入園料金を支払うことになっている。その領収書と船のチケットを見せて乗船する。
船の中には、イタリア系のカフェチェーンSegafredが入っていた。この辺りも洒落ている。今日は天気も悪いし、1日のペリト・モレノ観光のような興奮にはならないだろう。コーヒーでも飲んで、船旅を楽しむことにした。天気悪さの悔し紛れに言うわけではないが、氷河というと今日の天気の方がイメージにピッタリだ。陰鬱で低く垂れ込める雲、鉛色の湖。晴天と曇天の両方を楽しめたのは、逆によかったんじゃないか、と超前向きな夫がコーヒーをすすりながら言った。ま、そいいう事にしておくか。
船内の案内放送は、英語とスペイン語だった。それによると、今日は少し進路を変えて、先にスペガッツィーニに行き、オネージ湖畔で昼食、最後にウプサラを周るということだった。
最初の見所は、セコ氷河Gl.Seco
。イタリアワイン好きなどならわかると思うが、セコはスペイン語でもイタリア語でも「乾いた」の意で英語のドライに相当する。白ワインなどで使われると辛口という意味になるが、この氷河は辛いわけでなく、ドライの方だ。そもそも湖に流れ出していた氷河が、今は後退して湖にまでは至らず、山の中腹で止まっているという氷河である。地球の温暖化に伴い、後退する氷河は多いだろうが、名前自体がセコというのは、かなり以前から後退しているということだろうか。
そして、次の見所が、ロス・グアシアレス国立公園の氷河の中では、先端部の高さが最高(パンフレットには湖面から110mとある)のスペガッツィーニ氷河だった。
あいにくの天気にもかかわらず、スペガッツィーニは近づくほどに水色であることがわかった。
ペリト・モレノと違うのは、途中に荒々しい黒い部分が混じっていること。スペガッツィーニ氷河は、後方が二手に分かれている。それぞれの氷河が岩肌を削って巻き込んだ黒い氷が、河が合体した時に、今見ているように中央に黒い部分となって現れてくるのだ。近くで見ると、二つの流れがぶつかったと思われる部分は、巨大な力と力がゆっくりと押し合った結果、氷の板が折れ曲がり、バラの花びらのような氷の芸術になっている。いったい何年かかってこういう造詣になったのか、計り知れない時間と力の大きさに、圧倒的な重さを感じる氷だった。
天気が良くないにもかかわらず、ペリト・モレノよりも水色に見える部分もあるので氷の密度はこちらの方が高いのかもしれない。これで晴天だったら、一体どんな色に輝くのだろうか、曇天の下では知りようもない質問が頭をかすめた。
スペガッツィーニに別れを告げて来た道を引き返し、船が停泊したのはオネージ湖まで800mの地点だった。雨がぱらつき始める中、ここで下船して、昼食休憩となった。
英語のチームとスペイン語のチームにわかれて、ガイドとともにオネージ湖まで歩きますという説明だったが、他の船の観光客もおり、どのチームなんだかよくわからなかったので、勝手に歩き出した。周りを見ると、みんな勝手に歩いている。
オネージ湖までの道のりは、パタゴニアによく見られる木が茂る林の中を歩く。斜めに生えている木や、バッキリと折れて生々しい幹をむき出しにしている木、倒れて久しいのか既に苔むしている木があり、この地方の風がいかに強いかを物語っているような林だった。途中にレストランがあり、そこで食事もできるのだが、今日はおにぎり持参なので、そのまま湖に向かった。
湖は砂利混じりの湖畔に取り囲まれ、氷塊が浮かび、向こうに氷河が見えた。今日の空の下では、とても寒々しい風景だが、晴天下ならば氷塊が水色に見えて美しいに違いない。また、暑い日差しの中、冷たい水に手や足を浸したらどんなに気持ちがいいだろう。しかし、今日は小雨がぱらつくので、木陰の下でおにぎりをぱくついた。こんな陽気をものともせずに、サンドイッチ、チーズ、ワインのランチを広げて多いにはしゃいでいるイタリア人一家は、尊敬に値すると思った。
まぁ、我々も気を取り直して、オネージ湖に浮かぶ氷の塊を拾ってきて、こんな写真を撮ったりして遊んでみたが、それにしても限界がある。湖左手の遊歩道を伝って、氷河の近くに行く元気もなく、まだ時間があったが、早々に船に戻って温まることにした。
15時、船は最後の見所、ウプサラ氷河に向かって再び動き出した。程なく前方に大きな氷の塊が見えてきた。これまでに、見たことがないほど大きな塊である。近づくにつれて、氷塊の数はどんどん増えてきて、その大きさもちょっとした一戸建ての家くらいから、ビルほどもある大きなものもあることがわかってきた。曇天、雨天と萎みがちだった船内の観光客に、がぜんやる気が起こってきた。「おおー、凄い」と言いながら、甲板の寒さも厭わず、多くの人がカメラを手に巨大な氷塊に見入った。
氷の色は、白っぽかったり水色が濃かったり、黒っぽかったりと様々で、色も形も一様でない所が面白い。やがて、誰もの目を引く奇怪な氷が見えてきた。今日のハイライトだったと言える。きのこのように丸みをおびた形、大きく開いた気泡の後、そして濃淡の激しい色合い。どの要素をとっても、浮かんでいる氷の中で、一番目を引くものだった。
この氷の裏手に船が回ると、グロテスクな感じが減って、光線の加減だろう、もっと水色に美しく見えた。近くを通ると見上げる程の大きさだ。今回のツアーで、一番驚きの光景だった。
やがてウプサラ氷河が見えてきた。ガイドブックによるとウプサラ氷河はロス・グラシアレス国立公園内で最大規模だということで、河の全長といい、先端部の幅といいペリト・モレノを上回っているそうだ。しかし、船はあまり近くまでは寄らない。従って、観光している我々としては、もっと近くで見られるペリト・モレノの方が、迫力があるように感じられてしまう。最大だといわれても、ツアーでは氷河自体を見ても今一つピンとこないのである。
とはいえ、ここに至るまでの大きな氷塊を考えると、やはりウプサラの規模は物凄いのだろうと想像できる。
こうして、本日最後の見所を堪能した後、再び氷塊を縫ってウプサラ水道を進み、帰途についた。帰りの船の中では、氷河を使ったウィスキーなんてものも販売しているので、記念に飲んでみた。
氷河に囲まれて、何万年も前の氷河の浮かぶウィスキーを飲むというのは、天気にかかわらず最高の気分になれる。
こうして長い船旅を終えて、1時間ほどバスに揺られ宿に到着したのは午後8時半だった。
天気がねぇ。天気が悪いとこのツアーの魅力は半減すると言ってもいい。でも、行く価値なしかと言えばそんなことはない。エル・カラファテになんてそうそう来るもんじゃなし。ペリト・モレノとこちらのツアー、どちらも行っておいて損はないと思った。氷河を楽しむのならペリト・モレノ、氷塊を楽しむならウプサラのツアーということになるだろう。ま、1つだけならペリト・モレノの方を勧めるだろうな。
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